取り調べの可視化(読み)とりしらべのかしか

知恵蔵 「取り調べの可視化」の解説

取り調べの可視化

捜査機関による取り調べを録音録画し、行きすぎた捜査や冤罪を防ぐため後からチェックできるようにすること。日本弁護士連合会が導入を強く求めてきた。富山県で無実の男性が虚偽自白で刑に服した事件や、鹿児島県議選をめぐる選挙違反事件で被告12人全員が無罪となったことをきっかけに、一段と活発に議論されている。 最高検は2006年夏から、一部の事件の取り調べで録音・録画の試行を始めた。09年に裁判員制度が始まるのを見据え、裁判員に分かりやすく、かつ迅速に捜査段階の自白が任意だったことを立証するための「武器」として有効だと考えた。 東京地検が容疑者の自白シーンを記録したDVDが、07年5月に初めて裁判の証拠として採用され、東京地裁の法廷で再生された。スクリーンには、容疑者の上半身の大きな映像と、容疑者と検察官が机を挟んで向き合う状況を見下ろした小さな映像が並んだ。 「あなたは共犯としてかかわっていたのですか」「間違いありません」 「どうして認めたの」「ずっと悩んでいましたけど、共犯者は黙秘していると聞いたので、自分の口から言わないといけないと思いました」 こうしたやりとりが10分ほど再生された。映像の脇には、録画した日時も記録されていた。 東京地検で始まった試行は全国の地検に広がっている。日本弁護士連合会は「一歩前進」と受け止めているが、検察にとって都合のいい部分だけを切り取って証拠にする恐れがあるため、あくまでも警察を含めた取り調べの全過程を可視化するよう求めている。欧米アジアの主な国でも実施されていることから、「世界的潮流だ」とも訴えている。 しかし、検察は全面可視化の検討はしていない。警察も「容疑者が真相を話さないなど捜査がしにくくなる」と主張して全面可視化には反対しているが、取り調べの一部の録音・録画を試行することに決めた。

(岩田清隆 朝日新聞記者 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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