太子党(読み)たいしとう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「太子党」の意味・わかりやすい解説

太子党
たいしとう

中国共産党内の高級幹部子弟をさすことば。彼らを中心に構成する党内の派閥を意味することもある。太子は中国語で「皇帝の長男」をさすことばであるが、親の七光りの恩恵を受け、生まれながら大きな特権をもつ人々という意味で、語感としてよいイメージをもたれない。マスメディアでは便宜上よく使われることばだが、本人たちが名のっているわけではない。習近平(しゅうきんぺい)、劉源(りゅうげん)(1951― )、薄熙来(はくきらい)(1949― )、王岐山(おうきざん)、兪正声(ゆせいせい)、李源潮(りげんちょう)、劉亜洲(りゅうあしゅう)(1952― )、李小鵬(りしょうほう)(1959― )などがその中心人物といわれるが、横の連係はきわめて緩やかで、なかには険悪な関係にあり口をきかない太子党同士も少なくない。しかし、子どものときから同じような環境で育てられ、知人、友人がほとんど共通しているため、彼らは大きな利権ネットワークを形成している。共産党政権を揺るがすような政治改革には消極的に対応し、保守的な政治スタンスをとる人が多い。また、軍のなかにも太子党が多く、張海陽(ちょうかいよう)(1949― )、張又侠(ちょうようきょう)(1950― )らのように軍の主要指導者になっている人物もいる。党内の支持基盤が弱い習近平(しゅうきんぺい)にとって、軍内の太子党仲間は大きな支えとなっている。

[矢板明夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「太子党」の解説

太子党

中国共産党の高級幹部の師弟グループ。特定の政党や団体を組織しているわけではないが、受け継いだ特権と太いネットワークを基に、政財界で大きな影響力を持つ。党中央では、前国家主席江沢民(チアン・ツォーミン)や賈慶林、李長春ら上海閥とのつながりも深い。
現指導部では、次期国家主席の最有力候補・習近平(シー・チンピン)や呉邦国(ウー・パンクオ)(全人代常務委員会委員長)らが太子党閥として語られる。なかでも習近平は副首相を務めた習仲勲を父に持ち、同じ太子党の曽慶紅(前国家副主席)の強い後ろ盾があることから、2007年の第17回党大会で政治局常務委員に抜擢(ばってき)されて以来、太子党の筆頭格と言われてきた。また、江沢民と同じ上海閥でもあり、次期習近平体制は前政権の息がかかった守旧派が主流になると予測されている。
なお太子党閥は、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席や次期首相候補・李克強(リー・コーチアン)らの出身母体である共青団閥(共産主義青年団系のグループ)としばしばライバル視されるが、その対立は共産党内の権力闘争や利権争いに過ぎず、両者を特徴づける明確な政治理念の違いはないと見られる。

(大迫秀樹  フリー編集者 / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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