卵子提供(読み)らんしていきょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「卵子提供」の意味・わかりやすい解説

卵子提供
らんしていきょう

子どもをもつことを目的として第三者から卵子の提供を受けること、または卵子を提供すること。

沿革

1970年代末に体外受精・胚(はい)移植による子どもが世界で初めて誕生した。体外受精は、卵子と精子を母体外で受精させる方法であることから、理論上、夫婦以外の者の卵子を用いることも可能である。当初は、夫婦間の卵子と精子を用いた体外受精が行われていたが、その後、諸外国では、ターナー症候群や卵巣摘出、早発閉経、排卵障害等により、妻の卵子を用いて妊娠することができない夫婦が、第三者から卵子の提供を受けて体外受精を行うことへと適応が拡大していった。さらに、加齢により自身の卵子を用いた妊娠がむずかしい夫婦や、独身男性、同性カップルが、第三者から卵子の提供を受け、自身あるいは代理母に受精胚を移植することも行われている。

[神里彩子 2020年9月17日]

現状と課題

卵子提供による体外受精・胚移植の適応範囲が拡大するなかで、社会としてどこまで認めるべきか課題となる。また、卵子提供をする者、受ける者の条件や、誕生した子どもの法的母親は出産した女性なのか、それとも遺伝的つながりのある卵子を提供した女性なのかという法的親子関係の問題、誕生した子どもは卵子提供者の情報を取得する権利があるかという出自を知る権利の問題等もある。

 日本では、2003年(平成15)に厚生科学審議会生殖補助医療部会で、卵子提供による体外受精・胚移植を一定の条件のもとで法的に認めるとする報告書がまとめられた。しかし、現在(2020年7月時点)までに、法律指針は制定されておらず、学会等の方針で規制されている。日本産科婦人科学会では、体外受精・胚移植を夫婦間に限定し、卵子提供による体外受精・胚移植は認めない方針をとっている。他方で、不妊治療を専門とするクリニックによって結成された日本生殖補助医療標準化機関Japanese Institution for Standardizing Assisted Reproductive Technology(JISART(ジスアート))では、医学的理由で卵子提供による体外受精・胚移植が必要な夫婦に対し、一定の条件のもとで実施を認めている。

[神里彩子 2020年9月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android