一国全体,あるいは性,年齢,地域など,あるグループの労働力人口に占める失業者の割合を示すもので,雇用失業情勢を把握するための重要な指標の一つとなっている。一般には,失業者数÷労働力人口(就業者数+失業者数)の百分比として計算される。高度経済成長時代に1%台まで低下した日本の完全失業率は,その後の経済・雇用情勢の変化のなかでしだいに上昇してきたが,それでも2%台と,先進資本主義諸国のなかにあっては例外的に低い水準を記録している。その理由の一つとして,失業率算出の方式,とりわけその分子をなす失業者数の把握が,日本の場合他国に比し失業率を低めるような性格を有しているからであるとされてきた。確かにアメリカに比べ日本の統計では失業者の規定がより厳密であり小さくなる傾向はある。だがこの点を考慮して,ILOによる統一的定義を基準として算出し直したOECDの推計値によっても各国の公表値と大きな差はみられず,日本が3.1%であるのに対し,アメリカ5.6%,ドイツ8.2%,イギリス8.8%と他の先進諸国との間に大きな差が生じている(いずれも1995)。そこから日本の失業率が低く計算されている理由として分母が注目されるようになってきた。分母の問題としては,第1に日本では欧米諸国に比し自営業主,家族従業者の割合が高く,これが失業を潜在化させる場になるのと同時に,分母を大きくしてしまい結果的に失業率を低くしてしまう,または失業率が雇用・失業情勢に敏感に反応しない原因となっているという理解がある。そのため近年分母から自営業主,家族従業者を除いた雇用者失業率が用いられることが多くなってきている。さらに多様な労働者を混合して計算するため失業の深刻度が示されていないという観点から世帯主だけを対象とした失業率の計算も提唱されている。失業率は経済,雇用政策の目標とされる数値であるため,こうした議論はきわめて具体的な意味をもってきている。
→失業 →失業人口
執筆者:亀山 直幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…これらの経済には,上述したような最大の総産出量の存在は必ずしも明らかでなくなる。 E.S.フェルプス,M.フリードマンらのマネタリスト(マネタリズム)と呼ばれる経済学者は,1960年代末,物価上昇と失業率との短期的なトレードオフを認めるとしても,長期的なトレードオフ関係についてはこれを否定している。失業率は長期的には物価水準の変化率がゼロまたは一定となる自然失業率の水準に落ち着き,長期フィリップス曲線は自然率で垂直になる。…
…以上の意味での完全雇用の達成と維持を第2次大戦後の政府の政策目標とすべきであるとし,完全雇用政策の名を高からしめたのは,W.H.ベバリッジの〈自由社会における完全雇用〉(1944)と題する報告であり,大戦後先進工業国はいずれも完全雇用の達成を政府の経済社会政策の中心目標の一つに据えることになった。
[失業率と物価上昇率間のトレードオフ関係]
こうして,1950‐60年代には,先進工業国では,世界的好況のせいもあって,完全雇用に近い状態が実現したといわれるが,この間物価水準が上昇し,雇用水準の維持という政策目標と物価安定という政策目標との間にトレードオフ(二律背反)の関係がみられ,注目されることになった。そこで,いま縦軸に物価上昇率をとり横軸に失業率をとると,両者の間には座標軸の交点に対して凹の負の非線型の曲線で表される関係があるとするフィリップス曲線をめぐって議論が展開されることになった。…
…この定義の基本は諸国に共通するが,上記三つの条件を具体的な個々のケースに関して判定する際の尺度に多少のお国ぶりがあるので,それに応じて失業と認められる範囲にも広狭の差を生じている。
[日本の失業率の推移]
図によると,日本の完全失業率は昭和30年代前半には2%を上回る水準にあったが,高度経済成長下に35年ころから急速に低下し,40年代には1%そこそこに低下した。しかし,50年代に入ると再度の石油危機を契機に経済成長率は大幅に低下し,失業率も再び2%を超えた。…
…高い失業率に代表される不況と,インフレーションとが共存する状態を指す。景気の低迷を意味するスタグネーションstagnationをインフレーションと結びつけて造られた言葉である。…
※「失業率」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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