咽後膿瘍(読み)いんごのうよう(英語表記)Retropharyngeal abscess

六訂版 家庭医学大全科 「咽後膿瘍」の解説

咽後膿瘍
いんごのうよう
Retropharyngeal abscess
(のどの病気)

どんな病気か

 首の骨の前面をおおっている硬い筋膜と、咽頭を包む咽頭筋の筋膜とが接しているところに、咽後間隙(いんごかんげき)という()な組織があります。ここに炎症が広がってきてうみがたまる疾患です。上方は頭蓋骨で区切られ、下方は縦隔(じゅうかく)まで続いています。下方に広がると危険な病気です。

原因は何か

 この咽後間隙には咽後リンパ節があり、咽頭や口腔の炎症がこのリンパ節に及んでさらに広がると膿瘍(のうよう)となります。外傷や異物などが引き金となることも知られています。小児で発生することが多いとされていますが、最近は高齢者にもみられます。

症状の現れ方

 乳幼児や小児では発熱、食欲不振となり、飲み込みの障害、息を吸う時にぜーぜーとなる呼吸状態など、急性咽頭炎感冒(かんぼう)様の症状が現れます。成人では発熱、のどの痛み、飲み込んだ時の痛み、嚥下(えんげ)障害などの症状が現れます。また、のどの後ろがはれて鼻呼吸がしにくい感じなどがあります。

検査と診断

 疾患が疑われたらCTMRIなどの画像診断により容易に確定診断できます。しかし、咽頭炎症状のみの場合には咽頭後壁のはれや膨隆(ぼうりゅう)で咽後膿瘍を疑い、鼻咽腔ファイバースコープ(内視鏡)検査で確認します。うみを培養して、細菌の種類と抗生剤に対する感受性を調べる検査は治療上大切です。

治療の方法

 抗生剤の投与とともに、膿瘍を切開して排膿することがいちばんです。しかし下方に広がってしまうと、なかなか切開することが難しい場合もあります。

病気に気づいたらどうする

 この病気に気づくのは難しいものです。かぜや急性咽頭炎などが治らず、嚥下や呼吸状態が悪化する場合や、外傷後や骨などをのどに刺した後に症状が出てきたら、早めに耳鼻咽喉科を受診し、入院して精密検査をする必要があります。

加藤 孝邦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「咽後膿瘍」の解説

いんごのうよう【咽後膿瘍 Retropharyngeal Space Abscess】

[どんな病気か]
 咽頭粘膜(いんとうねんまく)後方(のどのつきあたりの部分)のリンパ節に細菌などが感染して膿瘍ができ、膿汁(のうじゅう)がたまる病気です。
 かつては、幼小児(生後2か月から2歳)に多い病気とされていましたが、最近では、免疫不全(めんえきふぜん)などで全身抵抗力の低下している成人にも発症がみられます(原発性咽後膿瘍(げんぱつせいいんごのうよう))。
 放置すると膿(うみ)が下方の胸腔(きょうくう)にある縦隔(じゅうかく)に流れていき、縦隔炎(じゅうかくえん)という生命にかかわる病気になるので、早く医師の診察を受けることが必要です。
 成人には、結核性頸椎(けっかくせいけいつい)カリエスに続いておこることもあります(続発性咽後膿瘍(ぞくはつせいいんごのうよう))。
 ただし、抗生物質や抗結核薬による治療が普及してきた現在では、咽後膿瘍の発生率は減少傾向にあります。
[原因]
 咽頭粘膜の後方の左右にはリンパ節があり、鼻、副鼻腔(ふくびくう)、咽頭、中耳(ちゅうじ)などの領域リンパ節としてはたらいています。これらのリンパ節は、幼小児期には数が多いのですが、成人になるにしたがって萎縮(いしゅく)していきます。鼻や中耳などの炎症をおこしやすい幼小児では、これらのリンパ節に膿瘍ができることがあります。
 咽頭の外傷や異物などにより直接細菌が感染しておこることもあります。
[症状]
 小児と成人では、症状がやや異なります。
 幼小児の初期症状は、機嫌が悪い、食欲がない、発熱(高熱)などで、泣き声が含み声となります。炎症が進むと、鼻呼吸が障害されたり、くびが曲がりにくくなり、痛がったりします。
 成人は発熱、のどの痛み、食事摂取困難などが初期症状で、炎症が進むと口が開きにくい、しゃべりにくい、呼吸が苦しいなどの症状がおこります。
 診察すると、咽頭後壁が半球状にふくれ、さわると波動が感じられます。
[治療]
 外科的な治療で排膿(はいのう)します。咽頭後壁に膿瘍が限局している場合や呼吸困難がある場合は懸垂頭位(けんすいとうい)で口から針を刺し、膿汁(のうじゅう)を吸引するか、切開・排膿します。
 すでに呼吸状態が悪い場合や、膿瘍が下方に進展していると考えられる場合は、全身麻酔をして、気管切開のあと頸部外切開(けいぶがいせっかい)を行ない、排膿します。

