地方公共団体が賦課・徴収する税の総称。地方公共団体が地方税を賦課・徴収する固有の権能をもつことは、憲法第92条および地方自治法第223条に規定されているが、地方税を賦課・徴収する直接の根拠は、地方公共団体が制定する条例にある。納税者は各地方公共団体の条例によって納税義務を負うことになる。地方税法は地方公共団体の条例に対していわば大枠を定めたものといえる。
[大川 武]
地方税は、租税一般に要求される条件のほかに次のような条件を満たすものであることが望ましいとされている。
(1)普遍性(それぞれの地方公共団体が十分な収入をあげうる税であること)、
(2)安定性(安定した収入が得られる税であること)、
(3)伸張性(増加する経費に対応して増加する収入をあげうる税であること)、
(4)伸縮性(地方公共団体の意思によって収入を増減しうること)、
(5)負担分任性(広く住民が経費を分担しあうという趣旨に沿った税であること)、
(6)地方公共団体の行政または施設との関連性(行政サービスから受ける利益に応じて負担する応益性のある税であること)。
これらは地方税原則とよばれる。この六つの原則のなかでは、負担分任性を掲げることについては否定的な意見もある。また、応益性についても、基本は応能性に置くべきで、応益性はそれに加味する程度で考慮すべきであるという考え方もある。これらの地方税原則には相互に矛盾するものも含まれており、結局、それぞれの特性を備えた税を適当に組み合わせ、全体としてこれらの要請にできるだけこたえうるようにくふうするほかない。
[大川 武]
わが国の現行の地方税制の基礎は、1949年(昭和24)に来日したシャウプ税制使節団の勧告に基づいて50年に実施された、国と地方を通ずる税制の大改革によって確立された。シャウプ勧告は地方税制の基本的な原則として次の4点をあげた。
(1)税制は簡素でなければならない。
(2)各地方税は効果的な地方行政を可能にするようなものでなければならない。課税標準は特定の地域に明確に割り当てうるものでなければならない。
(3)国と都道府県と市町村の間には税源の分離があるべきである。
(4)地方公共団体は税率を上げ下げできる権限をもたねばならない。そのうえで、地方税体系として、都道府県税には付加価値税、入場税および遊興飲食税を、市町村税には住民税と固定資産税をあてるように勧告した。
1950年の改正でもシャウプ勧告がそのまま実施に移されたわけではないが、まもなく税制の見直しが始まり、54年の改正で、付加価値税(ただちに実施されず暫定的に従来の事業税および特別所得税が課されてきた)の廃止と事業税の創設(従来の事業税と特別所得税の統合)、入場税の国への移管とともに、道府県民税・大規模償却資産に対する固定資産税・不動産取得税・道府県たばこ消費税の創設による都道府県の税源の拡充が行われた。他方、市町村税は市町村たばこ消費税の創設など小幅な改正にとどまった。この改正で、道府県税には消費課税を、市町村税には所得・資産課税をあてるというシャウプ勧告の体系は崩れた。また国、都道府県、市町村の三段階間での税源の重複も進められた。その後も、軽油引取税(1956年)、都市計画税(1956年)、軽自動車税(1958年)、自動車取得税(1968年)、特別土地保有税(1973年)、事業所税(1975年)が創設され、1964、65年度には住民税課税方式の統一が行われた。88年度には、いわゆる税制の抜本改正によって国税として消費税が導入されたことに伴って、市町村税の電気税、ガス税、木材引取税が国税の物品税とともに消費税に一本化され、道府県別の娯楽施設利用税、料理飲食等消費税、道府県たばこ消費税がそれぞれゴルフ場利用税、特別地方消費税、道府県たばこ税に、市町村たばこ消費税が市町村たばこ税に変更された。ただし、この抜本改正のねらいは国税の強化にあった。さらに、94年度(平成6)の税制改正で地方消費税が導入された(97年度施行)。
[大川 武]
1999年度(平成11)における地方税の体系は次のとおりである(かっこ内は構成比、単位%)。
道府県税 〔1〕普通税(88.2)(1)法定普通税(88.0)(ア)道府県民税(24.8)(イ)事業税(27.0)(ウ)地方消費税(17.0)(エ)不動産取得税(4.0)(オ)道府県たばこ税(1.9)(カ)ゴルフ場利用税(0.6)(キ)特別地方消費税(0.7)(ク)自動車税(12.0)(ケ)鉱区税(0.0)(コ)狩猟者登録税(0.0)(サ)固定資産税(0.1)(2)法定外普通税(0.1) 〔2〕目的税(11.8)(1)自動車取得税(3.2)(2)軽油引取税(8.7)(3)入猟税(0.0)
