日本大百科全書(ニッポニカ) 「問答法(哲学)」の意味・わかりやすい解説
問答法(哲学)
もんどうほう
dialektikē ギリシア語
dialectica ラテン語
dialectic 英語
Dialektik ドイツ語
弁証論とも訳される。問いと答えを通じて、問題となっている事柄自体の真実をことばによって明らかにしてゆく方法をいう。
問答法はエレアのゼノンに始まる。ゼノンは「多が存在する」という前提を相手が認めるとき、この前提から相矛盾する帰結が必然に生ずることを論証し、これによって、この前提が偽であること、したがって、師パルメニデスの「一が存在する」という説が真であることを論証しようとした(帰謬(きびゅう)法)。
ソクラテスとプラトンにおいては、人間の生がかかわっている事柄についての、人間の思いを問答を通じて吟味することによって、その事柄の真と偽をことばによって明らかにしてゆく方途が問答法である。イデアとは、この道程を初端と終端において限定して問答を導いている根原である。
中世では、個々の神学問題について、相反する主張を並列し、それぞれの論拠を明らかにすることによって事柄の真実を探究する方法が問答法(=弁証論)である。「然(しか)りと否」の方法(アベラール)ともいわれる。
真偽はことばによって決着するとみなすか、そうした決着はことばのうえだけのことにすぎないとみるかによって問答法の評価は分かれる。この対立は全ヨーロッパ理念史を貫き、肯定の側の代表はプラトン、ヘーゲル(ヘーゲルの「弁証法Dialektik」はその独自な展開形態である)、否定の側の代表はアリストテレスとカントである。しかし、経験を超える事柄の真実にかかわる哲学の探究において、賛否いずれの側にとっても、問答法は不可欠の方法である。
[加藤信朗]