哲学のなかで、人間の実践(プラクシス)にかかわる諸問題を扱う部門が実践哲学とよばれる。アリストテレスは、人間の広義での知的活動を「見る」「行う」「作る」に分け、それぞれに理論学、実践学、制作学を対応させたが、このうちの実践学すなわち実践哲学は「人間がなす事柄についての哲学」であり、それは具体的には倫理学と政治学とを含むポリスの学、つまり広義での国家学をさしていた。しかし18世紀のカントによる理論理性と実践理性の区別以後、実践哲学は事柄を純粋に理論的に扱う理論哲学に対置されるのが普通である。つまり人間の倫理的、実践的な諸問題、たとえば、善とは何か、義務とは何か、価値とか規範とは何かといった諸問題について、それらを事実として理論的に分析するだけではなく、それらを人間存在のあるべき姿との連関において、原理的に考察するのが実践哲学といえよう。ところでカントによると、哲学とは「人間理性の究極諸目的の学」であるが、そうした諸目的のうちでもっとも究極的な目的は「人間の全体的規定」であって、それに携わるのが道徳学、すなわち実践哲学である。カントはこうした視点から、哲学の内部でも理論理性に対して実践理性が優位を占めるとした。カントのほかにも、哲学の根本は人間がいかに生きるべきかを問うことにあるとして、哲学における実践哲学の優位性を強調する哲学者は多い。
[宇都宮芳明]
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