市町村税 〔1〕普通税(91.6)(1)法定普通税(91.6)(ア)市町村民税(40.9)(イ)固定資産税(45.6)(ウ)軽自動車税(0.6)(エ)市町村たばこ税(4.2)(オ)鉱産税(0.0)(カ)特別土地保有税(0.2)(2)法定外普通税(0.0) 〔2〕目的税(8.4)(1)入湯税(0.1)(2)事業所税(1.6)(3)都市計画税(6.7)(4)水利地益税(0.0)(5)共同施設税(-)(6)宅地開発税(-)
ここで、普通税とは使途に制限のない、一般的財政需要に充当される税のことであり、これに対して目的税とは使途が特定されている税のことである。また法定とは税目の内容が地方税法で定められていることで、それ以外のものを法定外という。地方分権一括法の施行(2000年4月)で、法定外普通税の許可制が協議制に変わり、それまで認められていなかった法定外目的税の創設が可能になった。
道府県税では、比重がもっとも高いのは事業税(大部分は法人事業税)で、ついで道府県民税、地方消費税、自動車税、軽油引取税の順になっている。道府県税は、法人事業税と道府県民税を主体にし、消費税と自動車関係税がこれを補完する体系になっている。市町村税では、比重が高いのは固定資産税と市町村民税で、この二つで市町村税の85%以上を占めている。道府県税は所得関係税を中心にしているため景気の影響を受けやすく、不安定であるのに対して、固定資産税の比重の高い市町村税は比較的安定している。
なお、道府県は、納付された自動車取得税、ゴルフ場利用税、地方消費税、特別地方消費税(2000年3月31日をもって廃止)、道府県民税のうちの利子割の、それぞれ一定部分を市町村に納付し、政令指定都市を包括する道府県は、納付された軽油引取税の一定部分を政令指定都市に交付するものとされている。また、東京都の特別区の区域では、都が道府県税の全部と市町村民税法人分、固定資産税、特別土地保有税、事業所税、都市計画税を課し、特別区は残りの市町村税を課することになっている。
現行の地方税体系は、シャウプ勧告に基づく当初の税制からは、だいぶ形を変えたものになっている。シャウプ勧告は簡素な税制、国、都道府県、市町村間の税源の分離等を掲げたが、前で述べたように、1954年の改正以降、道府県税を中心に税目の創設が続き、税目数は大幅に増加し多様化した。それと同時に、国・都道府県・市町村の税源の重複も進んだ。2001年現在、所得課税では、国税の所得税、道府県・市町村税の住民税所得割、道府県税の個人事業税の間で、法人所得課税では、国税の法人税、道府県・市町村税の住民税法人税割、道府県税の法人事業税の間で、消費課税では、国税消費税と地方消費税の間や国・道府県・市町村たばこ税の間で、税源の重複がみられる。税源の重複は、国と地方がそれぞれ十分な税収をあげうる税源を求めようとするとき避けられない傾向ではあるが、国の課税政策との関係がつねに問題となってくる。
[大川 武]
歳入決算額(都道府県と市町村の純計)に占める地方税収の構成比の推移をみると、1979年度(昭和54)以降一貫して上昇してきたのが、88年度の44.3%を頂点に低下し始め、89(平成1)~91年度は41~42%、92年度には40%を割り、95年度33.2%、99年度33.7%と落ち込んでいる。このような地方税の低迷は、いうまでもなく、景気後退や景気対策としての減税の実施によるもので、税収の不足分は地方交付税の増額や地方債の増発で補填(ほてん)されてきた。ただし、都道府県、市町村別にみると、この落ち込みは都道府県税のほうがはるかに大きく、89年度40.9%、95年度29.3%、99年度29.8%となっている。都道府県税が法人事業税という景気変動の影響を受けやすい税に大きく依存しているためである。これに対して、市町村税の構成比は、89年度39.9%、95年度33.6%、99年度33.5%と、落ち込みは相対的に小さい。
次に、1999年度の主要な地方税について対前年度増減率をみると、道府県税の場合、合計では4.8%の減であるが、その内訳は道府県民税1.1%減(個人分1.3%増、法人分10.8%減、利子割6.1%増)、事業税12.3%減(個人分15.5%減、法人分12.1%減)、地方消費税2.8%減となっている。また、市町村税の場合は、合計では0.8%の減となり、うち市町村民税5.1%減(所得割3.5%減、法人税割12.2%減)、固定資産税2.5%増となっている。個人住民税や法人事業税の恒久的な減税の実施や法人企業の業績不振で、住民税や事業税の大幅な減収が地方税の減少をもたらしたことがわかる。とくに法人分の減少が大きい。
