翻訳|reflex
生理学用語,刺激に対する動物の最も単純な反応形式。意識とは無関係に機械的,規則的に生じる反応で,ふつう体の一部の筋肉運動として表れる。反射という概念には,生体を一種の自動反応機械とみなすという考え方が前提にあるが,このような見方はデカルトの《人間論》(1662)に始まる。〈反射reflexus〉ということばそのものが初めて使われたのは,T.ウィリスの《脳解剖学》(1664)においてであり,ウィリスは大脳皮質に反射の場を想定した。その後ホールMarshall Hall(1790-1857)の1833年の有名な実験によって反射の生理学的基盤が明らかにされた。ホールは,前肢と後肢の間で脊髄を切断したカエルの後肢を刺激すると,屈曲(ひっかき)反射が起こることを示し,これが大脳の介在しない過程であることを明らかにした。今日知られているような〈反射弓〉を介して行われる反射の生理学の全容が解明されるにあたっては,シェリントンCharles Scott Sherrington(1857-1952)およびその学派の功績に負うところが大きい。
反射には経験や学習によって後天的に形成される条件反射と生得的な無条件反射がある。ふつう反射という場合には,このうちの無条件反射のみをさすことが多い。
まばたきや屈曲反射のような,ごく単純な動作については反射によって説明できることもあるが,複雑な行動を反射の連鎖のみによって説明することは一般に困難である。例えば,ハエの摂食行動に見られるふん(吻)伸展反射は,ハエが食物の上に着地したとき,脚の先端部にある感覚毛の刺激受容によってひき起こされる明りょうな反射である。しかし,この場合の摂食行動全体を反射の連鎖と考えることはできない。食物に飛来する行動一つをとってみても,きわめて複雑な運動協調を必要とし,中枢神経系の統合を受けている。走性のようなごく単純な行動でさえ,ダンゴムシの負の光走性におけるように反射によって説明できないものがある。
動物行動学における生得的行動も刺激(リリーサー)によって解発される点では,反射と共通するが,反射が受動的な生理的過程であるのに対し,生得的行動では一つの目的を達成するために,各行動成分が順序よくまとまりをもって統合され,しかもその動機づけが生体の内部でつくられる能動的な過程であるという点で大きく異なる。言い換えれば,動作の順序や方向を決めているのは外部の刺激ではなく,内部のプログラムなのである。
執筆者:奥井 一満
反射を生理学的に定義すれば,動物が刺激を受けてこれに反応する際,中枢神経系の上位中枢の働きとは無関係に,下位中枢の働きだけにより,比較的単純で固定した刺激と反応の対応関係をもって起こるものといえる。例えば,脊髄をそれより上部の脳構造から切り離してしまったカエルでも,足先をピンセットでつまむと後肢全体を胴体に向けて折りたたむ運動が起こる。これは屈曲反射flexion reflexと呼ばれるもので,強い刺激を受けた肢を刺激源から遠ざけ,危害を免れようとする合目的的な意義をもっている。われわれが釘を踏んだ足をとっさに持ち上げるのはやはり屈曲反射で,痛いと思ってから意識的に持ち上げるのではなく,脊髄の働きにより無意識のうちに持ち上げられるのである。熱いものに触れた指をとっさに引っ込めるのも同様に屈曲反射である。それらの反射に際しては,一定の神経経路を通して刺激が反射中枢に送られ,反射中枢で形成された出力信号がさらに筋肉や腺に送られて反応を起こす。反射において信号が通る全経路を反射弓という。
身体にはきわめて多数の反射が備わっている。反応が運動となって現れる体性反射のほか,腺の分泌,血液循環などの自律機能上の反応として現れる自律反射がある。
