国際漁業(読み)こくさいぎょぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「国際漁業」の意味・わかりやすい解説

国際漁業 (こくさいぎょぎょう)

1958年の第1次海洋法会議および60年の第2次海洋法会議で,それまで慣習法として発展してきた〈海洋自由〉の原則が法典化された。しかし,67年国連マルタ大使が深海海底とその資源を〈人類共同の財産〉として国際的に管理すべきことを提唱したことに端を発し,海洋法一般について総合的に見直すため,73年に第3次海洋法会議が開催された。74年に実質審議が開始されると,すでに同会議の準備会議のため発足していた国連の拡大海底平和利用委員会でケニアが提唱していた200カイリ経済水域概念は,発展途上国のみならず西欧諸国の支持も得て,会期を重ねるとともに確固たるものとなった。その結果,海洋法会議の最終的結論を待たずに,77年から多数の国が経済水域ないし漁業水域を設定した。日本も自国漁業の利益を損なわないよう同年5月に200カイリ漁業水域を設定した。77年に200カイリ水域を設定したおもな国は,アメリカ,ソ連,カナダ,EC諸国,南アフリカ共和国であり,78年および79年のオーストラリア,ニュージーランド,南太平洋諸国による設定で,世界の主要な漁場は200カイリ体制下に置かれることになった。その結果,日本の遠洋漁業による漁獲実績は,1974年の426万tから77年には290万tに減少した。各200カイリ水域での操業は,毎年政府間および民間間での交渉を通じ決定されるが,入漁料の支払等応分の負担をすることで一定量の漁獲が認められている。国連海洋法条約は82年に採択され,日本では実施協定を含めて96年7月に発効し,200カイリの〈排他的経済水域〉は国際的ルールとして確立された。

 以下,各国別に日本と諸外国の漁業関係について述べる。

200カイリ法の発効(1977年3月1日)に伴い,アメリカの同水域における日本漁船の操業のための日米漁業協定が1977年11月に締結された。しかし,アメリカの漁業関係者の一部が200カイリ水域で操業する外国のなかに水産物の輸入規制を行っている国があると非難したため,78年各国の輸入規制の現状を大統領に報告することが法改正により義務づけられた。そこで,78年以来対日漁獲割当を協議する政府間交渉において,アメリカは自国産水産物について,日本が輸入量をふやす,または規制をなくす等のアクセス改善を要求し,スケトウダラなどアメリカの未利用魚種の対日輸出拡大を,漁獲割当の要件とするに至った。その後88年以降はアメリカの200カイリ水域内での対日漁獲割当はなく,日本の漁船はこの海域には入れない。

1977年のソ連および日本の200カイリ水域設定を踏まえ,両国の各水域内における相互入漁のための交渉が行われ,暫定協定を経て84年に〈日ソ地先沖合漁業協定〉が締結され,毎年の日ロ漁業委員会の協議・交渉により漁獲割当て等の入漁条件を決めている。98年は相互入漁9万5000t,有償入漁1万1000tの取決めとなった。また200カイリ水域以遠の公海漁業について1978年4月に日ソ漁業協力協定が締結され,サケ・マスの操業に関する規制が行われてきた。ソ連は自国系サケ・マス資源の保存に多額の経費を支出しているため日本に対しても相応の負担を要求し,日本側は機材等の提供を行ってきた。200カイリ時代に入り,日本の北洋サケ・マス漁業は,日米加漁業条約日ソ漁業条約により漁場が著しく制限され,92年には日・米・ロシア・カナダの〈北太平洋サケ・マス保存条約〉により北太平洋の公海におけるサケ・マスの漁獲が禁じられたため,以後はロシアおよび日本の200カイリ水域内での操業のみとなった。現在は1985年再締結の〈日ソ漁業協力協定〉にもとづく協力費負担や操業条件のもとで若干のサケ・マス操業が行われている。

世界の四大漁場の一つである北西大西洋岸沖合の漁業は,1949年締結の北西大西洋漁業条約のもとで長い間管理されてきた。しかし,アメリカ,カナダの200カイリ水域設定に伴い廃棄され,79年1月北西大西洋漁業についての多数国間協力条約が締結された。この条約のもとでは,200カイリ内について資源の調査研究を行い,200カイリ外について資源の保存措置を決定している。したがって,カナダの200カイリ水域内の操業は各国との2国間協定により認められることとなり,日本は1978年日加漁業協定を締結した。カナダは西大西洋水域での資源保存への協力度合に応じた漁獲割当てを強調している。

南太平洋水域は,日本の遠洋マグロ漁業の重要な漁場で,マグロはえなわ漁業,カツオ一本釣り,巻網による操業が行われており,さらにニュージーランドは,マグロに加えタイ,タラ類の好漁場である。これらの国が200カイリ水域を設定したことに伴い,実績確保のため各国と漁業協定が締結されている(ニュージーランドとの協定は97年失効)。そのほか,政府間協定がなんらかの理由により締結できない場合,パプア・ニューギニア,ミクロネシア連邦,パラオなどのように民間協定の締結により操業確保が図られた場合もある。また,チリ,アルゼンチン,ニュージーランドなどのように,合弁事業を行い,現地法人による操業が行われる場合もある。しかし,諸地域で環境保護や自国の漁業の振興のために他国の漁船を締めだす動きが強まっている。
漁業専管水域 →水産業
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