大林太良(読み)おおばやしたりょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大林太良」の意味・わかりやすい解説

大林太良
おおばやしたりょう
(1929―2001)

民族学者。東京生まれ。1952年(昭和27)東京大学経済学部卒業後、同大学東洋文化研究所助手に就任フランクフルト大学ウィーン大学(博士号取得)、ハーバード大学に留学。1962年から東京大学教養学部講師、同助教授、同教授、国立民族学博物館教授(兼任)を歴任。1990年(平成2)の東京大学退官後は同名誉教授、東京女子大学教授、北海道立北方民族博物館初代館長を務める。

 大林は、石田英一郎岡正雄らの日本民族学創成期の学者から直接的な指導を受け、東南アジアの民族学からしだいに中国、北アジア、日本へと関心を広める。第二次世界大戦後の民族学の第一世代として、とりわけ日本神話の系統論、構造分析を手がける。

 著作には神話を扱ったものに『稲作の神話』(1973)、『日本神話の構造』『神話と神話学』(ともに1975)、『東アジア王権神話』(1984)、『シンガ・マンガラジャの構造』(1985)、『神話の系譜』(1986)、『仮面と神話』(1998)などがあり、また『世界神話事典』(1994)、『日本神話事典』(1997)などの編集にかかわる。儀礼習俗を論じたものには『葬制の起源』(1977)、『東と西 海と山』(1990)、『正月の来た道』(1992)、『海の道 海の民』(1996)などがある。共同研究としては東南アジア、オセアニア地域の237文化について「文化クラスター」という概念を用いて、文化要素(「経済」「物質文化・技術」「社会・政治」「宗教・神話」「知識・芸術」の五つのカテゴリーに分類された343項目)の有無を調査した成果が『国立民族学博物館研究報告別冊――東南アジア・オセアニアにおける諸民族文化のデータベース化の作成と分析』(1990)として刊行された。

 方法論的系譜としては伝播主義diffusionism(文化要素の分布に着目してその伝播を歴史的に再構成する民族学の方法)で知られるドイツ、オーストリアの歴史民族学派の流れを汲むが、該博な知識は一つの学派に収まるものではなく、神話学、民俗学、歴史学を接合する一連の業績は「大林民族学」とよばれた。各地域の文化現象の分布をもとにそれらの系統を再構成する視野は広大で、銀河と虹にかかわる神話・伝承を世界的に分析した『銀河の道 虹の架け橋』(1999。毎日出版文化賞受賞)はその集大成とされる。1995年には「日本民族文化の形成に関する卓越した研究」で朝日賞を受賞。

[織田竜也 2018年11月19日]

『『稲作の神話』(1973/オンデマンド版・2014・弘文堂)』『『日本神話の構造』(1975/オンデマンド版・2014・弘文堂)』『『東アジアの王権神話――日本・朝鮮・琉球』(1984/オンデマンド版・2014・弘文堂)』『『シンガ・マンガラジャの構造』(1985・青土社)』『『正月の来た道――日本と中国の新春行事』(1992・小学館)』『『神話と神話学』(1994・大和書房)』『『海の道 海の民』(1996・小学館)』『『仮面と神話』(1998・小学館)』『『銀河の道 虹の架け橋』(1999・小学館)』『大林太良・杉田繁治・秋道智弥編『国立民族学博物館研究報告別冊――東南アジア・オセアニアにおける諸民族文化のデータベース化の作成と分析』(1990・国立民族学博物館)』『大林太良他編『世界神話事典』(1994・角川書店)』『大林太良・吉田敦彦監修『日本神話事典』(1997・大和書房)』『『葬制の起源』(中公文庫)』『『神話の系譜』(講談社学術文庫)』『『東と西 海と山――日本の文化領域』(小学館ライブラリー)』

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20世紀日本人名事典 「大林太良」の解説

大林 太良
オオバヤシ タリョウ

昭和・平成期の民族学者 東京大学名誉教授。



生年
昭和4(1929)年5月10日

没年
平成13(2001)年4月12日

出生地
東京

学歴〔年〕
東京大学経済学部経済学科〔昭和27年〕卒

学位〔年〕
Ph.D.(ウィーン大学)〔昭和34年〕

主な受賞名〔年〕
朝日賞(平7年度)〔平成8年〕,福岡アジア文化賞(学術研究賞 第10回)〔平成11年〕,毎日出版文化賞(第53回)〔平成11年〕「銀河の道 虹の架け橋」

経歴
大学在学中から柳田國男らの影響を受ける。フランクフルト大学、ウィーン大学、ハーバード大学等で民族学を学んだのち、昭和37年東京大学教養部講師、41年助教授、50年教授。国立民族博物館教授を兼任。平成2年東京大学を退官し、東京女子大学教授。また昭和57〜59年日本民族学会会長、北海道立北方民族博物館初代館長もつとめた。日本の民族文化がどのように形成されてきたかを中心に東アジアの神話や伝承、民俗を探求。特に日本神話の起源を解明した。考古学や言語学、歴史学にも詳しく、“邪馬台国論争”でも積極的に発言した。著書に「日本神話の起源」「神話の系譜」「稲作の神話」「日本神話の構造」「東アジアの王権神話」「世界の神話」「邪馬台国」「銀河の道 虹の架け橋」など。

出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「大林太良」の解説

大林太良 おおばやし-たりょう

1929-2001 昭和後期-平成時代の民族学者。
昭和4年5月10日生まれ。ウィーン大,ハーバード大でまなび,昭和50年母校東大の教授となり,国立民族学博物館教授を兼任。平成2年東京女子大教授,また北海道立北方民族博物館長をつとめた。東南アジア,オセアニア,北方民族の民族史・神話と日本文化のかかわりを研究。平成13年4月12日死去。71歳。東京出身。著作に「稲作の神話」「東アジアの王権神話」「仮面と神話」など。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

367日誕生日大事典 「大林太良」の解説

大林 太良 (おおばやし たりょう)

生年月日:1929年5月10日
昭和時代;平成時代の民俗学者。東京大学教授;国立民族博物館教授
2001年没

出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報

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