反射中枢が脊髄にあるものを脊髄反射spinal reflexと総称し,これが数個の脊髄節(各脊椎骨と対応する短い分節)に限局している脊髄節反射と,多くの脊髄節にわたる脊髄節間反射とに分ける。脊髄節反射には上記の屈曲反射のほか,伸張反射stretch reflex(ある筋肉を引き伸ばすとその筋肉に収縮が起こる),腱反射tendon reflex(腱をたたいて筋肉を短時間引き伸ばすと起こる一種の伸張反射),交叉伸展反射crossed extension reflex(屈曲反射の起こる肢と反対側の肢が伸びる)などがある。脊髄節間反射として典型的なのはひっかき反射scratch reflexで,ネコやイヌの肩口などに刺激が加わると,後肢をあげて律動的にひっかく運動が起こる。これが純粋な反射であることは,頸髄上部を切断した動物でも起こることによって示される。また,例えば,後肢の一つに強い刺激を与えると,その肢に屈曲反射,対側の後肢に交叉伸展反射が起こるほか,同側の前肢に伸展,対側の前肢に屈曲が起こる。したがって,伸展した前後肢をつなぐ対角線を軸として動物の体が前に傾斜し,刺激を受けた後肢をさらに刺激源から遠ざける。このように,一つの肢から他の肢へと連動して反応を起こす反射性の働きは,肢間協調と呼ばれていて,脊髄節間反射の一つである。
脊髄より上位に中枢をもつ反射も多数存在する。延髄には,目の角膜を機械的に刺激すると目を閉じる瞬目反射,鼻梁(びりよう)をたたくとやはり目を閉じる鼻梁叩打(こうだ)反射,せき,くしゃみ,嚥下(えんげ)運動などを起こす反射中枢がある。延髄から中脳にかけて反射中枢のあるものとしては,頭が動いたときこれと反対方向に目を動かす前庭動眼反射や,視野の動きにつれて目を動かす視機性眼球運動がある。延髄から脊髄にかけて中枢のある反射としてよく知られているものに,緊張性迷路反射と緊張性頸反射がある。前者は頭の位置の変化に応じて,頸筋に作用して頭の位置を自動的に一定に保ったり,四肢や体幹に働いて身体の姿勢の平衡を保つように働く。後者は頸のねじれ,前後,左右への屈曲に応じて四肢の筋肉に作用し,姿勢を変える働きをもっている。例えば,首を右に向けると右前肢が伸び,左前肢が屈曲する。首を後ろへそらせると,これに伴って両手が伸びる。逆立ちをしたとき首をそらせると有効なのはこのためである。反射のほとんどは脊髄,脳幹に中枢があるが,大脳皮質を経由すると考えられる反射が二つある。一つは踏み直り反応と呼ばれるもので,目隠しした動物の手の甲に物がさわると,手首を曲げてその物の上に手がのるように自動的に手の位置を変える。他は跳び直り反応と呼ばれ,動物の3本の足を手で握って一本足で立たせ,横に押しやると一本足のまま跳んで身体の平衡を保つものである。いずれも大脳皮質が障害されると起こらなくなる。
自律反射には,口にすっぱいものを入れると唾液(だえき)の出る唾液分泌反射,頸動脈圧が上がると交感神経活動が抑えられて全身の血圧が下がる頸動脈洞反射,光の強さに応じて瞳孔の大きさを変える抗光反射などがある。消化液の分泌や胃腸の動き,排便,排尿にも反射性の働きが多く含まれている。
反射はこのように身体機能の基本的な成分であり,常時多数の反射が働いている。これらの反射は独立に働くことができるが,身体全体の働きに有効に寄与するためには相互に有機的に関連しながら働く必要がある。多数の要素的な反射を複合させて複雑な身体機能にまとめ上げる働きを,シェリントンは〈神経系の統合作用〉と呼び,これが脳の働きの重要な原理の一つであると提唱した。
反射は刺激に応じて自動的に働き,生まれつき定まった図式に従って反応を起こすのであるが,そのしくみは比較的簡単で,たとえていえば人形のからくりじかけのようなものである。あるいは機械系における単純な制御系に対応する性質をもっている。身体の成長や環境条件の変化に応じて,その動作を修正する働きは反射自体には備わっていない。近年,小脳には反射の誤動作を検出して,これを修正する適応能力を与える働きがあり,これにより反射の正確さや,多くの反射が複合して働くときの協調をはかり,反応全体の円滑さを保証する働きがあることが判明してきた。
