固体(読み)コタイ(英語表記)solid

翻訳|solid

デジタル大辞泉 「固体」の意味・読み・例文・類語

こ‐たい【固体】

物質が示す三つの状態の一。一般的には、一定の形と体積とを保ち、外から加えられる力に抵抗する性質をもっている物体。→液体気体
[類語]かたまり液体溶液水溶液粘液廃液乳液原液薬液気体流動物流動体流体液汁汁液しるつゆリキッドガス固形かたまり剛体弾性体

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精選版 日本国語大辞典 「固体」の意味・読み・例文・類語

こ‐たい【固体】

  1. 〘 名詞 〙 物質のうち、一定の形と体積とをもち、容易に変化しないもの。石、金、木材など。⇔液体気体
    1. [初出の実例]「吾が踏む所の土は固体にして〈略〉地球を囲む所の大気は気体なり」(出典:小学化学書(1874)〈文部省〉一)

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改訂新版 世界大百科事典 「固体」の意味・わかりやすい解説

固体 (こたい)
solid

物質は,原子,分子が集まってできたものであるが,固体とは,液体,気体とともに物質のとる三つの集合状態の中の一つの形態である。われわれにとってもっとも身近な水についていえば,氷,水,水蒸気は同じ分子からなる固体,液体,気体の状態の呼名である。水を冷却すれば氷になる,あるいは炭酸ガスを圧力を上げて低温にすればドライアイス(固体)になるように,通常,液体または気体の状態で温度を下げたり,圧力を上げたりすると固体になる。固体に対する通常の概念は,一定の外形を保ち,その上に物をおいても形を変えず,ずれに対して硬さを示すような,いわゆる固いという通性をもつ物質ということができる。

 この点で,バケツに入れた水がバケツの形に従うように,液体,気体の通性とはきわめて対照的である。

固体では,それを構成する原子または分子は,固定した位置をもっている。この原子が空間的に規則正しく配列したものは結晶と呼ばれる。また固体には,ガラスのように周期的な原子配列をもたないものも多々ある。このような結晶していない固体を,非晶質(アモルファス)物質と呼ぶ。非晶質物質では原子は無秩序に分布しており,結晶で存在する規則的な長距離周期性はまったく壊されている。熱力学的見地からいえば,非晶質物質は準安定な状態にあって,エネルギー的にもっとも安定な構造をとる結晶とは対照的である。また結晶化への中途の過程であって,ただ結晶に緩和するまでの時間が非常に長いために,無限に長い時間にわたってその状態を保っていると考えてもよい。最近は,完全結晶のみならず,非晶質物質や不規則系に関する研究も盛んになり,固体物理の研究における一つの大きなトピックになっている。

すでに述べたように,固体,とくに結晶では,それぞれの物質がその物質に特有な原子の規則的配列をもっている。その構造単位を点とみなし,点の網目構造に注目してその形態を対称性や軸のとり方から分類すると,立方,斜方,三斜,菱面体,六方,単斜,三方の7晶系,14種類のパターンが存在し,これら14種類のパターンをブラベ格子と呼ぶ。このような結晶構造は,X線,電子線,中性子線をあててその透過や反射のようすを調べることによって知ることができる。M.vonラウエは,1912年にX線回折によって,結晶では原子が規則正しく配列していることを初めて実証したが,近代的な固体の物性に関する研究はこのときに始まるといってよい。
結晶

