翻訳|status
集団や社会の階層構造上の特定の位置を示すもの。その地位を占める者は特定の社会的資源の配分にあずかる。どのような社会でも、そこに生活する人々の間には、なんらかの形で階層構造がつくられており、それを通じて社会秩序を維持している。性、年齢といった比較的単純明瞭(めいりょう)なものを基準としてつくられる階層構造もあるが、一般に階層構造は細分化されており、かつ複雑微妙な形をとっている。
[本間康平]
元来、地位とは権利と義務の範囲を決める法制上の概念として用いられ、社会生活を営むうえで欠くことのできない資格要件を示すものであった。19世紀に入り、ヨーロッパでは旧来の社会秩序が大幅に変わり、人々の地位にさまざまな影響を及ぼした。日本でも、明治維新によって既存の身分秩序が崩壊したため、高い地位にいた人々は、それまでに享受していた特権や名誉が失われていくことを経験したし、低い地位を占めていた人々は、自分たちの運命が開けていく可能性を信じることができた。工業化の進展とともに、このような特権や名誉の侵食がいっそう進んでおり、地位を法制上の問題として固定的にとらえることはできなくなっている。
社会構造上の位置を示す地位には、地位を占めている人々の個人的資質とは無関係に、その位置を規定する権利と義務、および、役割行動についての期待の枠組みがはっきりと打ち出されている。同時に、地位が確定しているということは、その地位を占める当事者がプラスの特権をもつことによって社会的尊敬をかちとることを主張し、あるいは、マイナスの特権をもつことによって社会的蔑視(べっし)の対象となることを受認するとともに、その事実が社会的に確認されていることを示す。したがって、ある地位を占めるということは、その地位を占める当人が主張するだけでなく、人々がその主張を容認しているという事実が不可欠である。
[本間康平]
地位は、地位を規定する要因によって二つに大別される。一つは生得的地位ascribed statusとよばれるもので、人々が生まれながらにしてもっているものを規定要因とする。性や人種、あるいは血統、家柄、遺産などに基づくもので、人々の基本的な生活様式を規定する。もう一つは獲得的地位achieved statusとよばれるもので、個人的な努力の結果として、あるいは幸運などによって手に入れることのできるものを規定要因とする。教育程度や職業などさまざまなものが含まれ、社会生活を営むうえで決定的な意味をもつ。
生得的地位であれ獲得的地位であれ、特定の地位を占める個人や集団がその地位に基づく優越性を表示するために使われるものが地位のシンボルである。シンボルとなるものは、ことば遣いや礼儀作法といった行動様式から、位階勲等や役職などの制度、記章や服装をはじめとする意味を付与されたものなどさまざまで、手に入れることがむずかしければそれだけシンボルとしての効用は大きい。
[本間康平]
同じような地位を占める人々は地位を契機とする集合体を形成する傾向がある。集合体の一員になることによって、人々は生活様式や利害関係について共通の認識をもち、互いに一体感を育てるだけでなく、自分たちに与えられている特権を守るとともに、よりよい生活を享受するために、より高い地位を求めて組織活動を展開している。
[本間康平]
『R・リントン著、清水幾太郎・犬養康彦訳『文化人類学入門』(1952・東京創元社)』
人々が社会において占める相対的位置。個人が占める地位は,富や権力や威信などの社会的資源が,個人にどれだけ配分されているかによって定まる。権力や威信などは,人々の間に配分の差異があってはじめて意味をもつ資源であるが,一般に,人々に配分される社会的資源の内容や程度には差異が存在する。人々は社会において,さまざまな異なる地位を占めているのである。社会的資源の配分の度合を多次元的な指標として,人々の地位の布置が測定され,地位連関の構造である社会成層すなわち階層構造が把握される。社会的資源の操作的な指標としては,所得,職業的威信(職業の社会的評価),学歴がおもに用いられる。学歴が主要な指標として用いられるのは,知識そのものが,人々の欲求の対象である社会的資源の一つであるということと,現代社会において,学歴がさまざまの社会的資源の獲得に大きく貢献しているということにある。
社会的資源の配分は,人々の属性や業績を基準としてなされる。用いられる基準の違いによって,属性的地位ascribed statusと業績的地位achieved statusに大別される。前者は,個人の能力や努力に関係なく,血縁,地縁,年齢,性,人種などを基準とするもので,このような属性を基準として社会的資源の配分が行われている社会制度としては,世襲制,カースト制などがある。
一方,個人の示す業績によって社会的資源が配分されるのは,現代産業社会の特徴とされる。プロスポーツ選手の得る報酬は,明らかに彼の業績に基づいている。しかし,企業における年功序列や男女差別,人脈等々の存在は,現代社会における地位の配分が,属性的要因と業績的要因の複合によっていることを示している。人々は,自己の有する属性や,自己が示す業績によって,地位を獲得したり失ったり,あるいは地位のヒエラルヒー(階層構造)を上昇したり下降したりという地位移動を経験するのである。
執筆者:渡辺 秀樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…この点に関して心理人類学者のF.L.K.シュー(許烺光)は,社交を,地位・安全と並ぶ人間の基礎的な社会的欲求だとする。彼によれば,地位statusは,自分の所属する集団での評価のあらわれであって,仲間うちでどの程度重要視されているかを示す尺度である。安全securityは,仲間との紐帯(ちゆうたい)を確信することであり,その同類意識に基づいて相互に援助しあうことになる。…
…地位や階級などと同様,社会における人々の序列的位置を指示する概念。階級が経済関係を基底とする人々の序列化であるのに対し,身分の序列化は法または慣習によって定まる。また,地位の配分には世襲による属性的地位と,業績による獲得的地位があるが,身分は属性的地位であり,地位移動すなわち身分の上昇・下降は非常に困難であり,固定的な序列として人々に観念される。人々の序列化における身分から階級へという移行は,中世封建社会から近代産業社会への変化の一つの指標でもある。…
… このように社交によって社会が成り立ち,それを求める欲求はだれにでもあるのである。この点に関して心理人類学者のF.L.K.シュー(許烺光)は,社交を,地位・安全と並ぶ人間の基礎的な社会的欲求だとする。彼によれば,地位statusは,自分の所属する集団での評価のあらわれであって,仲間うちでどの程度重要視されているかを示す尺度である。…
※「地位」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新