反粒子(読み)はんりゅうし(英語表記)antiparticle

翻訳|antiparticle

精選版 日本国語大辞典 「反粒子」の意味・読み・例文・類語

はん‐りゅうし ‥リフシ【反粒子】

〘名〙 質量などの物理量は等しいが、電荷や磁気モーメントなどの符号が反対で、普通の素粒子と対をなす粒子。光子と中性π(パイ)中間子以外のすべての粒子に存在すると考えられている。粒子と衝突すると、両質量は瞬時に消滅してエネルギーに転化する。〔世界を変える現代物理(1963)〕

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デジタル大辞泉 「反粒子」の意味・読み・例文・類語

はん‐りゅうし〔‐リフシ〕【反粒子】

ある素粒子と、質量などの物理量が同じで、電荷磁気モーメントの符号が逆の素粒子。陽電子反陽子反中性子など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「反粒子」の意味・わかりやすい解説

反粒子
はんりゅうし
antiparticle

相対性理論要請に従う量子論(場の量子論)においては、素粒子には質量が等しく、電荷などの素粒子を特徴づけている量子数が異符号である粒子の存在が予言される。これを反粒子という。たとえば電子に対し陽電子が、陽子に対し反陽子がこれにあたる。また電荷などの量子数がゼロの粒子は、それ自身が反粒子であってもよい。光子がこの例である。

 相対性理論によれば、エネルギーE、運動量P、質量mの粒子にはE2c2P2m2c4の関係がある。ここでc光速を表す。量子論によれば粒子は波動でもある。相対論的波動方程式を解くと、E=(c2P2m2c4)1/2の解と同時に E=-(c2P2m2c4)1/2の解が存在する。負エネルギーの解が存在すると、エネルギーを放出していくらでも低いエネルギーの状態に粒子は遷移していけるので、安定な物質世界が得られない。場の量子論においては、正エネルギーの解は粒子をつくる演算子、負エネルギーの解は反粒子を消す演算子と再解釈して矛盾のない理論を建設する。これからもわかるように、粒子をつくることと反粒子を消すことが同じ量子数の変化を与えるので、粒子と反粒子はまったく逆の量子数をもつことになる。したがって真空にエネルギーを集中すれば粒子・反粒子が対(つい)生成し、また逆に粒子と反粒子はエネルギーのみを残して対消滅できる。場の量子論の要請によれば、粒子・反粒子の質量は等しく、不安定な粒子であればその寿命も等しい。

益川敏英

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改訂新版 世界大百科事典 「反粒子」の意味・わかりやすい解説

反粒子 (はんりゅうし)
antiparticle

すべての粒子に対しその反粒子が存在する。電子の反粒子は陽電子であり,陽電子の反粒子が電子である。陽子の反粒子は反陽子であり,正電荷のπ⁺中間子と負電荷のπ⁻とは互いに反粒子である。中性粒子の中には反粒子が自分自身であるものがあり,光子やπ0中間子はその例である。しかし中性K0中間子とその反粒子K0は別のものである。クォークに対しても反クォークが存在する。

 粒子と反粒子とは,質量,スピンアイソスピン,寿命などの性質はまったく同じであり,電荷,粒子数(質量数),ストレンジネスなどの加算的量子数は,大きさが等しく逆符号である。したがって粒子と反粒子が合体したとき,系の量子数は真空と同じく0となる。すなわち両者は衝突して消滅し,残されたエネルギーが軽い粒子(光子,中間子など)となって出ていく。逆に十分なエネルギーが与えられれば,粒子と反粒子の対がつくり出される。高エネルギーの電子と陽電子を正面衝突させて消滅させ,そのエネルギーで粒子・反粒子対をつくる実験が,新しい粒子を見いだす有力な方法として用いられている。また陽子・反陽子衝突の実験も行われている。

 場の量子論によれば,粒子は正の振動数をもつ波動に対応し,反粒子は負の振動数をもつ波動に対応する。したがって時間反転(時間の符号を変えること)が可能であるためには両者が存在しなければならない。ミンコフスキー時空で空間を横軸に,時間を縦軸にとって現象を記述するとき,粒子の運動は下方から上方に進む線で表され,反粒子は上から下へ向かう線で表される。上に進む線が1点で衝突し,方向を変えるのは粒子の散乱であるが,1点で衝突し方向を逆転して下へ進むという現象は粒子・反粒子の消滅である。また上から下に向かう線が1点で曲がり上に進むのは粒子・反粒子対の生成である。

 粒子と反粒子とは同じ性質をもつので,物質の電子を陽電子でおきかえ,陽子を反陽子に,そのほかすべての粒子をその反粒子でおきかえた反物質が考えられる。反物質と物質が出会えば,激しく反応して消滅する。宇宙の遠方には反物質でできた世界が存在する可能性もある。宇宙のどこかに高等生物が存在し,そこと電話連絡がとれたとする。彼らが物質でできているか,反物質であるかを判定することができるだろうか。判定不能であるとき,物理は粒子・反粒子共役変換で不変であるという。粒子と反粒子はまったく区別がつかないのである。実際のところ粒子・反粒子変換の不変性は,崩壊現象などの弱い相互作用では成り立たないことが明らかとなった。例えば中性子はβ崩壊の際にスピンの向きと反対の方向に電子を多く放出するが,反中性子はスピンの方向に陽電子を出すのである。これは弱い相互作用の中に,反粒子変換で符号を変えるものと変えないものとが共存しているためである。
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百科事典マイペディア 「反粒子」の意味・わかりやすい解説