もう一つ注意しなければならないのは、大都市圏の都道府県ほど法人関係税の急激な減少の打撃を強く受けたことである。法人住民税・事業税の合計額は、東京都では1989年度に1兆8468億円であったのが、99年度には9735億円と47%も減少している。同じ期間に、大阪府は8352億円から3948億円へと53%の減、愛知県は5884億円から3673億円へと38%の減、神奈川県は5221億円から2185億円へと58%の減となっている。愛知県を除いて全国合計の減少率(40%)を大きく上回っており、しかもこれらの4都府県の法人住民税・事業税は、全国合計の50%(1989年度)を占めているのであるから、これらの都府県にとってこの減少の影響はきわめて大きかった。このことは、都道府県税が偏在度の強い、不安定な税に大きく依存していることに対して、改めて疑問を投げかけた。
現在、ほとんどの地方公共団体は地方交付税に依存している。1999年度現在、不交付団体は、都道府県では東京都のみ、大都市(12)では0、中核市(25)では1、その他の都市(634)では42、町村(2558)では41にすぎない(かっこ内は全団体数)。経済力のある大都市、中核市のほとんどが、地方税だけでは標準的な行政をまかなえない交付団体になっている。そのうえ、地方公共団体間の財政力の格差は大きく、また財政力の低い団体が多い。都道府県と市町村の合計でみて、財政力指数(基準財政収入額を基準財政需要額で割って得た数値の過去3年間の平均値。この数値が低いほど標準的な税収入の比率が低いことを示す)が0.30未満の団体が43.7%を占め、0.30以上0.50未満が25.8%、0.50以上1.00未満が27.2%、1.00以上(不交付団体)が3.3%となっている(99年度)。地方税の配分が不十分であること、地方税に偏在度が大きいものが含まれていることなどを反映するものであろう。99年度における国と地方の歳出割合は38.7対61.3であるのに対して、国税と地方税の比率は58.4対41.6となっている(ただし、歳出の財源には租税以外のものも含まれる)。また、地方税のなかで地域間の偏在度が大きいのは、事業税、住民税法人税割、固定資産税(土地)であり、地方消費税の偏在度は比較的小さい。
このような現状を踏まえ、今後の地方分権の推進に伴う地方の役割の増大を考えるならば、国庫支出金の整理、地方交付税の役割の見直しとあわせて、地方税収の拡充が不可欠なことは明白である。そして、その拡充にあたっては、国税・地方税を通ずる国民の税負担の公平性に配慮しつつ、普遍性、安定性、応益性の観点をより重視した地方税体系を構築することが望ましいであろう。
[大川 武]
『自治省税務局編『地方税制の現状とその運営の実態』(1994・地方財務協会)』▽『神野直彦・金子勝編著『地方に税源を』(1998・東洋経済新報社)』▽『橋本徹編著『地方税の理論と課題(改訂版)』(2001・税務経理協会)』▽『林宏昭著『これからの地方税システム』(2001・中央経済社)』
国が課税し徴収する国税に対し,地方公共団体が課税し徴収する税。日本を含め世界の多くの国では地方自治が重視されており,各地域において住民に直接関係のあることがらは,その地域の住民自身,あるいは彼らの代表である地方政府によって処理することが,民主主義の実践のためにも,また住民の必要とする財・サービスの効率的な供給のためにも望ましいと考えられている。このように地方自治の推進にとって不可欠の要請は,できるかぎり各地方自治体が独自の財源をもつことである。
今日のように経済活動が多様化し,税源や担税力の分布が複雑化した状況においては,単一の税あるいはほんの少数の税によっては,いろいろな租税原則を満たすことは困難であり,大小の多くの税から構成される租税体系となっている。そこでおのおの長所と短所とを備えたいろいろの税のうち,どのような税が地方税としてふさわしいかが問題となる。この問題に答えるために地方税の原則とよばれるものが打ち立てられてきた。それらは,(1)収入が十分にあり,かつ普遍性があること,(2)収入に安定性があること,(3)収入に伸縮性があること,(4)収入に伸長性(所得弾力性)があること,(5)負担分任性があること,(6)地方公共団体の行政または施設と関係が深いこと,などである。(1)の原則にかなう税としては道府県民税,市町村民税,固定資産税,たばこ税などがふさわしい。(2)の要請を満たす地方税としては固定資産税,たばこ税,自動車税などがある。(3)の伸縮性の原則は,各地方自治体は負担と便益を比較考量したうえで,適当な地方公共サービスの量を決定すべきであるから,地方税の税率の選択が住民にとって自由であることが望ましく,標準税率以外の税率で課税する自由を日本のおもな地方税が認めていることは,この伸縮性の要請にかなうものである。(5)の負担分任性の要請は道府県民税や市町村民税に設けられた個人割りの制度に最も明確に表れているが,たとえ少額であっても,すべての住民に負担の分担を求めることにより,住民の参加意識をたかめようとするものである。(6)の原則は,便益と負担の比較考量が住民の合理的な選択に不可欠なことからも明らかである。