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改訂新版 世界大百科事典 「咽後膿瘍」の意味・わかりやすい解説

咽後膿瘍 (いんごのうよう)
retro-pharyngeal abscess

咽頭後壁の粘膜下には,顆粒状の小さい多数のリンパ組織がうもれている。これらを咽後リンパ濾胞というが,ときに炎症をおこして膿瘍を形成したものを咽後膿瘍という。一側に偏しておこったものを側咽頭膿瘍という。乳幼児期を過ぎると,これらリンパ濾胞は萎縮するので,この膿瘍はもっぱら乳幼児に発生するといってよい。まれに大人や老人に散見するが,たいていは魚骨などの誤嚥からくる異物によるものが多い。高熱に悩まされ,犬がほえるような咳をし,首のリンパ節がはれるほか,咽頭間腔がせまくなるので,嚥下,呼吸困難ならびに言語障害をおこす。口を開けると咽頭正中いずれかに偏して波動性のあるはれものに触ることができ,太い針で膿を抜いて確認する。慢性化する場合には,結核性の流注膿瘍が咽頭後壁に流下して形成される冷膿瘍などが考えられる。切開して治すが,突然の排膿による窒息死には注意しなければいけない。もちろん強力な抗生物質を与える。
咽頭
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「咽後膿瘍」の意味・わかりやすい解説

咽後膿瘍
いんごのうよう

咽頭の後壁と頸椎(けいつい)との間に膿(うみ)のたまっている状態をいう。乳幼児ではこの場所にリンパ節(咽後リンパ節)が発達しており、かぜなどによる鼻や咽頭の炎症から波及してここに炎症をおこし、化膿して咽後膿瘍となる。このリンパ節は10歳ごろには萎縮(いしゅく)するので、年長者では咽後膿瘍はおこりにくいが、結核性頸椎カリエスによる膿がこの場所にたまることがある。

 症状は、乳幼児では高熱を出し、咽頭の後壁が赤くはれ上がり、もともと狭い咽頭腔(こう)がさらに狭くなるので、呼吸困難のほか、乳汁や食事の嚥下(えんげ)困難もおこし、全身状態が急速に悪化してくる。成人の頸椎カリエスの場合には、乳幼児ほどの呼吸および嚥下の障害はおこらないが、カリエスのため頸部を動かすと強い痛みがある。治療は、原因疾患の治療とともに、膿瘍を切開し、排膿する。

[河村正三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「咽後膿瘍」の意味・わかりやすい解説

咽後膿瘍
いんごのうよう
retropharyngeal abscess

咽頭後壁の組織内に膿汁がたまった状態をいう。一般に成人には少く,ほとんどが1歳未満の乳児に起きる。乳児の場合は,鼻や扁桃などの化膿性の炎症病巣から,咽頭後壁の組織内のリンパ節に細菌が侵入することから起きる。発熱,呼吸困難,のどの痛みが主な症状で,物を飲み込むと痛みが激しいことから,食事がとれず全身衰弱を起すこともある。治療は口の中から切開または穿刺して膿を出し,同時に強力な抗生物質療法を行う。

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