出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
評論家、英文学者、小説家。父は首相吉田茂。東京に生まれる。外交官であった父に従って諸国を転々、ケンブリッジ大学を中退する。帰国後、ポーの『覚書』(1935)、バレリーの『精神の政治学』(1939)、『ドガに就(つい)て』(1940)などの翻訳や海外文学の紹介によって文筆活動を始めた。1939年(昭和14)、中村光夫(みつお)らと『批評』を創刊、初めて文芸批評の筆をとる。第一評論集は『英国の文学』(1949)、以後『シェイクスピア』(1952)、『東西文学論』(1955)、『文学概論』(1960)などを刊行。その一貫した文学思想は、近代日本の文学の主流を形成している私小説的性格の拒否という点であり、いわゆる大衆小説と純文学の区別なく、ことばで読者を魅惑するということに文学の根本条件を置いた。
ほかに、小説とエッセイのどちらとも不分明なファンタスティックな作品集『酒宴』(1957)、『残光』(1963)など、また独自な文体のエッセイ集『乞食(こじき)王子』(1956)、『甘酸っぱい味』(1957)、『舌鼓ところどころ』(1958)などがある。
[古木春哉]
『『吉田健一著作集』30巻・補巻2(1979~81・集英社)』▽『篠田一士著『吉田健一論』(1981・筑摩書房)』
英文学者,批評家,エッセイスト,小説家。父は後の首相吉田茂で,その長男として生まれた。20歳でケンブリッジ大学を退学するころまで父の任地に従ってフランス,イギリスなどで生活することが多く,この経験が文筆活動の背景にある。ボードレールやラフォルグ等フランス文学への親炙とシェークスピアから現代までのイギリス文学への傾倒をみごとに両立させ,一貫してヨーロッパへの夢に生き続けた。文学とは結局言葉の使い方だという認識を基盤に,洗練された言葉の追究は文明の成熟にかかわるという観点から,独特な文学論,文明論を数多く発表した。《英国の文学》(1949),《文学概論》(1960)が代表作。この思想形成は《ヨオロッパの世紀末》(1970)で頂点に達したが,以後は充実した生をもたらす時間意識の問題に沈潜する。《本当のやうな話》(1972)や《金沢》(1973)はその問題に小説形式で迫ったもの。食通,酒仙としても知られた。
執筆者:富士川 義之
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