反射は身体に備わる自動的な制御器ということができるが,常時すべての反射がフルに働いてはかえってふつごうなことが起こる。例えば,重力に対抗して体重を支える下肢の伸筋には,伸張反射がよく発達しており,この反射は立っているときには下肢の屈曲を防ぐのに有効に働くが,座位をとるときに働くとかえってふつごうであり,抑制する必要がある。屈曲反射については,逆に立位のときには抑制されたほうがよいことになる。われわれが歩くときには下肢は伸展と屈曲を繰り返すが,これに応じて屈曲反射が実際に促進されたり,あるいは逆に伸展を起こすように反応が逆転することが知られている。また,脊髄を下降する多数の信号伝送路の中には,屈曲反射を促進し伸張反射を抑制するものと,その逆の作用をするものがあることが判明している。
上述のように,身体の状況に応じて反射が修飾されるほか,われわれが自分の意志により随意的に運動を起こすとき,その運動の結果に二次的に付随して起こる反射を防ぐしくみも中枢神経系には備わっている。例えば,縦縞模様のスクリーンを目の前で一方向に急激に動かすと,その方向に向けて姿勢が反射的に変わる。一本足で立っていると,スクリーンの動く方向に倒れてしまう。静止したスクリーンの前で目を急激に動かすと,網膜の縞模様の映像は同様に動くのであるが,姿勢への影響はまったく生じない。これは,随意的に目を動かすときには,それに伴って起こる視覚的な刺激が二次的な反射を起こさぬように防ぐしくみが脳の中にあることを示している。このしくみはまだよくわかっていないが,随意運動の司令信号が上位中枢から脊髄に送られるとき,随伴発射と呼ばれる信号が同時に感覚系に送られて,運動の結果起こる感覚刺激の作用を打ち消してしまうものと推論されている。この消去学説は,われわれが目を他動的に,例えば指で押して目を動かすと外界が動いて見えるのに,自分で動かす場合には外界は静止して見えるなど,運動系と感覚系の間の相互作用一般にあてはまる重要な仮説である。
執筆者:伊藤 正男
物理学用語。波が異なる媒質との境界面にぶつかり,その一部がもとへ戻る現象。粒子線の反射は粒子線の波動性に基づいて起こる。波の波長に比べて境界面が滑らかであれば,反射の法則に従う方向に反射波が生じ,境界面の凹凸が波長と同じ程度であれば反射波はいろいろな方向に広がる。後者を乱反射といい,これに対して反射の法則に従う場合を鏡面反射という。
反射の法則には次の3項がある。(1)反射波は,入射波と境界面の法線とがつくる面,すなわち入射面の面内にある。(2)反射波は入射波と境界面の同じ側にあり,境界面の法線に関して反対の側にある。(3)入射波および反射波が境界面の法線となす角をそれぞれ入射角および反射角といい,反射角は入射角に等しい。
波のぶつかる相手が波長よりきわめて小さい微粒子,または原子や分子のとき,波の進行方向が変化する現象を散乱という。この場合,相手が結晶格子のように一定の秩序をもって整列しているなら,散乱波は相互に干渉して特定方向の入射波に対してだけ強くなる。これをブラッグ反射という。ブラッグ反射の条件は波長をλ,格子間隔をdとすると,2dsinθ=mλ(mは整数)である。ここでθは入射角の余角である。
入射波のうち反射されるのはその一部であり,残りは屈折して境界面を透過する。入射波に対する反射波の強度比を反射率reflectivity,入射波に対する透過波の強度比を透過率transmissivityという。反射は波の伝わるようすが波長に比べて急激に変化する場所で起こるので,導波管中のマイクロ波や管楽器中の音波などの場合,異なる物質との境界面でなくとも,導波路の継目から反射が起こる。導波路を伝わる波と自由空間を伝わる波との両者ともに,その伝播(でんぱ)のようすは波動に対するインピーダンス(波動インピーダンス)を用いて表され,波動インピーダンスがZ1からZ2へ変わる場所の反射率Rは,となる。例えば,自由空間を伝わる音波ではρを媒質の密度,cを音速としてZ=ρcであり,垂直入射の電磁波では,εとμとをそれぞれ媒質の誘電率と透磁率とすればである。とくに光の場合,波動インピーダンスは屈折率で決まる。屈折率n1の透明な媒質から屈折率n2の媒質へ入射角φ1で入射し,スネルの法則を満たす方向φ2へ屈折する光の反射率Rと透過率Tとは,光の電気ベクトルが入射面に平行な偏光(p偏光と呼ぶ)のとき,
