大学の管理・運営に最終的に責任を負うとともに,対外的に大学を代表する職員を指す。
[国立大学(学長)における学長の選出方法・職務内容]
学長の職務と権限は,学校教育法のほか,国立大学法人法(国立大学の場合)等で規定されている。学校教育法では「大学には学長,教授,准教授,助教,助手及び事務職員を置かなければならない」(92条)と規定されており,大学に必置の職である。同条3項では「学長は,校務をつかさどり,所属職員を統督する」として,大学の校務・全職員に対して監督責任を有する立場であることを規定している。
学長と一言でいっても国公私立という設置形態により,その選出方法,職務内容・権限等は異なっている。国立大学の場合,学長の選出は学長選考会議(日本)の選考により行われる。学長選考会議は,経営協議会と教育研究評議会の選出する者(両者同数)で構成する。同会議の選考結果をふまえ国立大学法人の申出により,文部科学大臣が任命する。多くの大学では,選考会議の選考に先立って教員等による意向投票が行われている。ただし,選考会議の選考結果が意向投票の結果と異なることは起こりえるし,実際にいくつかの大学で発生している。学長選出の際の留意事項として,以下のような規定がある。「学長の選考は,人格が高潔で,学識が優れ,かつ,大学における教育研究活動を適切かつ効果的に運営することができる能力を有する者のうちから,行わなければならない」(国立大学法人法12条7項)。これに従えば,学長は「学識が優れている」と判断されれば教員である必要はなく,また学内での勤務実績が問われない。実際に,学外から学長を招くケースは法人化以前からあった。法人化後には,学外者であり,かつ教員以外の者が学長に選出されたケースもある。
学長の職務は,国立大学法人法11条2項の規定に従って,学長と理事で構成する会議(役員会)の議を経て,以下の事項について決定することである。①中期目標についての意見,年度計画に関する事項,②文部科学大臣の認可または承認を受けなければならない事項,③予算の作成・執行・決算に関する事項,④大学・学部・学科等の重要な組織の設置・廃止に関する事項,⑤その他役員会が定める重要事項。つまり,大学運営に関する重要事項のすべてについて最終的な決定を行う。
公立大学(学長)の場合,学長職は地方独立行政法人法の第7章「公立大学法人に関する特例」で規定されている。原則として公立大学法人の理事長が学長を務めるが,両者を別個にすることも可能である。学長の任命は公立大学法人の申出に基づいて,設立団体の長が行う(71条)。
私立大学(学長)の場合,学長の選出方法に関する法令上の定めはない。一般的には教授会が学長を選出する。法人の長である理事長と学長の関係は大学により異なる。理事長が学長を兼任する大学もある。理事長と学長が別の大学では,理事長が大学の経営面について責任と権限を有するのに対して,学長は教学面で責任と権限を有する。学長の職務内容の範囲や権限の大きさなどは,理事長との関係で決まる場合もある。
[副学長]
国公私立大学に共通するのは,学長の職務を補佐する職として副学長が置かれることである(学校教育法92条)。学長は大学の管理・運営全般に責任を負っているが,大学の広範囲に及ぶ業務内容全体に直接的に指揮・権限を行使することは現実的には無理である。複数の副学長を置いて,学長の職務を補佐させている。学長補佐を置く大学も多い。大学や学長自身の方針によるが,副学長は一定の権限をもってそれぞれの業務を統括する。担当する業務の事務部門の責任者として,職員の指揮・命令をするとともに,執行状況について学長に報告し,必要に応じて指揮・命令を受ける。
[学長の権限を制約する学内事情]
国立大学の場合には,法人化以前には限定的であった学長の権限は,法人化後は著しく拡大・増強された。しかし,実際に行使できるかどうかは大学の慣習,学部・研究科,教育研究評議会,経営評議会等との力関係に規定される。一般に,これらの組織は独自の論理・利益に従ってその権限を発揮するため,しばしば学長の意向と反したり,学長の権限行使を抑制したりする。公立・私立大学でも,学内の複雑な力関係によって,学長の権限行使が多少とも制約される点は共通している。このような事態が大学組織としての迅速な決定や大学の多方面にわたる改革の桎梏になるとして,改善の必要性を説く論調も近年目立つ。すでに私立学校法の改正(2006年)により,理事会の権限を強化する一方,教授会等の権限制限の方向が打ち出された。さらに,経済同友会は,事態改善が進んでいないとして,大学執行部の権限強化を主張している(2012年)。複雑な状況の中で,学長が権限を行使し,大学の発展につながるような改革を実施するためには,各種条件整備を含め課題は多い。
さらに中央教育審議会大学分科会は,2014年2月に発表した審議のまとめの中で,学長の意思決定のサポート体制強化の観点から,学長を統括的に補佐する副学長(総括副学長)や組織横断的な調整権を持つ「総括理事」を置くこと等を提言している。
[学長の業績評価(学長)]
中教審大学分科会は上記の審議のまとめの中で,学長の業績評価に言及している。学長選考組織が学長の職務遂行を評価すること,監事が日常的な業務執行状況を監査すること,学長選考組織と監事間の意見交換を通じて学長の職務状況を把握すること等を提言している。さらに,学長の評価体制を確立した上で,業務の実績が悪化した場合,法令の規定に基づき,任期途中の交代を想定した制度を内部規則等で整備することもあわせて提言している。
[総長の呼称]
一部の大学では,大学を代表する職員として「学長」の代わりに,「総長」が学内的・対外的に用いられている。国立大学のうち旧帝国大学の7校が,私立大学でも一部の大規模校が「総長」を用いている。学校教育法や大学設置基準では,大学を代表する職員として「学長」が用いられており,「総長」は用いられていない。そのため,「総長」は慣例的な呼称といえる。
著者: 夏目達也
参考文献: 島田次郎『日本の大学総長制』中央大学出版部,2007.
参考文献: 山本眞一・田中義郎『大学マネジメント論』放送大学教育振興会(NHK出版),2014.
参考文献: 日本私立大学連盟編『私立大学マネジメント』東信堂,2009.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
…小学校・中学校・高等学校・大学・高等専門学校・盲学校・ろう学校・養護学校・幼稚園(学校教育法1条)の長。ただし大学の長は学長,幼稚園の長は園長と呼ばれる。校長は当該校を代表し,その運営に責任をもつ。…
※「学長」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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