太政官厨家領(読み)だいじょうかんちゅうけりょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「太政官厨家領」の意味・わかりやすい解説

太政官厨家領
だいじょうかんちゅうけりょう

令(りょう)制の太政官に付属する厨家の所領。「~みくりやりょう」とも読む。太政官厨家は略して官厨家ともいい、元来太政官の厨房にすぎなかったが、平安時代以降、太政官に送納される諸国の公田(口分田(くぶんでん)を班給したあとの剰余田地乗田(じょうでん)ともいう)の地子(小作料類似の地代)を管掌するに及び、太政官内の重要な機関となった。職員には別当(べっとう)、預(あずかり)、案主(あんず)などを置き、別当には少納言(しょうなごん)、外記(げき)、史(し)から各1人が兼務し、預には太政官ならびに左右弁官の史生(ししょう)各1人が兼務し、任期を1年として毎年2月列見(れっけん)ののちに交替することとした。しかし諸国のことは弁官が管掌したためか、厨家の実務はしだいに弁官局の史の別当に集中し、さらに筆頭の左大史が大夫史(たいふのし)あるいは官務と称して左右弁官局の実務を兼摂統理するに及び、厨家も大夫史ないし官務の掌握するところとなった。一方、諸国の公田地子は、五畿内(きない)と伊賀陸奥(むつ)・出羽(でわ)三国および大宰府(だざいふ)管内諸国を除き、近国および縁海諸国は米を舂(つ)いて運漕(うんそう)し、その他の国々は軽物に交易して送納すると定め、列見・定考(こうじょう)以下の太政官中の公事(くじ)の饗饌(きょうせん)、禄物(ろくもつ)や官人の給与などにあてた。しかし平安中期以降、公田地子の送納は急速に減退したので、それを補うため各地に便補(べんぽ)の荘保が設定され、漸次、太政官厨家領が形成された。さらに平安後期以降、小槻(おづき)氏が官務の地位を世襲独占するに及び、官厨家領は官中所領の中核として、同氏の相伝知行(そうでんちぎょう)するところとなった。おもな所領として陸奥安達(むつあだち)荘、若狭(わかさ)国富保(くにとみほ)、近江(おうみ)細江(ほそえ)荘、安芸(あき)世能荒山(せのあらやま)荘などがある。

橋本義彦

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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