翻訳|consonant
声門から唇までの声道において,流れる空気を閉鎖により全部もしくは一部遮断したり,せばめにより摩擦させたりして発する言語音声。上下の調音器官や声帯を接触または接近させて閉鎖やせばめを作り,空気の流れの妨害が行われる。これは,声道において,流れ出る空気が妨害されることなく発せられる母音と区別される。子音は,(1)妨害が行われる位置,(2)その方法,(3)軟口蓋の位置,(4)声帯の状態,により分類される。
(1)妨害の位置(調音の位置)は,上顎に付着する上位調音器官(上唇,上歯,歯茎,硬口蓋,軟口蓋,口蓋垂,咽頭)と,下顎に付着する下位器官(下唇,舌先,舌端,前舌,後舌,舌根)との組合せおよび声門から成る。これに基づき分類すれば,両唇音(上唇と下唇),唇歯音(上歯と下唇),歯音(上歯と舌先),歯茎音(歯茎と舌先もしくは舌端),硬口蓋歯茎音(歯茎後部と舌端),硬口蓋音(硬口蓋と前舌),軟口蓋音(軟口蓋と後舌),口蓋垂音(口蓋垂と後舌),咽頭音(咽頭壁と舌根),それに声門音がある。
(2)妨害の方法は,まず(a)上下の器官を接触させる場合で,それが完全ならば閉鎖音,部分的ならば側音となる。歯茎側音では舌先を歯茎につけて舌の両側か片側をあけておく。断続的接触ならば,舌先が歯茎を数回こするとき顫動(せんどう)音,1回こするとき弾音となる。(b)上下の器官が接近して気流に摩擦をおこせば摩擦音となる。歯茎[s,z]と硬口蓋歯茎[,ʒ]の摩擦音は,流出する空気が歯に向かって鋭い音を立てるので歯擦音と呼ぶ。(c)上下の器官の接近がゆるやかで摩擦音は出ないが,調音の構えが固定せず移動する際に発せられるものが,わたり音glideでありこれを半母音という。
(3)軟口蓋の後部が上がると鼻腔へ抜ける通路が閉じるので空気は口から流れ出る。これを口音という。これに対し軟口蓋の後部を下げると,鼻腔への通路が開くので空気は鼻へ流れこむ。口腔内に閉鎖が作られていれば,息は鼻からのみ出ていく。これが鼻音である。
(4)声門において(a)二つの声帯が固く接触すれば声門閉鎖音[ʔ]となり,(b)声帯の接触がゆるければ,肺から流出する空気に声帯が押し上げられて振動し,ここに〈こえ〉が発生して有声音となる。(c)両方の声帯が接近すれば摩擦が生じ声門摩擦音[h]となる。(d)声帯が相互に退いて声門を大きくあければ空気は自由に流れ出て声帯は振動せず無声音となる。
通例声帯の状態と妨害の位置および方法により子音の名称は定まる(例,無声両唇閉鎖音[p])。また鼻音では有声の場合が多いので妨害の位置のみ指定し,両唇鼻音[m]のように呼ぶ。さらに閉鎖音と摩擦音を合わせて阻害音obstruentと称し,側音と顫動音,弾音をまとめて流音liquidという。以上の基本的調音に,ある変形を加えるものを副次的調音と呼ぶが,次のような副次的調音がある。閉鎖音で上下の器官が接触してから離れていくとき,ゆっくり開放すると摩擦音が続き破擦音となる。例えば歯茎破擦音[ts,dz]。開放の際[h]に似た気音を伴うと有気音となる。例えば有気無声両唇閉鎖音[p`]。さらに子音を調音するとき舌の本体が硬口蓋へ向かって上がっていれば硬口蓋化が生じ,[j]に似た音が聞こえる。硬口蓋化無声両唇閉鎖音[p']は日本語の拗音〈ピャ〉の子音の部分に現れる。また舌の本体が軟口蓋へ向かって上がれば軟口蓋化となる。例えば軟口蓋化歯茎側音に[ɫ]がある。次に舌先の裏を上位器官に接触もしくは接近させればそり舌音となる。例えばそり舌有声歯茎閉鎖音[ɖ]。なお舌根が咽頭に接近すれば咽頭化,声門閉鎖を伴えば声門化となる。別に空気を吸いこむように発するものを吸着音という。
音素として見た子音は音節を構成する位置により規定される。音節の中心を母音Vの核音が占め,その両脇の周辺部に子音Cがくる。音節の基本的構造はCV(C)で表されるが,言語により末位の(C)を欠くものもある。
音響的には,閉鎖音はスペクトログラム(ソナグラフ)に空白で示される。摩擦音では図面にかすれが生じ,歯擦音の場合はとくに著しい。鼻音や流音はうすい特有のフォルマントをもつ。子音の種類は母音フォルマントが子音に移るときのわずかな固有のゆがみ方で識別される。
→音声学
執筆者:小泉 保
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
