口頭で伝える意から,歌舞伎などの芸能で舞台上から役者,頭取(とうどり)が観客に挨拶を述べることをいう。江戸期には,浄瑠璃所作事の開幕に際して,幕前で太夫連名と役割を披露する口上があり,また一幕目終了時にも二番目の口上が行われた。劇場表には,その興行の趣旨を記した〈口上看板〉が掲げられた。人形浄瑠璃では現在でも,上演に先立ち,浄瑠璃名題,太夫,三味線,人形遣いを紹介する口上が行われている。歌舞伎では,《忠臣蔵》の大序で〈口上人形〉が配役を述べるのに,そのおもかげを残す。さらにこれが俳優の世界の行事となって,初舞台,襲名,追善興行などの折に,舞台上から俳優(ときに劇場の代表者)が観客に挨拶を述べるようになった。これらの口上では,とくにそのための一幕を設けて鬘に裃姿の俳優が舞台に並んで行う場合と,狂言半ばに役の扮装のまま行う場合とがある。終演を告げる〈切口上〉は,江戸時代では必ず行われたが,現在では古風な狂言で,ときに行われる。また,寄席でも真打昇進披露などの折,歌舞伎の口上に倣った口上を述べる。
執筆者:富田 鉄之助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
元来は、文書によらず口頭で事柄を伝達することをいう。芸能の分野では、歌舞伎(かぶき)や人形浄瑠璃(じょうるり)において、劇場側が観客に何かを伝える場合に、舞台から口頭で述べることになっていた。歴史的には、幕があく前に狂言名題(なだい)や出演者の名を述べる口上が古く、元禄(げんろく)期(1688~1704)には「口上役」が重要な役の一つと考えられていた。今日も人形浄瑠璃にはこの形式が伝わっている。歌舞伎では、劇中の浄瑠璃名題とその演奏者・出演者を紹介する「浄瑠璃触(ぶ)れ」、幕切れに「まず本日はこれまで」という「切口上(きりこうじょう)」などが、古風な演出として残っている。今日、ただ「口上」というときには、初舞台、襲名、追善などの披露口上をさすことが多い。これは、とくに一幕を設けて礼装をした俳優がずらりと居並び、順々に挨拶(あいさつ)する。狂言の途中で劇を一時中断し、登場人物の扮装(ふんそう)のままで正座し、口上を述べるというやり方もある。
[服部幸雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…俳優が襲名するにあたっては,贔屓の各方面へ配り物を配って挨拶に回ったり,先代の墓前に報告するなど,いろいろな習慣があり,出費も多い。舞台では,ある幕の劇中で,一時劇の進行を中断して襲名の披露をするか,または〈口上〉の一幕を設け,一門の俳優がおおぜい裃(かみしも)姿で並んで,儀式のように重々しく披露する。なお,格別に重んじられる名(市川団十郎,尾上菊五郎など)の襲名は,経営不振のばん回策の一つとして,興行者によって計画的に行われ,商業政策の性格をあわせもつ場合が多い。…
…また,からくり人形(からくり)などの人形戯も各地で考案されている。(6)言い立て芸 言霊(ことだま)の威力で幸運を招き,魔や災害を押さえるとの信仰から祝言・口上(こうじよう)を言い立てたり,長々の物語を披露する慣習が昔からあり,職業芸能化することもあった。正月,各戸を訪問して祝言を述べる万歳,春駒,大黒舞などがその一。…
※「口上」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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