各国が所有する生産上の適性を生かし、もっとも適合した商品の生産に専門化(国際的特化という)すること。この国際分業の結果として商品の国際的交換(貿易)が発生する。分業には、アダム・スミスが指摘したように、作業を分割するもの(技術的分業)と職業を分化するもの(社会的分業)とがあり、ともに生産能率を増進させる最大の原因となるものである。国際分業は後者の意味の分業であり、各国が生産上の適性に応じて生産分野を分担しあうことである。
国際分業はどういう条件のもとに発生するか、その利益はどういう性質のものかについて明らかにした有名な学説として、リカードが唱えた比較生産費説または比較優位説といわれる理論がある。これは、各国の適性を生産費で表現し、各国は相対的に生産費が低い、つまり比較優位をもっている商品の生産に特化(国際分業)してそれを輸出し、相対的に生産費が高い、つまり比較劣位にある商品を輸入すべきであり、そうすることによって、各国は自国の生産能率を高め、ひいては世界全体の利益(生産量の増大または生産資源の節約)をもたらす、というものである。自国が比較優位にある生産分野に特化する場合、比較劣位にある商品の生産をまったく行わなくなるケースと、生産は縮小するが継続するというケースがある。前者のケースを完全特化、後者のケースを不完全特化という。
比較生産費説によれば、各国の生産費に相違があれば貿易が行われる。すなわち、生産費の相違が各国の輸出品を決定し、貿易による交換が行われるわけである。その意味でこの理論は国際分業パターン決定の理論ともいわれている。国際分業パターンの決定、つまり、どうして国によって生産上の適性の相違、すなわち生産費の相違が発生するかについては二つの考え方がある。その一つは、それぞれの国で生産の自然的な条件とか社会的条件が違っており、その相違が生産費差を発生させると主張する。国により自然的条件、つまり資源分布とか気候が相違している。石油のとれる所ととれない所、綿花の栽培のできる所とできない所がある。また社会的条件、つまり人間能力(手先の器用さや科学的な能力)や過去の遺産(工場や鉄道など)の相違がある。このような資源分布や人間能力の相違が、それぞれの国の生産費の相違を生むという考え方である。周知のように、土地、労働、資本は一般的生産要素といわれている。それに対して、資源分布や人間能力というのは特殊的要素である。したがって、この考え方は特殊要素説と名づけられている。もう一つの考え方は、各国に存在している資本や労働という一般的な生産要素量の相違がそれぞれの国における生産費の相違を生み出すというもので、一般的要素説といわれている。これはこの学説の提唱者の名をとってヘクシャー‐オリーンの定理(H‐O定理)ともいう。なお、第二次世界大戦後に先進国間貿易(工業品貿易)が急速に増大してきたとき、その原因として技術革新に注目した技術ギャップ論やR&D(研究開発)要素説などは特殊要素説の新しい展開といえる。
また、国際分業には垂直的国際分業と水平的国際分業とがある。垂直的国際分業は先進国の工業品と発展途上国の一次産品(農産物や鉄鉱石などの原料)との貿易のことであり、水平的国際分業は先進国間における重化学工業品を中心とした工業品貿易のことである。第二次世界大戦後は伝統的な垂直的国際分業が衰退し、水平的国際分業が盛んになってきた。その結果として世界貿易に占める先進国間貿易の割合が拡大している。
[田中喜助]
『小島清著『外国貿易』(1981・春秋社)』▽『R・F・ハロッド著、藤井茂訳『国際経済学』(1976・実業之日本社)』▽『アダム・スミス著、大河内一男監訳『国富論I』(1976・中央公論社)』
外国との間で,それぞれ割安に生産できるものの生産を増やして輸出し,他方割高のものの生産を減らして不足分を輸入すれば,自国も外国もともにアウタルキーAutarkie(自給自足経済)の場合より消費量が増える。日本はたいへん不足している原燃料を輸入し,国内の熟練労働,機械設備,高水準の技術で加工して輸出するという形態の国際分業を活用して経済発展してきた。国際分業はいわば国是といってもよい。しかし国内で輸入品と競合する生産を行っている生産者にとっては,他の有利な産業に移れないかぎり,簡単に国際分業に賛成できない。日本で国際価格の7倍も割高な米生産者や,発展途上国からの安価な輸入品との競争に直面している単純労働集約的商品(雑貨や下級繊維品等)の生産者に国際分業論がなかなか受け入れられないのは,他産業への転換が容易ではないからである。しかし,輸入制限や輸出国に自主規制を要求して,これらの産業を保護し存続させても,ますます非効率的になる傾向が強い。積極的に他産業への転換を促して輸入を増やすといった積極的産業調整政策が,国際分業促進にとってますます必要になってきている。日本の工業力,とくに技術・知識集約的生産での国際競争力が強まるにつれて,国際分業の形態も変わらざるをえなくなってきた。従来のように原燃料だけ輸入し,工業品を全部国内で自給し輸出するといった垂直的分業だけでは,大幅な貿易収支黒字がますます拡大し,欧米諸国や新興工業国との貿易摩擦が強まるようになってきた。今後は単純工業品だけでなく,消費財,部品,中間財まで多様な工業品を輸出するとともに輸入もする,水平的分業を促進する必要がある。また国際分業も商品貿易だけでなく,サービス貿易や直接投資,技術移転も含めて,多様な形態で進められるようになった。
執筆者:山沢 逸平
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…ある国はなぜ自動車や鉄鋼を輸出し,石油や鉄鉱石を輸入するのであろうか。A.スミスやD.リカード以来,経済学者の間でこの疑問に答えようとする試みがさまざまな形でなされ,国際分業の理論として展開されてきた。比較優位という考えはリカードによって初めて明確に述べられ,以後国際分業の理論の中心概念となっている。…
…アメリカの政治経済学者バーノンRaymond Vernon(1913‐ )が唱えた個別商品にかかわる動態的国際分業理論。バーノンは,商品が生物と同様に出生から成長を経て成熟し,やがては衰退するというライフ・サイクルをもつことに注目し,国際分業のパターンがそれらの諸局面を通じてどのように変化するかを論じた。…
…つまり各国がそれぞれ割安な商品の生産に特化する。これが国際分業であり,それによって各国の生産要素を最も効率的に使う,資源の最適配分(資源配分)が実現する。市場経済社会では,だれかが計画したり,命令したりしなくとも,各人,各企業が市場価格と比べて割安に生産できるものを生産するという形で特化していけば,価格と生産費のシグナルに導かれて比較生産費原理にかなった貿易の型が実現し,輸出側も輸入側もともに利益を得て,しかもそこでは国際的な最適資源配分が実現している。…
※「国際分業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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