固体を分類するのに,上記の幾何学的分類以外に,結合の性質とか物理的性質によっても分類することができる。まずここでは,原子が集まって固体をつくるときの結合力の性質に基づいて固体を分類してみよう。この分類は固体を構成する電子と原子核との間の相互作用に基づくミクロな立場からの分類で,物質が硬いか軟らかいか(力学的性質),色はどうか(光学的性質),電気を通ずるかどうか(電気的性質),磁性があるかどうか(磁気的性質)など,固体の物理的性質を理解するのにきわめて役にたつ。原子が集まって固体をつくるときには,原子間に電子のやりとりが起こる。そのやりとりのしかたによって,固体はイオン結合物質,共有結合物質,金属結合物質に分類される。イオン結合物質の典型的な例としては,食塩の主成分である塩化ナトリウムNaClをあげることができる。一般にイオン結合物質では,ナトリウムNaのように電子を放出して陽イオンとなりやすい原子と,塩素Clのように電子を受け入れて陰イオンになりやすい原子で構成され,陽イオンのまわりには陰イオンが,また陰イオンのまわりには陽イオンが配置して,両イオンの静電引力の結合で結晶(イオン結晶)がつくられる。他方,ダイヤモンド,ケイ素(シリコン),ゲルマニウムのⅣ族元素の固体では,同じ種類の原子が結合して物質がつくられる。この場合には,互いに電子をやりとりして陰陽イオンをつくることはできないが,その代りに互いに価電子の一部を共有して,それぞれの原子が見かけ上ヘリウム,ネオンのような不活性ガス型の電子配置をとって安定な結晶をつくる。このように価電子を共有してできる化学結合水素分子に典型的に見られ,量子力学に基づく電子の交換相互作用によるもので共有結合と呼ばれる。共有結合の場合には,隣接する原子の電子の波動関数どうしが大きく重なるときに結合がもっとも安定となるため方向性が現れ,4個の価電子をもつⅣ族元素の固体では,四面体の中心にある原子からその頂点の方向に伸びた4本の結合の腕が存在する。異なる原子の組合せで結晶がつくられる場合には,一般にイオン結合と共有結合の性格が共存した結合で結晶がつくられる場合が多々ある。Ⅱ族とⅥ族原子からできた硫化カドミウムCdS,Ⅲ族とⅤ族原子からできたヒ化ガリウムGaAsのような半導体物質がその例にあたる。ところで,ナトリウムとかカリウムの金属物質の場合には,価電子は1個で,しかも同じ元素どうしであるため,4個とか6個の結合の腕をもった対称性の高い共有結合物質や,あるいはまたイオン結合物質をつくることはできない。しかしこの場合には,各金属原子は価電子を放出して陽イオンとなり,放出された電子は陽イオンの間を自由に運動しながら,各陽イオンと引力的な相互作用を行って原子どうしをしっかり結びつけ,安定な結晶をつくる。このようなしくみの結合を金属結合といい,金属物質はこの結合によってつくられる。金属ではこの動きやすい電子(自由電子と呼ぶ)のために,電気や熱がよく伝わり,光に対して金属光沢を示す。

 このほか,結晶をつくる結合には,分子間力による結合と水素結合がある。原子どうしの共有結合によって生じた分子や,ヘリウム,ネオン,アルゴンなどの不活性ガス原子では,電子配置が閉殻構造をもっているために,上に述べたような結合力は働かない。しかし,実際にはこれらの原子どうしが集まって固体がつくられる。このときの結合力は,分子間力,またはファン・デル・ワールス力と呼ばれ,電気双極子間の相互作用に起因する。不活性原子などではそれ自体は電気双極子モーメントをもっていないが,他の原子によって双極子モーメントが誘起され,誘起された双極子モーメントどうしの引力相互作用によって結晶がつくられるのである。こうして分子間力で結合した結晶を分子性結晶という。分子間力は他の結合力に比べて弱く,したがって分子性結晶では融点や沸点が低い。氷は分子間力で予想されるよりははるかに高い融点をもつが,これは水分子H2Oの間に分子間力以外に,水素原子Hが仲介となって二つの酸素原子Oが結合して固体の状態がつくられていることによる。水が結晶して氷になるとき体積が膨張するのは,水分子が密な状態で正しく配列するのではなく,水素結合により隙間の多い結晶構造をとるためである。
化学結合