また入射面に垂直な偏光(s偏光)のとき,
となる。これらの式はフレネルの公式と呼ばれる。tanφ1=n2/n1となる入射角ではRPが0となり反射光はs偏光成分のみとなる。このような入射角をブルースター角という。またn2<n1のとき,sinφ1=n2/n1となる入射角以上ではRPもRsも1となる。このような場合を全反射といい,入射した光はすべて反射される。
屈折率nGの媒質による反射を防止しようとする場合,なる屈折率の膜でその表面を覆えば,膜の厚さをdとして,nd=λ/4となる波長λの光に対して反射は0となる。このような膜を反射防止膜という。光学ガラス(nG=1.5~1.8)の場合はn=1.22~1.34の範囲に選べばよいわけであるが,実際にこのような条件を満たす適当な物質はないので,ふつうはフッ化マグネシウムMgF2(n=1.38)をnd=135nmの厚さで用いることが多い。
執筆者:三須 明
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生体に加えられた刺激が、一定の伝導経路を介して、特定の応答をおこす現象をいう。とくに、神経系を介して一定の反応が意志など高度の統合作用と関係なくおこる場合をさし、その経路を反射弓という。
動物の場合、反射の起源は単細胞生物の運動制御機構にみることができる。たとえば、ゾウリムシが異物に衝突すると、その場所に受容器電位に相当する膜電位変化が生じ、それが細胞全体に広がり、細胞全面に分布する繊毛の打つ方向を逆転させ後退する。このいわゆる逃避反応は、多くの動物が危険を知らせる刺激に対して示す逃避反射の原型と考えられる。危険から逃げるためには、瞬間的に統制のとれた行動をとる必要があり、多くの動物が速い伝導経路による逃避反射をもっている。とくに伝導速度の大きい有髄神経をもたない無脊椎(せきつい)動物では、特別に径の太い巨大繊維を介して逃避反射がおこるものが多い。穴から半分出ているミミズが、頭部を刺激されるとすばやく穴に潜る反射は、ミミズがもつ3本の巨大神経繊維のもっとも太い1本が興奮したときにおこる。このように、特定の行動をおこす運動ニューロン群の協調した活動の引き金を引くニューロンを司令ニューロンという。いろいろの動物の多くの反射が特定の司令ニューロンの活動を介しておこることが知られている。一つの反射が、それだけで終わる1回の応答で完了することも多いが、また異なる次の反射をおこすこともある。これを反射の連鎖という。反射の連鎖によって、歩行や産卵行動など、より複雑な行動が形成される。動物の体には、関節の開角や筋肉の長さ・張力など、自己の体の状態を知るための自己受容器があるが、多くの運動は、その入力による反射(自己受容反射)を介した調節を受けている。しかし、バッタの飛翔(ひしょう)においては、前翅(ぜんし)と後翅の運動の協調は、はねの実際の動きとは関係なく中枢神経系でつくられ、自己受容器からの入力は、はねを打つ頻度の調節に関係しているといわれている。
[村上 彰]
ヒト生理学における反射とは、感覚受容器から求心性神経によって伝えられた神経インパルス(インパルス。伝導性の電気的興奮)が、中枢神経内のどこかで意志とは無関係に切り替えられて遠心性神経に伝えられ、効果器にその応答が現れる現象をいう。インパルスの通過する経路を反射弓、切り替えの場所を反射中枢とよぶ。切り替え(シナプス接続)が1回だけ行われる反射を「単シナプス反射」、介在ニューロンがかかわって2回以上シナプスを変える場合を「多シナプス反射」という。反射においては、シナプスの数が多くなるほど、反射の抑制や反射の拡延などといった複雑な性質が認められる。なお、シナプスとは、2個以上のニューロン(神経細胞)が間隙(かんげき)を隔てて接触し、その間に情報伝達が行われる部位をいう。
