吸入療法(読み)きゅうにゅうりょうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「吸入療法」の意味・わかりやすい解説

吸入療法
きゅうにゅうりょうほう

呼吸疾患治療法の一つで、微粒子化した薬剤、蒸気酸素などを気道より吸入させる方法をいう。呼吸困難の緩解、去痰(きょたん)効果に速効性が認められている。広義には酸素吸入療法、加湿療法、エアゾール吸入療法、IPPB(間欠的陽圧呼吸)療法が含まれるが、狭義の吸入療法は後半の二者を意味する。酸素吸入療法は、動脈血酸素濃度を高めるために高濃度の酸素を投与する方法である。また加湿療法は、水をエアゾール(細かい粒子の水滴エアロゾルエーロゾルとも)として吸入させるものである。

[山口智道]

エアゾール吸入療法

液体中に溶解した薬品をエアゾールとして気管支噴霧吸入させる方法で、ネブライザーnebulizer(噴霧器)にはジェットネブライザー、超音波ネブライザー、定量噴霧式吸入器、ドライパウダー吸入器等がある。通常、肺の末梢(まっしょう)まで均等に薬剤を到達させるためには、径0.5~3.0マイクロメートルの粒子が最適とされている。携帯用ネブライザーでは粒子の大きさは3~10マイクロメートル程度であり、このために上気道にもっとも多く分布する。超音波ネブライザーの粒子になると1~5マイクロメートルで、均等性であり、末梢気道までエアゾールを大量に送り込むのに効果的である。

 吸入療法によりエアゾールとして薬物を吸入した場合の利点は、全身投与(内服や注射)に比べて局所に高濃度の薬液を到達させることができる点であり、とりもなおさず速効性の面からみれば、吸入療法がもっとも優れているということになる。適応症としては軽度ないし中等度の喘息(ぜんそく)発作鼻アレルギー、副鼻腔炎などがあげられる。

[山口智道]

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改訂新版 世界大百科事典 「吸入療法」の意味・わかりやすい解説

吸入療法 (きゅうにゅうりょうほう)
inhalation therapy

霧状にした薬剤や酸素(酸素療法)などを口や鼻から吸入する治療法。薬剤吸入は,おもに呼吸器,とくに気管支や鼻の病気で繁用される。喀痰溶解剤,気管支拡張剤,副腎皮質ホルモン剤,抗生物質などのうち,水に溶けやすく,粘膜に刺激性のないものが使われる。薬剤が粘膜から直接吸収されて作用するほか,加湿の効果もある。薬剤を霧状にするためには,ネブライザーという器具が使われる。最近では超音波利用のネブライザーもあるが,原理は家庭用の加湿器と同じである。粒子は2~5μmまで細かくならないと,気管支の末端まで十分届かせることができない。かつて使われていたアルコールランプによる〈蒸気吸入〉や安価な〈電気吸入器〉は粒子が大きく,むしろ咽・喉頭用である。圧縮ガスとともに薬剤を充てんした小型ボンベによる定量噴霧器は,おもに気管支喘息(ぜんそく)の治療用に使われているが,扱いが容易なため,かえって過量にならないよう,注意が必要である。特殊なものとして,粉末状の薬剤を吸入する場合もある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吸入療法」の意味・わかりやすい解説

吸入療法
きゅうにゅうりょうほう
inhalation therapy

治療の目的で蒸気や酸素を吸入させる方法で,次の3つに大別できる。 (1) 蒸気吸入 通常,重曹水やホウ酸水を用いる。かつては盛んに行われたが効果がほとんど期待できないため,最近では行われなくなった。 (2) 酸素吸入 チアノーゼを伴う呼吸困難に特に行われ,肺炎,肺性心,虚血性心疾患,心不全,炭酸ガス中毒その他の重篤な疾患には,不可欠の治療となっている。 (3) 薬液の吸入 噴霧器 (ネブライザー) を用いて,気管支拡張剤,喘息治療剤,抗生物質などを吸入させる方法である。

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