十長生(読み)じっちょうせい

改訂新版 世界大百科事典 「十長生」の意味・わかりやすい解説

十長生 (じっちょうせい)

日,水,松,鶴,亀,鹿および不老草に,山,雲,月,石,竹のうちいずれか三つを加えた10個の不老長生の象徴物をいう。長生とは中国の神仙思想によるものであって,長生図は一見蓬萊山を思わせる仙境を描いている。しかし,中国には十長生という言葉はなく,松鶴とか松竹梅のような部分的な組合せはあるが,十長生の組合せはない。朝鮮の十長生はその要素を中国の神仙思想から借用して,固有の自然崇拝の上に朝鮮独自のものに再構成したものであると考えられる。十長生のうち日,月,雲,鶴は天上界の,松,鹿,不老草,山,石,竹は地上界の,また水,亀は水界の永遠の生命あるいは不老長生のシンボルであり,長生図はこれらの象徴物によってシンボライズされた不老長生の小宇宙を表すものである。十長生の構想はおそらく神仙思想の盛んであった高麗末期に成立したと考えられ,それが新年に貼る歳画として文人の間で喜ばれたことが李穡(りしよく)の《牧隠詩藁》の歳画十長生の詩からうかがえる。十長生はとくに老人長寿を祝う吉祥図や,婚礼の際に新婦が持参する箸囊(刺繡したスプーンケース)の刺繡の模様に用いられていて,家族の長生を願う朝鮮の家族的信仰を示している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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