日本周辺地域で日本の平和と安全に重要な影響を与える「周辺事態」の発生時に、戦闘を行う米軍への自衛隊の後方支援を定めた。朝鮮半島有事を想定して1999年に成立。/(1)/補給、輸送などの支援/(2)/遭難した米兵らを対象とした捜索・救助/(3)/地方自治体や民間への協力依頼―を規定する。憲法が禁じる「他国の武力行使との一体化」を避けるため活動範囲を「後方地域」に限定。武器・弾薬の提供を除外した。自衛隊出動は原則として国会の事前承認を必要としている。
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日米防衛協力のための指針(日米新ガイドライン)の規定に基づき、「周辺事態」における「日米相互協力計画」を実施するための法律。正式名称は、「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(平成11年法律第60号)で、周辺事態安全確保法ともいう。
[松尾高志]
「周辺事態法案」および「自衛隊法一部改正法案」は1998年4月28日に閣議決定、国会に提出され、同日、「日米物品役務相互提供協定(ACSA(アクサ))改正協定」が外相小渕(おぶち)恵三と米国務長官オルブライトとの間で署名され、4月30日に閣議決定後、国会に提出されたが、この第142国会では審議されず、継続審議となり、第145通常国会の衆・参両議院の「日米防衛協力のための指針に関する特別委員会」で集中審議が行われた。審議の過程で「周辺事態法案」が一部修正されて、99年5月24日に二つの法案が可決・成立し、同時に協定案が承認された。「周辺事態法」と「自衛隊法一部改正法」は同年5月28日に公布され、「自衛隊法一部改正法」は即日施行となり、「周辺事態法」は同年8月25日に施行された。「日米物品役務相互提供協定改正協定」は同年6月2日に公布、9月24日に自衛隊統合幕僚会議議長と在日米軍司令官との間で実施手続の細目を定めた「実施取決め」に調印した後、翌25日に発効となった。
[松尾高志]
「周辺事態」とは、1997年(平成9)9月に日米政府間で合意された「日米新ガイドライン」において、日米政府が「日本有事」とともに対処すべきとされている「日本周辺地域における事態で、日本の平和と安全に重要な影響を与える場合」であるとされているもので、「日米新ガイドライン」は「周辺事態の概念は、地理的なものではなく、事態の性質に着目したものである」としている。このため、日本政府は「日本周辺地域」を地理的に特定できないとしている。この点をめぐって、どこまでが「周辺地域」なのかが、国会審議のなかで争点となったが、政府の「地理的概念ではない」との答弁で押し切られた。しかし、「ガイドライン」の見直しを合意した「日米安全保障共同宣言」(1996年4月17日)では、日米安全保障条約を基軸とする日米安保体制が「アジア・太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎」であると規定しており、この文脈からすると、「周辺地域」とは「アジア・太平洋地域」であるといえよう。
「周辺事態法」により、日米安保体制は「アジア・太平洋安保」として機能することになり、自衛隊の軍事分担がそれに伴って拡大し、単に「本土防衛」のみならず、新たに「周辺事態」に対処することが可能となり、その結果、「外」に向かって軍事機能を発揮すべく踏み出すこととなった。
[松尾高志]
「周辺事態」に際して、「日米新ガイドライン」は「周辺地域」において米軍が行っている軍事作戦に対して、日本政府が3分野9機能40項目の「協力」を行うと「別表」を掲げて例示している。この40項目のなかには、それまでの法令で実施できるものと、法的に不可能なものとが混在していた。そのため、法令に定めがないものについて新規に法整備して、「別表」を掲げて例示されたもののすべてを実施可能とするために、新たに「立法上の措置」をとったものである。したがって、「周辺事態法」により、「別表」に例示されたすべての「対米協力」を実施しうることとなった。
具体的には、
(1)日米両国政府がおのおの主体的に行う活動における協力(救難活動および避難民への対応のための措置、捜索・救難、非戦闘員を退避させるための活動、国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動)
(2)米軍の活動に対する日本の支援(施設の使用、後方地域支援――補給・輸送・整備・衛生・警備・通信・その他)
(3)運用面における日米協力(警戒監視、機雷除去、海・空域調整)
である。なお、この協力中、国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動のうち、船舶検査活動だけが、法案の修正により削除され、別途、このための法律を制定することとなったが、国会会期中に与党間で合意をみることができず、成立をみなかった。その後、この部分のみを盛り込んだ「船舶検査法」(周辺事態に際する船舶検査活動に関する法律)が、2000年11月30日に成立した。
「周辺事態」に際して、政府はそれに対応するための措置を実施することおよびその際の「基本計画」を閣議で定めることが規定された(4条)。この「基本計画」には、「対応措置に関する基本方針」「後方地域支援の種類及び内容など」「後方地域支援を実施する区域の範囲など」「関係行政機関が実施する対応措置の重要なものの種類及び内容など」が含まれる(同条)。「基本計画」が決定されたとき、また、その変更があったときには、政府は「遅滞なく」国会に報告することとされている(10条)。
国会の承認を必要とする事項は、「基本計画に定められた自衛隊の部隊等が実施する後方地域支援又は後方地域捜索救助活動」についてである(5条)。これは当該活動の実施前とされているが、「ただし、緊急の必要がある場合」には承認を得ないで実施することができる。この場合には実施後「速やかに」国会の「承認を求めなければならない」(同条)こととしている。また、国会において「不承認の議決があったとき」は当該活動を「速やかに終了しなければならない」(同条)。なお、「基本計画に定める対応措置が終了したときには、その結果について、国会に報告しなければならない」(10条)こととされている。
総じて、日本政府は「周辺事態」に際して、自衛隊による「武力行使」以外の作戦行動――情報提供、兵站(へいたん)支援、機雷除去、捜索・救難活動等を実施しうることになったのみならず、政令(1999年8月18日公布)に定められた34にもおよぶ省庁による「対応措置」を実施しうることとなった。また、「国以外の者」(地方公共団体、民間)に対しても「協力」を「求め」あるいは「依頼」しうることとなった。なお、法案の修正により、捜索・救難活動のみならず、後方地域支援に際しても、自衛隊は防護のための武器使用が可能となる。また、「自衛隊法一部改正」により、非戦闘員退避活動に際して、輸送機に加え、艦艇およびそれに搭載するヘリコプターの使用が可能となり、また、それに際しての防護のための武器使用も可能となった。
[松尾高志]
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