デジタル大辞泉
「室」の意味・読み・例文・類語
しつ【室】
1 家の中の区切られた区画。へや。
2 会社や官庁などの組織の一。「企画開発室」
3 妻。特に、身分の高い人の妻。奥方。内室。「豊臣秀吉の室」
4 刀剣の鞘。
5 二十八宿の一。北方の第六宿。ペガスス座のα星・β星をさす。はついぼし。室宿。
[類語]部屋・間・ルーム
むろ【室】
1 物を保存、または育成のために、外気を防ぐように作った部屋。氷室・麹室など。
2 山腹などに掘って作った岩屋。石室。
3 僧の住居。僧房。庵室。
4 古代、土を掘り下げ、柱を立て屋根をつけた家。室屋。
5 古代、周囲を壁で塗り込めた部屋。寝室などに使用した。
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むろ【室】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 土を掘り下げて柱を立て屋根をかぶせる方式の古代の家。転じて、古代の家。室屋。
- [初出の実例]「其の家の辺に軍三重に囲み、室(むろ)を作りて居りき」(出典:古事記(712)中)
- ② 古代、家の奥にあって、土を盛ったり塗り込めたりして寝所などに用いた所。
- [初出の実例]「故、鹿葦津姫、忿り恨みまつりて、乃ち無戸室(うつムロ)を作りて、其の内に入り居りて」(出典:日本書紀(720)神代下(鴨脚本訓))
- ③ 山腹などに掘ってつくった岩屋。
- [初出の実例]「手研耳(たきしみみ)の命、片丘(かたをか)の大(をほムロ)の中(うち)に有(ま)して、独(ひとり)大牀(おほみとこ)に臥(ま)しませるに会(あ)いぬ」(出典:日本書紀(720)綏靖即位前(北野本訓))
- ④ 住みこもる家。特に、僧の住まいをいう。僧房。庵室。
- [初出の実例]「天皇、旻法師の房(ムロ)に幸して、其の疾を問ひたまふ」(出典:日本書紀(720)白雉四年五月(北野本訓))
- ⑤ 物を入れて、外気を防いだり暖めたりして、育成または保存するために特別の構造を施した所。麹室(こうじむろ)・氷室(ひむろ)などがある。むろや。
- [初出の実例]「時に皇子、山の上より望せて、野の中を瞻たまふに、物有り。其の形廬(いほ)の如し。乃ち使者を遣(つかは)して視令む。還り来(まうき)て曰(まう)さく、窟(ムロ)なりとまうす」(出典:日本書紀(720)仁徳六二年是歳(前田本訓))
- ⑥ 蒸し風呂のこと。〔名語記(1275)〕
- ⑦ 「むろあじ(室鰺)」の略。
- [初出の実例]「焼物はむろの酢煎」(出典:浄瑠璃・心中宵庚申(1722)上)
- [ 2 ] =むろつ(室津)[ 一 ]
しつ【室】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 建造物の内で定まった人の用にあてる区画。また、小さな庵。室の間(ま)。
- [初出の実例]「苦行独老山中室、盥嗽偏宜林下泉」(出典:凌雲集(814)贈賓和尚〈嵯峨天皇〉)
- [その他の文献]〔易経‐繋辞上〕
- ② 貴人の妻。奥方。内室。
- [初出の実例]「令二レ王自尽一、其室二品吉備内親王〈略〉同亦自経」(出典:続日本紀‐天平元年(729)二月癸酉)
- [その他の文献]〔春秋左伝‐桓公六年〕
- ③ ( 「論語‐先進」の「由也升レ堂矣、未レ入二於室一也」から ) 学問や技芸の深奥な境地。また、学者の本領とするところ。
- [初出の実例]「書をよまずして道徳の室(シツ)にいることはなりがたければ」(出典:翁問答(1650)下)
- ④ 刀剣の鞘(さや)。〔史記‐刺客伝〕
- ⑤ 雌しべの子房、雄しべの葯(やく)などの中にある空所。その数と形状は種類によって一定している。房。
- [ 2 ] 二十八宿の北方第六宿。ペガスス座のα(アルファ)星とβ(ベータ)星からなる。室星。はついぼし。〔易林本節用集(1597)〕
しち【室】
- 〘 名詞 〙 ( 「しち」は「室」の呉音 ) =しつ(室)
- [初出の実例]「ほとけ室(シチ)(〈注〉ムロ)にいりて、寂然として禅定したまへりとしりて」(出典:妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)三)
もろ【室】
- 〘 名詞 〙 アジ科の海魚。全長約三〇センチメートル。背部は青緑色で腹部は銀白色。ムロアジに似ているが体側に黄色や赤みを帯びない。本州中部以南の暖海に分布。多く干物にする。あおむろ。むろ。みずむろ。