母音に対する単音の二大分類上の一つ。〔1〕音響的には非周期波である噪音(そうおん)、〔2〕聴覚的には相対的に「聴こえ」の小さいもの、〔3〕生理的には声道におけるいずれかの部位に閉鎖やせばめなどによる障害を伴うものなどと定義されるが、〔1〕では[m,n,…]などの楽音が子音に、また無声化母音(たとえばささやき声の母音など)の噪音が母音に分類される点、〔2〕では無声化母音よりも「聴こえ」の大きな[m,n,…]などが子音に分類されている点、およびその根底にある「聴こえ」に対する科学的根拠、〔3〕では声道に比較的障害を伴わない[w,j,h,…]などが子音に分類される点、などに問題が残る。
以上のように、子音と母音の境界は、場合によってはかならずしも明瞭(めいりょう)ではなくなるところから、音節の頂点を形成する能力を有するものを母音とし、しからざるものを子音とするいわば機能的な見方が導入された。しかし、こうすると、たとえば英語のcouple[k∧pł],prism[prIz],mutton[m∧t]などの[ł,,]は子音でありながら、成節的であるということになる。
この点を克服するためにソシュールは、母音・子音という基準以外に、機能面から成節的であるものにsonante(自鳴音または自響音)、しからざるものにconsonante(共鳴音または他響音)という2種の術語を付与した。また、パイクは、従来の母音・子音という分類を、多かれ少なかれ音韻論的基準が持ち込まれているとして、これに対し、純粋に音声学的基準によるvocoid(母音類)とcontoid(子音類)の別をたてている。その結果、呼気が口腔(こうこう)の中央を通り、しかも摩擦や閉鎖のないものがvocoid、それ以外はすべてcontoidとなる。したがって無声化母音、半子音、[r,l,ł,ʎ,h,…]などの母音的子音は、いずれもvocoidと分類されることになった。一方、ホケットC. F. Hockettも同じ術語を用いるが、聴覚面から定義づけをしているため、たとえば[m,n,ł,…]などの鼻音をはじめとして、微弱な摩擦音である接近音をもvocoidとしている。
わが国では中国音韻学における声母(ほぼ子音に相当)と韻母(ほぼ母音に相当)の別に倣って、初期は母韻・子韻とし、ついで母音・父音を経て母音・子音と称するようになった。ただし、子音を「シオン」と読むと、歯音と同音衝突をおこすので、現在は「シイン」と読む。実用的見地からは、国際音声字母による調音点(横軸)と調音様式(縦軸)および声帯振動の有無による分類がもっとも便利である。
[城生佰太郎]
『服部四郎著『音声学』(1951・岩波書店)』▽『城生佰太郎著、金田一春彦監修『音声学』(1982・アポロン音楽工業社)』▽『M・シュービゲル著、小泉保訳『音声学入門』(1973・大修館書店)』▽『B・マルンベリ著、大橋保夫訳『音声学』(1959・白水社・文庫クセジュ)』
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…こうした上位と下位の器官を用いて言語音声を発することを調音articulationと呼び,調音に参加する器官を調音器官articulatorという。
【子音の分類】
子音は肺から流れ出る空気を声道において妨害するとき発する音である。そこで子音は妨害を起こす位置と方法によって規定できる。…
…そのような中間的まとまりを〈音節〉と呼ぶ。音節の性格,構造は各言語によって異なるが,遠くまでよく聞こえるが発音にエネルギーを要する音(〈母音〉)を中心に,あまり遠くまで聞こえないが発音にエネルギーを要しない音(〈子音〉)をその前(または前後)に配置するという形が最も一般的である。ただし,あらゆる言語において母音と子音の区別が明確だというわけではない。…
…そのほか声が口から出てくるときにはことばの音としての音色をもつが,〈アー〉とか〈エー〉とかいうような母音の音色は喉頭より上側の共鳴腔の形で決まる。ことばには母音のほかに子音という成分があるが,これは喉頭のみでなく,舌,あご,くちびるなどの共鳴腔をつくっている器官がすばやい,しかも複雑な運動をすることによって生ずる。このような母音や子音が多数組み合わされて,ことばの音としての特徴をもって他人に伝えられるのである。…
※「子音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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