固体はまたその電気的性質によって,金属,半導体,絶縁体に分類される。電気伝導のよい銀,銅の金属物質では,電気抵抗率が10⁻8Ωm程度ときわめて低いのに対し,塩化ナトリウムのような絶縁体では106Ωmときわめて抵抗が高く,その値は金属と絶縁体では非常に大きな開きがある。金属で抵抗率が低いのは,前述のように金属内を自由に動きまわる自由電子が存在することによる。すでに述べたように,金属内では原子は自由電子と陽イオンに分かれているが,金属の原子が平均して1個の自由電子を出すとすれば,金属内部には1m3当りおよそ1029個に達するきわめて多くの自由電子が存在することになる。この電流の運び手の数が多いのが,電気伝導率(抵抗率の逆数)の大きい理由である。金属では温度が上昇すると電気抵抗が大きくなるが,これは陽イオンが温度によって熱振動し,その振幅が大きくなるために,電場によって加速された自由電子がより強く散乱されて減速されるためである。イオン性および共有結合性物質,分子結合性物質では,各原子が不活性ガス型の電子配置をとるために自由電子が存在せず絶縁体となる。イオン結晶で電気伝導を生ずるのは,イオンが電流の運び手となり,その占める位置をとび移ることによる。このため抵抗率はきわめて高い。なお,多くの金属では極低温の領域で電気抵抗が0になる。この現象は超伝導と呼ばれ,1957年にJ.バーディーンらによってその機構が明らかにされた。他方,トランジスターやダイオードに用いられる共有結合結晶のゲルマニウムやケイ素も電流を流す性質を示す。これは純粋のゲルマニウムやケイ素に微量の不純物を混入させることによって,結合に関与しない電流の運び手をつくり,これが電気伝導に寄与することによる。したがってこの場合には,金属に比べて自由電子の数がずっと少なく電気抵抗が大きい。このような物質を半導体と呼ぶ。半導体では温度が下がると電流の運び手である自由電子が不純物に戻り,その結果,自由電子数が減少するために抵抗が増大して,金属と逆のふるまいを示す。
金属 →半導体

固体は磁場の中におかれたときに示す性質によって,強磁性体,フェリ磁性体,反強磁性体,常磁性体,反磁性体に分類される。これらの磁気的性質(磁性という)の原因は物質中の電子によるもので,電子の軌道運動とスピンに起因するものに大別される。前者による効果は,加えられた磁場を排除しようとする形で現れ反磁性と呼ばれる。鉄のように不完全殻をもった遷移金属元素や希土類元素は,スピンに起因する磁気モーメントをもち磁性原子と呼ばれる。鉄,ニッケルなどの金属物質や,酸化マンガンなどの磁性原子と非磁性原子からなる磁性化合物では,磁気モーメント間の交換相互作用によって,磁性原子の磁気モーメントが互いに平行に向いたり,反平行に向いたりする。磁気モーメントが互いに平行に向く性質をもつ鉄のような物質を強磁性体,反平行に向く性質をもち,全体として磁気モーメントが0となっている物質を反強磁性体という。またフェライトのように両者の混合型の磁性を示す物質をフェリ磁性体という。これに対して磁性原子を不純物として希薄に含んでいる物質は,磁場を加えると磁場の向きに弱く磁化して,いわゆる常磁性を示し,常磁性体と呼ばれる。
磁性

