裁判所の倒産処理手続の一つ。倒産状態にある債務者からの申出により,債権者集会を開いて債務の一部免除,支払猶予などを定めた和議条件を可決することによって,債務者をして経済的に更生させようとするものである。単に和議という場合は,和議法(1922公布)による破産予防の和議(和議法上の和議)をさすが,広義では破産法(1922公布)に規定されている強制和議をも含む。後者はすでに破産宣告を受けた債務者の申出により,和議条件の可決を経て破産手続を終結させるもので,これにより破産者は破産管財人による財産の清算を免れることができる。多数決によって少数者を強制できるところから強制和議の名称があるが,この点は和議法上の和議も同様である。ここでは和議法上の和議について説明する。
和議は破産が過酷な制裁制度として存在したヨーロッパにおいて,破産を免れしめる唯一の方法として発達した。今日,日本では更生・再建のための倒産手続としては,和議のほか,会社更生法(1952公布)による会社更生や商法による会社整理があるが,個人や株式会社以外の法人については和議が唯一の手続となっている。会社更生と会社整理は株式会社についてのみ適用があり,それぞれ和議にはない特色を有しているが,会社更生は株式会社の中でも大規模なものにのみ適用されるのが原則であり,また最近の実務では従来の経営陣は全員入れ替えられ,再建が成功した場合でも復帰することができず,また100%減資が行われて株主の権利も全部失わしめられるのが例となっているので,これを嫌う経営者や株主が和議を利用しようとする傾向があるといわれている。また,会社更生となると担保権者の権利行使が禁止されてしまうが,和議ではそのような制限はないので,会社更生のうわさが出ると担保権者が競って担保を実行し,これによる財産の散逸のため再建が不可能となるおそれがある。そこで,まず和議手続で冷却期間を置き,担保権者を説得したうえで会社更生に移行することもある。このように会社更生という強力な再建手段が可能な場合でもなお和議の利用価値がある場合がある。次に,会社整理は再建案を成立させるためには債権者全員の同意を得なければならないので一部に頑強な反対者がいるときは成功しない。そのような場合は和議に移行させ,多数決によって押し切ることができる(商法401条)。
和議における倒産者更生・再建の手法は債権者の譲歩である。つまり,既存の債務につき,たとえば半額を免除し残額を5年間の月賦払いとするといった和議条件を債権者が受け入れることにより,倒産者は債務の負担を軽くして業績の回復に努めることができる。株式会社の場合においても,会社更生のように資本を再構成することは,和議手続としては考えられていない。和議は一方的に債権者側のみが譲歩して債務者の更生を助けようとするものである。しかし,債権者としても,破産によって現在清算された場合の配当と和議の条件とを比べて後者のほうを有利とみることもあり,また既存の債権の回収は少なくとも倒産者が和議の結果従来どおり事業を継続すれば取引先を失わずにすむ利点もあるわけである。
他方,和議には再建手続としては多くの弱点があって,和議条件が完全に履行される例は多くないといわれている。まず,和議は破産原因(支払不能か債務超過)がある場合にのみ開始できることになっているが(和議法12条),そのような段階まで事態が悪化してしまってからでは,真に再建を目ざすならよほど債権者にとって悪い和議条件でないと意味がないし,あまりに悪い条件ならば債権者はむしろ破産清算を望むであろう。中途半端な条件で和議が成立しても,結局,途中で履行できなくなり破産に移行せざるを得ないケースが実際には多い。さらに,破産原因があるような場合は主要な財産には幾重にも抵当権などの担保権が設定されているのが普通であり,また税金の滞納があることも多い。和議手続が開始されても担保権者や租税債権者(国など)は影響を受けずに権利を行使できるので,これによって再建のために必要な営業用の資産(工場建物や土地)が他人の手に渡ってしまい,再建は挫折せざるをえない。会社更生や会社整理はこれらの弱点を程度の差はあるが是正している。さらに,会社更生や会社整理と異なり,和議では和議が可決され,裁判所により認可されると,裁判所の手から完全に離れてしまい,履行について裁判所が監視・監督することはない。この点も和議の履行が確保しがたい理由となっている。
和議手続の概略は次のとおりである。なお,和議の手続は強制和議と同一の点が多いので,後者に関する破産法の規定が和議法に多数準用されている。まず倒産債務者が再建案たる和議条件の案を示して裁判所(原則は住所地の地方裁判所)に和議手続開始の申立てをする。和議条件は各債権者につき平等でなければならない(和議法49条,破産法304条)。このように倒産の混乱期に適切な和議条件を作成して提示しなければ手続が開始できないことも和議に伴う困難の一つである。申立てと同時に財産状況を示す明細書と債権・債務の一覧表を提出せねばならない(和議法13条)。裁判所は整理委員(通常は弁護士から選ばれる)を選任して調査させたうえその意見を聞き,手続の開始を決定し,同時に和議管財人を選任する(21,27条)。開始に先だって,債務者の申立てにより債務の弁済禁止などを内容とする保全処分が裁判所により発せられることが多い(20条)。これによって債務者振出しの手形を支払わなくても銀行取引停止処分を受けずにすむ効果がある。破産や会社更生と異なり,和議が開始されても債務者は財産管理権を奪われないから,和議会社は従来どおり取締役が経営を担当していける。ただ,通常の範囲に属さない行為について和議管財人の同意を得なければならない。もっとも,通常の範囲の行為でも和議管財人は異議を述べてやめさせることができる(32条)。たとえば不動産を処分したり取得するのは通常の範囲に属さない。同意を得ないでした行為等は和議管財人が否認できる(33条)。このように和議における否認権は破産や会社更生における否認権とは性質が異なる。原則として経営者の権限が失われないことも会社更生よりも和議が選ばれる理由となっている。