自動車運転処罰法が定め「進行の制御が困難な高速度で走行」や「赤信号を殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」など複数の類型を設けている。刑の上限は懲役20年で、同法の過失致死傷罪の懲役7年より重く、適用可否は厳格に判断される傾向にある。スマートフォン使用などの「ながら運転」は要件に入っていない。重大事故を受けて法改正され、2020年には、走行中の車を妨害する目的で、前方で自分の車を停止させるケースを対象に加えた。
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自動車(原動機付自転車を含む)の危険な運転行為により人を死傷させる罪。自動車運転死傷行為処罰法の第2条と第3条で規定されている。交通事故は、従来すべて業務上過失致死傷罪で処断されていたが、最高刑が5年にとどまることについて、悪質な事件の被害者(遺族)から批判の声があがり、社会的にも大きく取り上げられたことを受けて、2001年(平成13)の刑法改正により、故意に一定の危険な運転を行って人を死傷させた者に対して、暴行による傷害罪・傷害致死罪に準じた重大な犯罪と位置づけて、重い刑罰を科す本罪が定められた。その後、危険運転致死傷罪とそれに該当しない危険、悪質な運転によって死傷させた場合との刑の違いが大きいことから、危険運転致死傷罪の拡大を求める声があがり、自動車運転死傷行為処罰法が制定され、刑法から従来の危険運転致死傷罪に一部行為類型を追加して移す(2条)とともに、故意の危険運転ではないが、危険性、悪質性の高い場合をもう一つの危険運転致死傷罪として定めた(3条)。
第2条の危険運転致死傷罪は、アルコール等の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を運転する行為、制御が困難である速度で自動車を運転する行為、赤信号をことさらに無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為などを、故意で行って人を死傷させた場合で、最高刑は致死が有期刑の上限である懲役20年、致傷が15年となっている。2020年(令和2)の法改正で、いわゆるあおり運転に対処する観点から、車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為が類型として追加された。
第3条の危険運転致死傷罪は、アルコール、薬物または病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合で、最高刑は致死が懲役15年、致傷が12年である。正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転することの故意を要件とするが、実際に正常な運転が困難な状態に陥ったまま運転をすることについての故意を要しない。すなわち、本罪が成立するには、「アルコールなどのために正常な運転に支障が生じるおそれがある状態にあること」をわかっていながら運転をしていることが求められるが、その結果として「アルコールなどのために正常な運転が困難な状態になったこと」までわかっている必要はない(わからないまま運転をしていても本罪が成立する)。
[田村正博 2021年1月21日]
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