固体の状態では,原子は厳密には固定した位置のまわりに小さな振動をしている。温度を上げていくと振動領域が広くなり,原子間の結合力が弱くなって,ついには原子の周期的な配列が崩れ不規則になる。また他の原子とすれ違って動くこともできるようになり,ずれに対する硬さがなくなる。これが液体の状態である。したがって固体をつくる結合力が強ければ,固体が液体になる温度(融点)は高く,ずれに対する硬さも強い。前に述べた五つの結合のうち,共有結合は結合力がきわめて大きく,結合力のもっとも小さいのは分子間力による結合である。このため共有結合物質であるダイヤモンドは3500℃以上と融点が高く,硬さももっとも強い。逆に分子性結晶では結合力が弱いため常温で気体や液体であるものが多い。他方,巨視的には,固体の硬さはその物質に外力を加えてずれの変形を起こさせるときの,その物質の示す抵抗の大きさと考えてよい。この力学的性質こそ,初めに述べた固いという日常表現の背景をなすものである。外力が小さいときは固体の変形は外力に比例する。このような変形の領域では固体を弾性体と呼び,外力を取り去れば変形はもとに戻る。外力がある値をこえるとすべりの形態の変形が起こり,変形はもとに戻らない。このような変形は塑性変形と呼ばれ,塑性変形の起こる外力の大きさが硬さの定量的な程度を表す。このような固体の力学的性質は,上に述べたように固体の結合力と関連しているが,塑性変形の領域では転位の存在も大きな影響力をもっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「固体」の意味・わかりやすい解説

固体
こたい

気体、液体とともに物質の三体の一つとされ、その特徴は定まった形をもつことである。すなわち、これを変形させるためにはある力を必要とする。これに反して気体や液体では、体積を変えずに形だけを変えるには、無限に小さな力でも足りる。しかし、この区別は自然の区別であるから絶対的なものではない。粘性の高い液体は、それを有限時間で変形させようとすれば力が要る。ガラスのような固体ときわめて高い粘性をもつ液体とを本質的に区別するのはきわめて困難であり、また、ゼリー状の物質を固体とよんでよいかどうかは明確でない。1トンの豆腐が特定の形を保つかどうか疑わしい。またきわめて微細な粒子には固体、液体という観点は無意味であろう。原子1個であればいうまでもないが、数個の集団に対しても同様に無意味であろう。

 多くの結晶は典型的な固体と考えられる。それは、それぞれの物質に特有な温度以上で明瞭(めいりょう)に液体か気体に変わる。このような分子の集合状態の変化を相転移または相変態とよんでいる。ある種の固体は、固体から固体へと相変態をおこす。たとえば、鉄は室温ではα(アルファ)鉄とよばれるものであるが、906℃を超すと結晶構造が変わってγ(ガンマ)鉄とよばれるものになり、さらに1401℃ではδ(デルタ)鉄とよばれるものに変わる。これらはいずれも固体の鉄であるが、密度などは異なる。

[宮原将平]

固体の弾性と音

固体に力を加えると変形するが、変形が小さいと、力を取り去れば元に戻る。すなわち固体は小さな変形に対して弾性体である。気体や液体は体積の変化に対してだけ弾性的である。それで、気体などでは、体積の振動的な変化は波として伝播(でんぱ)する。これが音である。固体では体積が変化することに対する弾性率のほかに、体積が変わらない変形に対する弾性率すなわち剛性率がある。それで、簡単な(等方的な)固体でも2種類の弾性波がある。一つは、気体や液体の音波と同じく縦波であるが、他のものは、固体の微小部分が波の進行方向に対して垂直に振動しているような波すなわち横波である。等方的でないような結晶ではいっそう複雑である。

 かつて、エーテルが光波を伝える弾性的媒質と考えられたことがあった。光には偏光という現象があるから、どうしても横波でなければならない。横波を伝える弾性媒質は剛性率をもたなければならない。こうして、エーテルは、普通の固体以上に硬い物質であると考えられたことがある。

 固体を伝わる波も、ほかの波と同様に、振動数が大きくなると波長が小さくなる。しかし、固体は実は連続体ではなくて、分子構造をもっている。それで分子間の距離と同程度以下の波長というのは意味がなくなる。つまり、きわめて振動数の大きな固体の弾性振動というのは、分子の熱振動として理解すべきものである。

[宮原将平]

