家庭医学館 「子宮頸部異形成」の解説
しきゅうけいぶいけいせい【子宮頸部異形成 Cervical Dysplasia】
子宮頸がんの前がん状態で、子宮頸部の上皮(じょうひ)に異型細胞が認められます。
[原因]
最近、異形成の原因として、ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus HPV)感染とのかかわりが注目されるようになりました。しかし、すべての異形成にHPVがかかわっているのか、あるいは、HPV感染単独で異形成が発生するのかは、明らかではありません。
HPVには、数十種類の型があり、異形成と関係の深い型と、関係がない型があります。また、危険な型のHPVに感染しても、異形成が発生するのは数%で、多くは自然治癒(ちゆ)します(この項目のヒトパピローマウイルス(HPV)の感染の診断と予防)。
[症状]
症状はなく、子宮がん検診で初めて発見されることが多いものですが、不正性器出血(とくに性交時の出血)や帯下(たいげ)(おりもの)の増量をみることもあります。30歳代、40歳代に多く発生します。
[検査と診断]
子宮頸部の細胞診や、コルポスコープ(子宮頸部拡大鏡)診で異常のある人をふるい分け、異常のあった人には、子宮頸部の狙(ねら)い組織診(コルポスコープでみて異常のある部位を1~2mm程度切除して行なう病理組織検査)で診断します。
[治療]
異形成のすべてが、がんに進行するわけではなく、程度が軽いものでは8割くらい、重いものでも4~5割くらいが自然に治ります。しかし、がんに進行することもあるので、定期的に検査を受けることがたいせつです。異形成の程度がだんだん重くなったり、なかなか治らない場合は、治療をお勧めします。
治療には、子宮頸部円錐切除術(しきゅうけいぶえんすいせつじょじゅつ)(この項目の子宮頸部円錐切除術/子宮腟部円錐切除術)や、レーザーで病変を蒸散(じょうさん)させる方法が行なわれます。
●ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染の診断と予防
HPV感染の診断には、分子生物学的手法や病理学的手法が用いられます。
分子生物学的手法では、細胞にHPVのDNAが入り込んでいないかどうかをみたり、HPVに対する抗体で染色したりする方法があります。抗体の血液検査も開発中です。病理学的手法では、HPV感染によっておこる組織や細胞の変化を、顕微鏡で調べます。
HPV感染が異形成の発生にかかわっているので、HPV感染を予防したり、HPVに感染した場合にこれを治療することが、異形成の予防には大きな役割をになうと考えられます。
しかし、HPVの感染経路は、性行為・着衣・入浴・母子感染などが想定されますが、まだ明らかでなく、予防法も確立していません。ただし、性行為にコンドームを使用することは、性病対策にもなりますし、HPV感染の予防にも役立つと考えられます。
HPV感染の治療薬は、開発研究が進められていますが、実用段階には至っていません。
●子宮頸部円錐切除術(しきゅうけいぶえんすいせつじょじゅつ)/子宮腟部円錐切除術(しきゅうちつぶえんすいせつじょじゅつ)
子宮の入り口を、丸く切りとる手術です。ふつうのメスで切除する方法、レーザーメス法、高周波電流の流れる電気メスを用いる方法があります。
この手術は、子宮頸部異形成や初期がん、子宮腟部びらんなどの治療を目的として行なわれるほか、子宮頸がんの病変の広がりを評価する精密検査としても行なわれます。子宮頸部の一部を切除するだけで、子宮の本体は温存されるので、術後の妊娠や分娩(ぶんべん)も可能ですが、子宮頸部が若干短縮するので、流産・早産をおこしやすくなることがあり、妊娠中の注意が必要です(頸管無力症(「頸管無力症」))。