原因と結果。原因と結果との密接な結合関係は、古来「因果律」と称して、哲学、科学をはじめ、諸学問の基礎に置かれる。また日常生活においても、時代や地域を問わず、因と果との深いつながりが、かならず前提とされている。創造者ないし絶対者を設けない仏教は、人間の生も行為もすべて現実世界のなかで説くところから、この因果関係をきわめて重く扱い、それらの分析が著しく進んでいる。普通は因が先で果は後とみるが、両者を同時とする考えもある。また果は最初から因のなかにあって、のちに現れ出るとする「因中有果論」、まったく新しい果が発生するとする「因中無果論」の二つがインド哲学で説かれるが、仏教はそのどちらにも偏らず、事実に即してふさわしい教えをそれぞれに応じて説く。とくに、因と果との直結を排して、その間に条件をたてて、それを重視する一方、そのプロセスにも深く配慮する。この条件を縁と称して、これら因と縁と果の関連が、仏教思想の根幹にある。なお、因から果が生じ、ただちにその果が次の瞬間には因となるという現実の反省も、仏教はもっている。また一因一果を説かず、果は多くの因が満たされて生ずることも、ときに一因から多様な果の導かれることも、仏教は説く。いずれにせよ、仏教は行為の動機を重んじて、結果論によらないから、果に至る因(および縁)の精密な分析がきわめて鋭く、それが教理にも実践にも強く反映している。
[三枝充悳]
『仏教思想研究会編『仏教思想3 因果』(1978・平楽寺書店)』
原因と結果のこと。特に仏教用語として用いられる場合は,業(ごう)思想と結びつき,自己の存在のあり方にかかわる因果性をいう。すなわち〈善因善果・悪因悪果〉という言葉で表現されるように,たとえば,人間あるいは天人として生まれるという善の結果を,あるいは地獄・餓鬼・畜生として生まれるという悪の結果を得るのは,前世の自己の善業あるいは悪業を原因とするという考えである。仏教の説くこのような因果法則は自然科学的因果法則というよりは,むしろわれわれの行為に関するものである。したがって〈因果応報〉といわれるように,それはわれわれの行為を倫理的に規定する教説である。自己の原因としての業がなんの結果ももたらさないと考え,いかなる道徳的行為をも否定する見解を〈因果撥無の邪見〉とよび,そのような見解をいだく人を,けっして悟りを得る能力のない〈断善根〉の人とよんで強く非難する。
執筆者:横山 紘一
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…仏教では,すべてのものごとが生起したり,消滅したりするには必ず原因があるとし,生滅に直接関係するものを因と言い,因を助けて結果を生じさせる間接的な条件を縁として区別するが,実際に何が因で何が縁であるかをはっきり分かつ基準があるわけではない。因縁は〈因と縁〉と〈因としての縁〉の二通りに解釈されるが,この両者を一括して縁と呼び,因縁によってものごとの生起することを縁起(えんぎ)とも言い,また,生じた結果を含めて因果(いんが)とも言う。因縁,縁起,因果は仏教教理の最も根本的な考え方であるが,必ずしも因から果へという時間的関係のみを意味するだけでなく,同時的な相互の依存関係,条件をも意味している。…
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