固体の比熱

固体の比熱には特徴がある。固体の比熱にその分子量(原子量)を掛けたもの、すなわちモル比熱は、多くの簡単な固体、とくに金属などで、その種類によらずほぼ一定の値をもつ。この事実はデュロン‐プチの法則として知られている。気体でも希ガスのような一原子分子の気体ではそのモル比熱は一定である。しかし、気体ではこのことはかなり低い温度まで成り立つが、固体では温度が下がると、その物質の種類に応じ決まっている温度(デバイ温度)の付近から急に減少し、あたかも分子の振動の自由度が一部分凍結されたかのようにみえる。この現象は量子力学に基づいた統計力学によって初めて解明されたものであり、それゆえ、固体の比熱の低温での減少は量子力学の実験的証明の一つといえる。

[宮原将平]

固体の分類

固体は、その結合力の本性に従って分類するのがもっとも合理的な分類といえる。一般に行われているのは次のようなものであり、結合力とともに、物性にも対応する。

(1)イオン結晶 固体をつくる要素がイオンであって、結合力は主として電気的な力、すなわちクーロン力である。原子が正あるいは負に荷電したもの、すなわち、原子から電子が1個ないし数個とれたもの、あるいは原子に電子が1個ないし数個くっついたものがイオンであるが、正のイオンと負のイオンとが交互に並んで、その間のクーロン力で引き合い、イオンどうしは十分に近づいて規則正しく並び、結晶をつくっている。この代表的なものとしては、普通に食塩とよばれる塩化ナトリウムの結晶をあげることができる。この結晶では、ナトリウム原子の上下・左右・前後の隣接イオンはすべて塩素イオンであってクーロン力で引き合って塩化ナトリウム型の結晶格子をつくっている。クーロン力には方向性がなく、飽和性もない点が、次の共有結合の力とは異なっている。この結晶はだいたい数百℃から1000℃くらいの溶融点をもつものが多い。

(2)共有結合結晶 結晶をつくる要素が電気的に中性の原子であって、結合力は共有結合によるものとされている。共有結合があるのは結晶ばかりではなく、たとえば水素分子のような二原子分子でできるのはこれによるものと考えられる。共有結合の特徴は方向性をもつことであり、化学でいう原子価は結合の飽和性に対応する。水素分子のように原子価が1価のものでは、他の水素原子が結合すれば結合は飽和して、水素分子をつくるだけであるが、原子価の大きい原子では、多くの原子を結合させることができる。そのような例としては、価数が4である炭素原子はその隣に4個の原子を共有結合によって結合させることができる。それで、炭素原子の隣の4個がすべて炭素原子であるとすれば、それらの周りにも炭素原子がくることができるというようなぐあいに、炭素原子は共有結合によって立体的な格子をつくることができる。これがダイヤモンドの結晶である。ケイ素やゲルマニウムもダイヤモンドと同様に共有結合によってできた結晶である。共有結合の結合エネルギーは大きく、また結合に方向性があるため、その結晶は硬く熱的に安定である。しかし、なかには電気伝導度が温度によって著しく変わるものがある。低い温度では価電子は共有結合にあずかっているが、温度が上がるとそれは熱的に励起されて伝導帯へ移り、結晶に伝導性を与える。すなわちそのような結晶は半導体である。

(3)金属 固体のなかで熱・電気の伝導度が大きくその他いろいろの特徴をもつものとして金属が知られているが、結合の点からみて、前述の二つとは異なっている。しかし、ある側面では、イオン結晶と比べることができる。イオン結晶では一般に陰イオンも陽イオンと同程度に重い粒子、すなわち負に荷電した原子であるが、金属は、陰イオンが電子であるようなイオン結晶とみられないこともない。しかし、電子の質量は著しく少ない(電子は軽い)から、電子は陽イオン間に局在することができず、そのため陽イオンの電荷を減らすことになり、そのことはまた、電子に働く結晶電場を弱め、電子の運動を自由にする。金属は他方では共有結合結晶と比べられる。共有結合結晶の価電子帯と伝導電子帯の幅が広がり、その間のギャップがなくなって、一体の伝導帯になったとき、金属になったものともみられる。