反射は、反射中枢がどこにあるかによって、脊髄反射(せきずいはんしゃ)、延髄反射、中脳反射などに区別される。また、効果器が骨格筋である場合には体性反射とよばれ、効果器が心臓、血管、胃腸などの内臓臓器である場合には内臓反射とよばれる。反射の機構がもっとも詳しく研究されているのは脊髄反射であり、その代表的なものとして伸張反射と屈曲反射がある。
[鳥居鎮夫]
伸張反射とは、骨格筋が急速に引き伸ばされると、筋紡錘がただちに興奮して、引き伸ばされた筋が収縮する反射である。この伸張反射は、受容器が効果器である筋の中にあるため、自己受容反射または固有反射ともよばれる。また、臨床医学では、伸張反射をおこさせるために腱(けん)をたたく方法が用いられることから、腱反射の名でよばれることもある(膝蓋(しつがい)腱反射、アキレス腱反射など)。しかし、腱反射においても、その受容器は腱にはなく、筋紡錘が引き伸ばされて伸張反射がおこっているわけである。なお、腱にも伸張受容器はあるが、これが刺激された場合には、伸張反射はおこらず、筋はむしろ抑制されることとなる。
伸張反射はすべての骨格筋にみられるが、とくに重力に拮抗(きっこう)して直立姿勢を保つときに働く抗重力筋においてよく発達している(ただし、声帯筋だけは例外で、まったく伸張反射の受容器がない)。伸張反射の場合、筋紡錘は筋の長さの検出器として働いている。つまり、筋が引き伸ばされると、求心性インパルスが脊髄に送られ、伸張反射をおこしてその筋を収縮させるため、引き伸ばされた筋は元の長さに戻ることとなる。したがって、伸張反射は筋をつねに一定の長さに保つように働いているといえる。
骨格筋に存在している遠心性神経線維には、直径の太いもの(α(アルファ)線維)と細いもの(γ(ガンマ)線維)との2種類がある。α線維は筋線維に行く運動ニューロンであるが、γ線維は筋紡錘内の錘内筋線維を支配している。このため、γ線維を刺激すると錘内筋線維の両極部に収縮がおこり、中央部の張力受容器が引き伸ばされる。たとえば筋に随意収縮がおきると、γ線維もいっしょに興奮するため、求心性インパルスが脊髄に向かって発射されていく。こうした仕組みによって、骨格筋の運動は円滑に進行していくこととなる。
[鳥居鎮夫]
伸張反射が、筋を引き伸ばすと、その筋が収縮するのに対し、四肢の皮膚を強く刺激すると、それと同じ側の屈筋が収縮して、刺激から逃避する反射がおこる。これを屈曲反射(屈筋反射)という。この反射は、危害から逃れるのに役だつことから、侵害受容反射、または危害反射、防御反射などともよばれる。屈曲反射がおこるときには、屈筋が収縮するばかりでなく、その拮抗筋(伸筋)の緊張も下がる(これを拮抗性抑制という)。こうした仕組みによって身体の屈曲運動は円滑に行われるわけである。臨床医学で使われるおもな屈曲反射としては、腹壁の皮膚をこすると腹壁筋が収縮する腹壁反射、大腿(だいたい)内側の皮膚をこすると挙睾(きょこう)筋の収縮によって睾丸(こうがん)が挙上する挙睾筋反射、足底外側の皮膚をこすると足指が足底に向かって曲がる足底反射などがある。このほか、病的反射としてバビンスキー反射(バビンスキー現象)がある。これは、足底反射と同じように足底の外側をこすると、母指(親指)が逆に足の背に向かって曲がり、他の足指は広がるというものである。原因は錐体(すいたい)路の傷害である。しかし、この反射は、生後3、4か月の乳児においては生理的に認められる。
[鳥居鎮夫]