和議が開始されると一般の債権者は個別に取り立てたり強制執行をすることはできず,また破産申立てもできない。すでになされていた強制執行は中止される(40,15条)。和議開始前に生じた債権のうち,租税債権や賃金債権など優先権のある債権,担保権によって担保されている債権などを除く債権は和議債権とされ(41~44条),裁判所に届け出ることにより,和議の議決に参加することができるが,仮に参加しなくても成立した和議の効力を受ける(57条)。なお期限がまだ到来していない債権も期限がきたものとみなされ,また金銭の支払を目的としない債権も評価によって金銭債権として扱われることは破産と同様である(金銭化,現在化。和議法45条,破産法17,22条)。債権者が提出した和議条件は和議債権者の債権者集会にかけられ,出席債権者の過半数かつ届出和議債権者の債権額の4分の3以上の多数決によって可決されると,裁判所は和議の決議が和議債権者一般の利益に反するときなど法定の不認可事由がないかぎり,和議認可の決定をする(和議法49,50,51条,破産法306条)。これによって決議に参加したか否か,決議に賛成したか否かを問わず,すべての和議債権は和議条件に従って変更を受ける。ただし,この効力は保証人らには及ばないから,仮に和議によって半額が免除されたとしても,保証人はなお全額について支払義務がある(和議法57条,破産法326条)。和議債権でない債権は和議の効力を受けないから,本来の内容に従って行使できる。
和議の不履行に対しては債権者は譲歩の取消しおよび和議の取消しの手段がとれる。前者は各債権者が各自の譲歩を撤回することで,これにより,和議によって変更された債権が回復されるが,回復した分については和議の履行が全部完了してからでなければ権利を行使できない(和議法62条,破産法329,330条)。後者は,和議の可決に必要とされると同じ多数債権者の申立てにより裁判所が決定するもので,和議そのものが全債権者との関係において効力を失う(和議法64条,破産法332条)。この場合は破産手続が開始する(和議法9条)。なお,和議では破産のような債権確定手続がないので,不履行に対し強制執行に出ることができない(破産法328条参照)。
→倒産
執筆者:谷口 安平
和議法に代わる民事再生法が,2000年4月施行された。本法では支払い不能など破綻に直面する前に早目に申請でき,現経営者が残って業務を続けつつ再建計画を立てられる自力再建型の処理手続が特徴。申立者は債務者本人だが,債権者も裁判所に申立てできる。営業譲渡や減資が行いやすい,債権確定手続の簡略化,管財人の設置が任意,など柔軟性に富む。
執筆者:編 集 部
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法律上の意義としては、1999年(平成11)に民事再生法(平成11年法律第225号)が制定されると同時に廃止された和議法(大正11年法律第72号)により規定されていた破産予防のための手続をいう。なお、この和議法による和議手続とは別に旧破産法において「破産宣告を前提とする強制和議」が設けられていたが、破産法の全面改正により、強制和議も廃止され、現行の破産法では強制和議は存在しない。
和議は、債務者に破産原因が生じ、破産宣告を受けるような状態になった場合に、裁判所その他の公の機関の補助・監督のもとに、債務者は破産宣告を免れると同時に、債権者も破産の場合に比べて有利な弁済を受けることを目的として締結される一種の合意ないし契約であったとするのが通説である。それは債務者による和議の提供と、これに対する法定多数の債権者の同意によって成立するとともに、裁判所の認可によってその効力を生ずる点では、旧破産法が規定していた強制和議と同じ性質のものであったが、破産宣告を前提とせずに、これを食い止めることを目的とする点で、和議法上の和議は「破産外の和議」または「破産予防の和議」とよばれていた。
しかし、この和議手続では認可後の和議の履行の確保を完全に担保する制度的手当てがなされていなかったことや、和議開始原因が破産原因と同じであったことに対する批判が存在していた。このような批判を受けて、1996年(平成8)より法制審議会において倒産法改正の審議が始まり、その結果、和議法が廃止されて、民事再生法が制定された。民事再生法の登場は、和議法による和議手続について上述のように指摘されてきた欠点を是正するところにその主眼があった。
[内田武吉・加藤哲夫]
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…倒産の処理に関する法制としては破産法が代表的であるが,破産が清算を目的とするのに対し会社更生法は再建を目的とする。
[和議,会社整理との対比]
従来,企業再建のための裁判上の手続としては和議法(1922公布)による和議手続および商法に規定される会社整理の手続(1938年改正で新設)があったが,株式会社企業の再建手続として十分でなかった。まず,和議は個人債務者を眼中に置いているうえ,破産原因がなければ開始されえない点で再建には手遅れである。…
…具体的には,(1)決済資金の裏づけがないため不渡り(その手形,小切手を不渡手形という)を出した法人または個人企業が6ヵ月以内に2回目の不渡手形を出して銀行取引停止処分を受けることにより表面化することが多い。そのほか,(2)会社更生法の適用を申請したり破産申請をしたとき,(3)商法381条による会社整理,和議法による整理状態になったとき,(4)債権者会議を開催し内整理(これは法律によるものではない)を行ったとき,を倒産というが,倒産という言葉は法律用語でも学問用語でもない。ただし中小企業信用保険法には倒産という言葉が用いられている。…
※「和議」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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