日本大百科全書(ニッポニカ) 「変態(金属)」の意味・わかりやすい解説
変態(金属)
へんたい
transformation
氷を温めると水になる。水を加熱するか、または、密閉容器に入れて減圧すると水蒸気になる。このように、温度や圧力の変化に伴って物質の状態が変化する現象を変態という。
純金属の変態のなかでもっともよく知られているのは純鉄の変態であって、体心立方晶のα(アルファ)鉄は910℃で面心立方晶のγ(ガンマ)鉄に変態する。このγ鉄をさらに加熱すると、1400℃で体心立方晶のδ(デルタ)鉄に変態する。また、α鉄を超高圧容器に入れて常温で加圧すると、約13万気圧で変態して、最密六方晶のε(イプシロン)鉄になる。純鉄以外にも、約20種類の金属が加熱・冷却、あるいは加圧によって変態することが知られている。
合金の変態には各種の様式のものがあるが、大別して2種類に分類される。一つは拡散型変態とよばれるもので、各原子が個々に移動して、別種の結晶を構築し、これが成長するにつれて元の結晶が消滅していく。鋼のパーライト変態は炭素原子の拡散によって進行する代表的な拡散型変態である。もう一つは無拡散型変態またはマルテンサイト変態とよばれるもので、原子の集団の連携移動によって別種の構造の結晶に生まれ変わる。近年、形状記憶性を示す材料として注目されたニチノール合金は、無拡散型変態の特徴を利用したものである。なお、磁気変態はキュリー温度を境界として磁気特性が変わる現象であり、結晶構造は変化しない。
[西沢泰二]