一般には,直接民主制の現れとして,国民が直接,国民投票等によって,法律・条約や公務員の任免等の適否を審査することを意味するが,日本では最高裁判所裁判官の任命の国民審査を指すのが通常である。
日本国憲法79条2項・3項は,最高裁判所の裁判官が任命されたときは,その任命後初めて行われる衆議院議員の総選挙のときに,国民の審査を受けなければならず,その後10年を経過するごとに,その後初めて行われる衆議院議員総選挙のときにあらためて国民の審査を受けなければならないが,その結果投票をした国民の過半数がその裁判官の罷免を可とするときは,裁判官は罷免される,と規定している。その手続等の細目については,最高裁判所裁判官国民審査法(1947公布)が定めている。すなわち,国民審査の資格を有する者(審査人)は,衆議院議員の選挙権者と同じであり,審査人の名簿は,衆議院議員選挙のための選挙人名簿を用いる。国民審査の投票用紙には,審査を受ける裁判官の氏名を,それが数人の場合はくじで定めた順序によって印刷する。審査人は罷免させたいと思う裁判官があれば,用紙のその裁判官の上欄に自分で×の記号を記載して投票し,そうでない裁判官については,何も記載しないで投票する。衆議院選挙に投票した者が,裁判官の審査については投票しないこと(棄権すること)ができるか(とくに,数名連記の裁判官のうち一部裁判官の上欄に棄権の趣旨を表示し,もしくはその裁判官名を抹消することによりその裁判官に対する投票を棄権することができるか)については争いがあるが,少なくとも審査の投票用紙を受けとらないか,または返却することによって棄権することはできると解されている。前述のように,×のついた投票の数が投票総数の過半数に達すれば,その裁判官は罷免される。ただし投票総数が選挙人名簿に記載された者の総数の100分の1にみたないときはこの限りでない。
国民審査制度は,いったん任命された最高裁判所裁判官を罷免解職すべきかどうかを審査する点で,一種のリコール制であるが,最高裁判所裁判官の任命を通じて,行政府が司法部を支配するおそれのないよう,主権者たる国民にコントロールさせる意味をももっている。もともとアメリカのミズーリ州憲法(1945年)にならった制度であるが,国民に裁判官の適否を判断させることは無理であること,制度が政治的に悪用されたり,裁判官が世論に過敏になって,裁判官の独立が害されるおそれがあること,実際にはこれによる罷免は予想できないことなどを理由に,廃止論も唱えられている。しかし違憲立法審査権を有し,司法部の要をなす最高裁判所の裁判官の地位の重大性,この制度のもつ国民主権の具体化としての重要な意義などを考えると,あくまでこれを堅持するとともに,他方,いっそう改善を加え,国民に親しみやすいものとするよう努めるべきである。
執筆者:松浦 馨
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直接民主制の一つで、一般に国民が直接に法律、公務員などを審査する制度をいう。日本では、内閣が任命した最高裁判所裁判官を国民が国民投票によって審査する制度をさす。
この制度は、裁判官公選の弊害を痛感したアメリカ合衆国において、1937年アメリカ法曹協会によって、各州で行われている裁判官公選にかわるものとして考案された。すなわち、法曹協会が裁判官の選任を一定の条件のもとに行政部にゆだね、一定期間後に国民投票によってこれらを罷免しうるという制度を考案し、この方式を各州で採用するようすすめ、ミズーリ州がこの方式を採用した。
日本では、最高裁判所裁判官に対する民主的なコントロールの方法として、国民投票によってこれを審査することが憲法に定められているが、この方法についてはアメリカの影響があるといわれている。国民投票は任命後の最初の衆議院議員総選挙のときに行い、その後10年を経過したのち初めて行われる衆議院議員総選挙のときさらに行い、その後も同様とされる。投票者の多数が罷免を可としたときは、その裁判官は罷免される(憲法79条3項)。この制度は憲法第15条の国民の公務員選定権・罷免権の一つの表れであり、その働きは任命の事後審査とリコールの二側面をもっている。国民審査が最高裁判所裁判官にだけ適用される趣旨は、それが非常に重要な地位であり、その在任について国民の判断の機会を認めることが民主主義のたてまえから望ましいと考えられたためである。
しかし、もともとこの制度は裁判官公選制にかわるものとして考えられたもので、公選制の伝統のない日本では、裁判官についての知識が薄いところから、この制度の是非がしばしば論議の対象とされてきた。事実、国民審査により罷免された裁判官は現在まで1人もないというだけでなく、罷免を可とする投票は、否とする投票の10%前後にすぎず、現状維持的な決定しか生み出していないとの批判もある。しかし、なによりも主権者である国民に、最高裁判所の構成についてコントロールの権利を認めることは、直接民主制にとって当然であり、少なくとも政府の情実人事に対する安全弁としての役割は果たしうると考えられる。そのためにはその審査・手続に関してよりよい手段が望まれ、とりわけ、判断できないという趣旨の無記入の投票も罷免の意思がないと判断されて、すべて否の投票として数えられるため、罷免について「可」「否」の記入投票に変えたほうがよいという改正意見が主張されている。
[池田政章]
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(蒲島郁夫 東京大学教授 / 2007年)
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