季節の移り変わりに際して発病したり、症状が悪化する病気、また一定の季節に多発ないし流行をおこす病気が、季節病として取り扱われる。従来から冬のかぜ、肺炎、気管支炎などの呼吸器病、夏の腸チフスや赤痢などの消化器感染症などが代表的な季節病とされていたが、生活環境や衛生状態の改善などの変化に伴い、わが国では夏に発生のピークを示す病気は少なくなり、多くの病気が冬に目だつようになってきている。前述の呼吸器疾患のほか、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などである。
季節病の成因に関連して、まず生体の諸機能が季節的な変動を示す事実があげられる。自然環境としての季節変化のなかで、もっとも重視されているのは気温の変化であり、それに対応する生体の反応、すなわち体温調節とそれに関連する生体の諸機能が問題となる。たとえば、冬の寒い時期には血圧は上昇の傾向を示すが、このような因子が心血管系の病気を誘発すると考えられる。
多くの感染症でも流行に季節性が認められるが、この場合は生体への季節的影響のほかに、病原体に及ぼす季節の効果(気温や湿度など)や、感染経路に対しても日本脳炎を媒介するコガタアカイエカとか、水泳プールで広がる咽頭(いんとう)結膜熱などの場合のように、季節からの影響を考慮しなければならない。
[加地正郎]
『寺脇保編『小児医学』11巻3号「気象病と季節病」(1978・医学書院)』
特定の季節に発生率や死亡率の高くなる病気をいう。たとえば,肺炎,気管支炎は12~4月,赤痢は7~9月に多発する。病気に季節性が現れるのは,生理機能と病気に対する感受性,病原体や病原動物の活動状況,食物,生活様式などが季節によって異なるためと考えられている。病気の季節性を示すために発生率,死亡率などの年間分布を表または図にしたものを季節病カレンダーという。季節病の現れ方は,地域によって異なり,また時代によっても異なる。地域による相違は気候と文化の相違に帰せられ,時代による相違は生活の変化に帰せられる。日本では,昭和初期までは疾病による総死亡率は夏と冬に多かったが,全体的な死亡率の低下とともに夏のピークがなくなり,さらに近年では冬のピークも目だたなくなって,季節性がなくなりつつある。これは保健対策の進歩や室内気候調節によるものと思われる。
執筆者:倉嶋 厚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…中国最古の医典の一つ《黄帝内経》や,ギリシアのヒッポクラテスの著書といわれるものの中に生気象学的な記載が多くみられる。 地球上のいろいろな場所,さまざまな高さにおける肉体的・精神的な状態の変化,身体諸機能の季節変動,日変化あるいは風土順化のほかに,気温,湿度,気流,気圧,放射線,イオン,大気中の各種エーロゾル物質などの気象要素と生体との関連,また,気象要素個々の影響ばかりでなく,それらの総観的な変動に伴う生体への影響,たとえば,気象の急速な変化によって引き起こされる気象病,季節に伴う疾病状況の変動を示す季節病などは,生気象学の主要な研究対象である。また人間の健康を維持・発展させる立場から,療養地,保養地における風景,植生,地誌的な諸要素の生体に与える好影響の研究も,重要な分野である。…
※「季節病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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