内臓にある受容器からのインパルスによって内臓に引き起こされる反射を内臓反射といい、その反射中枢は主として延髄にある。たとえば、頸(けい)動脈洞にある圧受容器が血圧の変化を検知すると、インパルスは迷走神経を介して延髄に送られ、反射的に血圧を調節する。これを頸動脈洞反射という。このほか、排尿反射、排便反射、嘔吐(おうと)反射なども内臓反射である。また、内臓からの求心性インパルスによって体性運動系に引き起こされる反射もある。たとえば、肺に分布する迷走神経求心性線維からの情報は、呼吸中枢に伝えられ、さらにそこから呼吸筋(肋間(ろっかん)筋と横隔膜筋)に送られて呼吸運動を行うなどである。逆に、体性神経求心性線維からのインパルスによって内臓に引き起こされる反射もある。光刺激によって瞳孔(どうこう)が縮小する対光反射などがこの例である。なお、目に関するいろいろな反射の中枢は中脳にある。
反射といえば、反射弓で示されるように中枢が関与するが、末梢(まっしょう)神経のなかで、一見、反射のような過程をおこすものがある。これを軸索反射という。たとえば、皮膚を刺激して血管拡張がおこる経過は、反射に似ているが真の反射ではない。これは、感覚線維の末端が枝分れして血管にも達しているため、反射中枢を介さずに末梢神経線維の軸索側枝を通って血管を拡張させるものである。
[鳥居鎮夫]
波動または粒子が性質の異なる二つの媒質の境界面に入射し、向きを変えて元の媒質に戻る現象。境界面の凹凸が波動の波長に比べて十分小さい場合の反射を正反射または鏡面反射、波長と同程度またはそれ以上の場合の反射を乱反射または拡散反射という。
電波、光波、X線などの電磁波が正反射する場合、反射波の進行方向OA′は、境界面の法線HOと入射波の進行方向OAを含む面(入射面)内にあり、AOとA′OはHOの反対側で、かつ∠AOH(入射角)と∠A′OH(反射角)は等しい(
参照)。この関係を反射の法則という。乱反射の場合は正反射せず、いろいろな方向に反射する。電磁波のように波の振動方向が伝搬方向に垂直な横波が0度以外の入射角で境界面に入射する場合は、 の紙面内で振動する波と、紙面に垂直に振動する波とではようすが異なり、反射波の振幅の大きさに相違が生じる。自然光を入射した場合、反射光は部分的に偏光する。音波のような縦波では、そのまま反射する波については反射の法則が成立する。しかし、入射波が横波や表面波に変換する場合は反射の法則が成立しない。粒子では、境界面での反射が完全に弾性的に行われるとき反射の法則が成立する。光が色紙で反射する場合のように反射率が波長によって異なる反射を選択反射という。金属のように吸収が大きい面で電磁波が反射する場合は、一般に反射率が大きい。また結晶のように周期的な構造をもつ面でこの構造と同程度の波長をもつ、たとえばX線が反射する場合は、いわゆるブラッグの反射がおこり、やはり反射波の強度が強くなる。[田中俊一]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…特別な形の運動として,外眼筋の働きで視線をかえる眼球運動や,顔面の表情筋による表情の変化などがある。これらの運動を可能にしている骨格筋はすべて神経の支配を受けているが,大脳の意志に基づく随意運動と,無意識に自動的に生ずる反射運動に分けることもある。
[運動のメカニズム]
(1)関節 身体各部位の位置の変化は,筋収縮により関節を軸とした回転運動に基づく。…
…後根繊維は身体のいろいろの部分からの感覚を灰白質にある神経細胞に伝える。脊髄に伝えられた感覚は,前角9層の運動細胞によって反射を行う経路(反射弓)や上位の中枢に伝える経路(脊髄上行路)に接続する。
[反射回路]
脊髄の反射のおもなものとして,伸張反射と屈曲反射がある。…
…上丘からは動眼神経を出す動眼神経核に接続があるので,これらの経路の働きにより視野の中に入ってきた一つの物体に目を向け(注視し),また眼球を動かして他の物体を注視することができる。上丘はまた視覚を介する反射の中継核ともなっている。(1)光反射 これは目に入ってきた光の量を調節する反射である。…
※「反射」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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