本州中央部の日本海沿岸地方。古代の北陸道の地域で〈ほくろく〉,〈越(こし)の国〉,〈北国(ほつこく)〉とも呼ばれた。福井,石川,富山,新潟の4県を指し,北陸3県という場合には新潟県を除く。背後に白山,立山連峰の急峻な山地を擁し,九頭竜(くずりゆう)川,手取川,庄川,神通川,黒部川など日本海へ流下する河川はいずれも急流で,下流部に扇状地状の沖積平野を形成している。砺波平野は散村が卓越する平野として有名であり,信濃川によって形成された越後(新潟)平野は近世以降の新田開発地が多く,千町歩地主が多く生まれた豪農の地でもある。
農業はチューリップの球根栽培や砂丘地の果樹栽培を除けば,水稲単作農業が圃場整備と機械化の進展にともなって兼業型省力経営で進められている。大陸棚の発達に恵まれない北陸地方の漁業は,一部の定置網漁業適地を除くと一年中の漁業操業は困難であった。そのため北海道,北洋への出漁が盛んに営まれている。それを容易にしたのが,北前船による北方との交流が古くからあったことである。小浜,三国,輪島,伏木(ふしき),寺泊,小木(おぎ)などは北前船の基地として発達した港町である。工業は東海地方と比べれば低調であるが,畿内に近いため,古くから漆器(輪島市,加賀市の旧山中町),九谷焼(能美市の旧寺井町など),絹織物(福井・石川両県)などが発達し,さらに明治以降,人絹,合成繊維(福井・石川両県),めがね枠(鯖江市)など多彩な工業が展開してきた。大正以降発展したものに中央高地の豊富な水力を利用した富山・高岡両市の紡績,化学,金属工業,新潟市の機械,金属,化学工業などがあり,これらの地域は1964年新産業都市に指定された。また68年開港の富山新港(射水市の旧新湊市)を中心とする伏木富山港が86年特定重要港湾に指定され,沿岸の富山,高岡,旧新湊の各市は臨海工業都市として発展している。一方,福井県若狭湾沿岸一帯は,1966年日本原子力発電敦賀発電所に始まる原子力発電所の基地となり,10基以上が稼働中である。
北陸地方は全国屈指の豪雪地帯で,雪つり,雪囲いなどは北陸の冬の風物詩になっているが,生活は厳しく,石川,福井,新潟の杜氏(とうじ)に代表される酒造出稼ぎ,富山の売薬行商にみられるように出稼ぎに出かける者が多かった。近年,流雪溝,消雪パイプを配備した無雪害都市づくり,あるいは雪を利用した発電など雪を克服し,利用する努力がなされている。
執筆者:溝口 常俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中部地方の日本海岸沿いの地域で、新潟、富山、石川、福井の四県域をいう。狭義では新潟県を除く三県をさす。古くは越国(こしのくに)と称した。中央高地の北麓(ほくろく)にあたり、能登(のと)半島、富山湾、若狭(わかさ)湾の出入りのあるほかは海岸砂丘が発達し、潟湖(せきこ)が多い。関東地方と近畿地方を結ぶ廊下地帯であるが、深雪地帯で最近まで交通は雪で難渋してきた。信濃(しなの)川、神通(じんづう)川など長大河川が平野を潤し、水稲単作の穀倉地帯である。江戸時代は大坂、蝦夷(えぞ)地(北海道)を結ぶ北前船(きたまえぶね)が米、水産物などを交易し、多くの港が栄えてきた。明治30年代には汽船、鉄道など海陸交通の近代化により、経済が停滞し、裏日本の呼称も生まれた。一方、水力発電による電源地帯となり、主として新潟・富山両県に重化学工業がおこり、石川・福井両県には繊維織物工業が発達した。漆器、陶磁器、和紙、絹麻織物など伝統工業も多い。新潟県は石油、天然ガスを産し、福井県は原子力発電地帯である。交通は北陸本線、信越本線、羽越本線、上越新幹線、北陸新幹線、第三セクター線、中小私鉄線のほか、関越自動車道、北陸自動車道が通じる。
[矢ヶ崎孝雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…8世紀後半から成立し増加していった荘園もその多くは畿内の貴族,寺社の占有するところであった。古くから東海道,東山道,甲州道中が通じ,京畿内との交流が盛んであったが,鎌倉時代には東山道の美濃から東海道へと通じる街道,あるいは甲斐を経て信濃や北陸地方を鎌倉につなぐ街道など,いわゆる鎌倉街道が設けられ,東国との交流も活発となった。戦国時代には甲斐の武田信玄,越後の上杉謙信,駿河の今川義元らの群雄が割拠するなか,全国統一の先鞭をつけた織田信長,それにつづく豊臣秀吉,徳川家康は尾張,三河を根拠地として活躍した。…
※「北陸地方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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