反粒子【はんりゅうし】

ある素粒子と質量は同じだが,電荷,磁気モーメントストレンジネス等の符号がすべて逆で絶対値が等しい素粒子。場の量子論によればすべての粒子が反粒子をもつ(粒子と反粒子の対応を荷電共役変換という)が,光子と中性π中間子は反粒子ともとの粒子が同じで,これらは電磁場と相互作用をしない。反粒子は常に粒子と対になって生成し,また粒子と合体すると崩壊してγ線(電子の場合)またはπ中間子(核子の場合)になるが,その際エネルギー(質量も含む)保存の法則が厳密に成立する。最初に発見された反粒子は反電子つまり陽電子。→反物質
→関連項目空孔理論K中間子バリオン反中性子反陽子Bファクトリーレプトン

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化学辞典 第2版 「反粒子」の解説

反粒子
ハンリュウシ
antiparticle

電荷と内部量子数(レプトン数,バリオン数,ストレンジネス,チャームなど),磁気モーメント(をもつ粒子の場合)が通常の粒子と反対符号の素粒子(たとえば反クオーク,陽電子,反ニュートリノ)と,それらからなる粒子(たとえば反陽子,反中性子)など.質量,電荷量はまったく同一である.一般に,反ニュートリノのようにそれぞれの粒子の記号にバーを付けて表す.ただし,陽電子は普通,e と表す.反粒子の存在はP.A.M. Dirac(ケンブリッジ大学)の相対論的量子論(1928年)によって予言されていた.粒子と反粒子が接触すれば対消滅して,質量mとエネルギーEは等価

(Emc 2cは光速)
であるから,mに相当するエネルギーの光子が2個放出される.逆に粒子-反粒子対分の質量にあたるエネルギーを供給すれば,対生成が起こる.β 崩壊は

np + e

で,放出されるニュートリノは反ニュートリノである.バリオンの陽子,中性子は保存されているが,e のレプトン数は1なので,放出されるニュートリノはレプトン数-1の反ニュートリノでなければならない.β 崩壊では,逆に陽電子のレプトン数が-1であるから,+1のニュートリノが放出される.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「反粒子」の意味・わかりやすい解説

反粒子
はんりゅうし
antiparticle

ある素粒子と同じ質量,スピン,寿命をもち,加法的内部量子数の符号が逆である粒子をその素粒子の反粒子という。ただし加法的内部量子数とは,電荷,バリオン数,レプトン数,ストレンジネス,アイソスピンの第三成分,チャームなどをさす。たとえば,電子,陽子,K+ 中間子,D+ 粒子の反粒子はそれぞれ,陽電子,反陽子,K- 中間子,D- 粒子である。光子,π0 中間子,ψ 粒子のようにそれ自身が反粒子に等しい素粒子は加法的内部量子数をもたない。反粒子の存在は,ディラック方程式の負エネルギー解の困難を除くため提案された空孔理論によって予言された。空孔理論では,真空はすべての負エネルギー準位が電子によって満たされている状態で,負エネルギー準位の電子が正エネルギーに遷移したあとに真空にできた空孔が電子の反粒子すなわち陽電子と解釈された。場の量子論では負エネルギー状態を問題にすることなく反粒子の存在を論じることができる。

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知恵蔵 「反粒子」の解説

反粒子

ある粒子に対して、質量や寿命は同じだが、電荷など、内なる性質(内部量子数)の正負が逆の粒子をいう。電子に対する陽電子、陽子に対する反陽子、中性子に対する反中性子などがある。光から粒子と反粒子の対が生まれたり(対生成)、粒子と反粒子が合体して光になったり(対消滅)する。粒子と反粒子が同等かどうかはCP対称性の破れにつながる。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の反粒子の言及

【素粒子】より

…このように物理学が対象とした万物が原子からなり,その原子がすべてこの3種類の小さな粒子(陽子,中性子,電子)でできているとすれば,これらの小さな粒子こそ,もっとも基本的なものであり,このためこれらの粒子は自然を構成する素元的な粒子という意味で〈素粒子〉と呼ばれるに至ったのである。第2次世界大戦前までに,この3種類の粒子のほかにも,光子(フォトン),中性微子(ニュートリノ),電子の反粒子である陽電子などが素粒子の仲間に加えられ,素粒子の種類も増えていったのであるが,素粒子の存在が明らかになったことでミクロの世界の探究は一段落し,素粒子がミクロの世界の主役となった。 第2次大戦後は宇宙線研究の進歩や加速器の発達もあって続々と新しい素粒子が発見され,現在ではその数は何百にも達している。…

※「反粒子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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