(4)分子性結晶 結晶の構成要素が中性の分子であるような結晶である。その結合力は分子間力であって一般に小さい。それゆえ、たとえばパラフィンなどにみられるように、融点は低く軟らかい。分子性結晶の一つの典型としては、構成要素が中性原子である希ガス(ネオン、アルゴンなど)の結晶をあげるべきであろう。これらの融点はいっそう低く結合力が弱いことを示している。

(5)水素結合結晶 氷は水の分子からつくられた分子性結晶であるということもできるが、結合力は、パラフィンや希ガスの分子の間に働くものとは異なり、水素が重要な働きをする。氷は、酸素原子と酸素原子との間にある水素原子によって結び付けられた結晶であるということもできる。水素を含む化合物のなかには、氷と同様に水素原子の媒介によって結合するものがあり、それによってつくられた固体も多数存在している。

[宮原将平]

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百科事典マイペディア 「固体」の意味・わかりやすい解説

固体【こたい】

(1)力学的にはいわゆる固い物体,つまり一定の体積と形をもち,外力を加えても容易に変形せず,たとえ変形しても外力をとり去ればもとにもどる(弾性)物体,またその状態。しかしどんな固体も大きい外力を加えれば永久変形を起こし(塑性),またある種のガラスやゴム状物質は長時間には少しずつ流動するし,逆にある種の流体は非常に短時間の変化に対し固体のように行動するので,固体と高粘度の液体との区別は必ずしも明確でない。(2)構造上からは原子または分子が規則正しく配列した結晶またはその集合を固体といい,液体に似てそのような結晶構造をもたない非晶質(無定形物質)と区別する。後者(ガラス状物質)は一定の融点をもたず液体から固体の状態へ連続的に移行し,過冷却の液体ともみなされる。物質は低温・高圧下ですべて固体になる。→液体気体

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「固体」の意味・わかりやすい解説

固体
こたい
solid

物質の集合状態の1つで,圧縮およびずれに対して強い抵抗をもち,一定の体積と形をもつ状態。すべての物質は低温,高圧のときには固体となる。固体は熱を加えれば融解して液体となり,低圧のときには昇華して気体となる。構造論的には,物質を構成する原子,分子,イオンなどが互いに力を及ぼし合って規則正しく周期的に配列しているものを結晶といい,ガラスのような非晶質で構成微粒子が液体状態のように乱雑に分布しているものを非晶質固体という。外力を加えてもまったく変形しない理想的な固体を剛体と呼ぶが,現実の固体は外力を受けると弾性変形や塑性変形を示す。

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化学辞典 第2版 「固体」の解説

固体
コタイ
solid

物質の凝集状態の一つで,外力の作用しないかぎり一定の形を保ち,一定値以下の外力に対しては永久的変形を受けないもの.一定の形と体積を保ち,多少とも硬さをもつ点で液体や気体と異なる.しかし,普通の状態では固体とみなされる可塑性物質は,条件によっては外力により容易に永久的変形を受けるから,固体と液体の中間状態では両者の区別は明確でない.構造的には多くの固体は結晶質であり,一見,非結晶質(無定形質)と見られる固体も微視的構造では結晶質のものもある.固体を結晶質のものに限ることも多い.

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世界大百科事典(旧版)内の固体の言及

【立体】より

…平面上に描かれた図形に対し,空間的ひろがりをもった図形を立体という。例えば,球,直方体,角柱,角錐,円柱,円錐などは立体である。なお,立体ということばは空間の意味にも用いられる。例えば立体図形とは空間図形すなわち空間にある点,線,面,角,立体などで作られる図形のことで,立体幾何学とは空間図形を扱う幾何学のことである。【中岡 稔】…

※「固体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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