1995年度の例をとると,国税,地方税の合計額は約88兆円,うち国税が55兆円,地方税が33兆円である。地方税の内訳をみると,道府県税が14兆円,市町村税が19兆円である。おもな税目ごとでみると,道府県税のなかでは普通税が12兆円で86%の割合を占め,目的税は2兆円でその割合は14%である。普通税のなかでは道府県民税32.1%,事業税32.2%,不動産取得税5.7%,道府県たばこ税2.7%,自動車税11.4%等がおもな税である。目的税は自動車取得税4.4%,軽油引取税9.6%から成っている。市町村税は普通税が18兆円で91.4%を,目的税が1.6兆円で8.3%を占めている。普通税のなかでは市町村民税が最も重要な地位を占め,総収入の44.6%にあたる8.8兆円の収入をあげている。つぎに大きいのは固定資産税の8.3兆円で42.3%を占め,市町村たばこ税が約6700億円で3.4%,特別土地保有税が約1200億円で0.6%の割合となっている。目的税のなかでは都市計画税の収入が1.3兆円で6.6%,事業所税が約3000億円で1.6%を占めている。
地方自治のたてまえからいえば独自の財源である地方税収入のみで財源調達のできるのにこしたことはないが,大きなジレンマは地方税収入のみに依存すると地方自治体間に大幅な財政力格差が生じることである。この財政力格差をある程度まで解消し,均衡化をはかるために,国税収入を地方自治体に交付することによる財源の再分配が実施されている(地方交付税,地方譲与税など)。
執筆者:林 正寿
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地方公共団体が賦課する租税の総称。明治初年の租税は江戸時代の制度・慣習を継承して,地方経費は雑税(府県経費のみ)と民費(府県・大小区・町村)で調達された。1875年(明治8)に雑税を府県税に改めて国税との境界を明確にし,78年の三新法では,府県税・民費を府県経費負担の地方税と区町村経費負担の協議費に改編。88年の市制・町村制,90年の府県制施行により,地方税を府県税,協議費を市町村税に改め,国税などに付加して徴収される付加税を中心とする第2次大戦前の制度が確立された。40年(昭和15)には地域間の格差を是正するため地方分与税(地方交付税の前身)を導入。第2次大戦後はシャウプ勧告により地方財政を強化するため,50年に付加税中心から独立税体系に転換した。
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(浦野広明 立正大学教授・税理士 / 2007年)
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…1878年公布された明治政府最初の統一的地方制度で,郡区町村編制法,府県会規則,地方税規則の三つからなる。徴兵・教育・地租改正などに反対する農民騒擾(そうじよう),国会開設を求める自由民権運動のめばえという物情騒然たる状況に対処するねらいで,大区・小区制の官僚支配への転換をもたらすために発布された。…
…ドイツ,フランス,イタリアといったヨーロッパ大陸型の税制では,間接税の比重が高かったが,最近では英米型の国には及ばないにせよ直接税の比重を高めつつある(〈直接税・間接税〉の項参照)。国民所得に対する国税および国税・地方税の合計の比率で表された租税負担率を先進国について比較してみると,イギリスの負担率が著しく高いのに対しアメリカや日本が相対的に低いのが目につく。これは,アメリカや日本では租税のなかから社会保険料が除外されているのに対し,イギリスでは社会保障費が租税で賄われていることに一部はもとづくものである。…
…その成立過程をみると,まず1871年の廃藩置県の後,府県体制が中央集権的に整備されるなかで,各府県官により行政機構の末端機関として大区・小区が設けられ,幕藩体制下の自治組織であった町村が制度上否認されるが,実際には,地租改正等の新政策を実施するための末端事務と当時の地方費の中心であった民費の課出は,旧来の町村組織に依存せざるをえないという矛盾に陥った。農民騒擾(そうじよう)が続発し自由民権論が台頭するなかで,78年,地方自治制の端緒となる地方三新法(郡区町村編制法,府県会規則,地方税規則)が制定され,大区・小区制が廃止されて郡町村制が復活し,府知事・県令と郡長の行政権の圧倒的優位のもとにではあるが,一応の町村自治と公選制地方議会の設置が公認された。また府県税の税源と支出費目がはじめて統一的に規定され,それと町村費が明確に分離されて地方財政制度が近代化された。…
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