改訂新版 世界大百科事典 「実事求是」の意味・わかりやすい解説
実事求是 (じつじきゅうぜ)
shí shì qiú shì
中国,清代の考証学派の学問精神を示すことば。もと《漢書》河間献王劉徳伝に,彼の好学を評して,〈実事に是(ぜ)を求めた〉とあるのにもとづく。個別的事例について真実を追求するの意味。考証学は,明末・清初の顧炎武に始まるとされるが,いわゆる実事求是の学風が確立されるのは,四庫全書編纂が開始されてより後の,乾隆・嘉慶時代(1736-1820)であり,浙東学派に章学誠,呉派に恵棟,王鳴盛,銭大昕(せんたいきん)ら,皖派(かんぱ)に戴震,段玉裁,王念孫,王引之らを輩出した。その治学の方法を,段玉裁は,句読,故訓,音韻の三者が得られてこそ経書の盛られた道理が明らかになると説いている。この三者は,〈本証〉〈旁証〉とよばれている例証を枚挙することにより,正しい字義を推定していくのである。このような方法による成果は,劉宝楠(りゆうほうなん)《論語正義》,焦循《孟子正義》,邵晋涵(しようしんかん)《爾雅正義》などの経書の注解をはじめとして,数多くの不朽の名著をうみ,それらは,おおむね,阮元の編《皇清経解(こうせいけいかい)》1408巻,王先謙の編《皇清経解続編》に収録されている。
なお,今日〈実事求是〉は毛沢東によって提起された中国共産党の工作・作風を示す新たなスローガンとして重要な意味をもっている。すなわち主観・憶測を排して実際の状況から出発して,物事を研究し行動の導きとしなければならない,このことが理論と実践を統一する科学的態度であり,作風であるとされる。
執筆者:坂出 祥伸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報