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普及版 字通
「室」の読み・字形・画数・意味
室
常用漢字 9画
[字音] シツ
[字訓] へや・いえ
[説文解字]
[甲骨文]
[金文]
[字形] 会意
宀(べん)+至。至は矢の至るところ。〔説文〕七下に「實なり」と音義的に解し、また「室屋は皆至に從ふ。止まるなり」(段注本)と、人の至り、止まる意を以て解するが、至は矢の至る意。矢を放って、その造営の地を卜し、祓(はら)うことを意味する。室は祖霊の安んずるところで、いわゆる大室。屋は板屋で殯(かりもがり)する所である。臺(台)も至に従い、天を祀り、神明に接する所をいう。家・冢が犬牲を埋めて基(てんき)し、修祓する儀礼を示す字であるのと同じ。卜辞に中室・南室・血室などの名があり、みな祭祀の場所。また金文の冊命(さくめい)儀礼はすべて宗大室において行われている。金文の〔大豊(たいほうき)〕に「王、天室に祀る」とあり、室とはもと祭祀を行うところをいう。
[訓義]
1. へや、祖霊をまつるへや、奥のへや、奥のま。
2. いえ、家ももと祖霊を祀る霊所を意味した。のち、すまい、すむところ。
3. 家の人すべて、一家、家族。
4. 家室、室家、妻。
5. すべてものの収まるところ、巣、穴倉、刀剣のさや。
[古辞書の訓]
〔和名抄〕室 无路(むろ)〔名義抄〕室 ムロ・スム・ヨル・トシ・カクフ・サヤ/無室 ウツムロ
[語系]
室sjiet、窒tjietは声義近く、窒は窒塞(ちつそく)し閉蔵する意。室も霊を封じ安んずる意であろう。そこに霊を送ることを致tietという。
[熟語]
室燠▶・室宇▶・室屋▶・室家▶・室外▶・室学▶・室間▶・室居▶・室隅▶・室戸▶・室事▶・室舎▶・室授▶・室処▶・室女▶・室人▶・室族▶・室属▶・室第▶・室宅▶・室堂▶・室内▶・室▶・室婦▶・室廡▶・室律▶・室廬▶・室露▶・室老▶
[下接語]
堊室・庵室・暗室・闇室・営室・王室・屋室・温室・家室・臥室・記室・旧室・宮室・巨室・居室・虚室・教室・空室・窟室・室・継室・瓊室・結室・玄室・公室・皇室・斎室・在室・蚕室・私室・祠室・慈室・書室・丈室・深室・新室・寝室・世室・正室・夕室・石室・先室・宣室・宗室・蔵室・側室・太室・第室・地室・竹室・茶室・帝室・適室・土室・同室・堂室・内室・入室・氷室・室・富室・敝室・別室・便室・室・房室・茅室・満室・密室・幽室・浴室・蘭室・令室・路室・陋室
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
室 (むろ)
風の入らない温暖な部屋をいう。古代には,家の中で,特に風を通さないように作られた寝室を室と呼んでいたことが〈新室寿(にいむろほぎ)〉(《古事記》)などのことばから知られるが,その実際の形式は不明である。また,地中にうがたれた穴蔵や山腹などに掘ってつくった岩屋も室と呼ばれた。しだいに室が住宅の部屋を示すことはなくなり,冬期に得られる氷を夏期まで保存させておく氷室(ひむろ)や醸造に不可欠の麴室(こうじむろ)などに室ということばが使われている。
氷室は具体的な形が残った遺跡としては発見されていないが,夏期に宮中へ毎日氷が供給された記録が残っている。それは土を3mほど掘り下げ,底や側壁に草を敷きその上に茅や粗朶(そだ)を並べ,氷を入れて土で覆ったもので,草と茅や粗朶の断熱層に守られて,冬期の氷を夏期まで保つことができた。麴室は土壁で塗られた建物の中に,周囲の壁から30cmから60cm離して四周を土壁で塗り,天井にも土を置いた囲いを作る。囲いの入口は1m幅くらいの狭い板戸で窓はない。外側の壁と囲いの間の空気が断熱層になって,一定の室内環境を保ち,酵母の育成を進める。麴室は,酒や醬油造りに欠くことのできない施設である。
執筆者:鈴木 充
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の室の言及
【住居】より
…家族にはじまる社会組織と住居形態との対応の議論はL.H.モーガンをもって嚆矢とし,なお論じ続けられている。たとえばモーガンの扱ったアメリカ・インディアンのイロコイ族の[ロングハウス]では,母系リネージで結ばれた合同家族が集居し,各夫婦単位が寝室を保有していた。より一般的に大型住居と母系集団との相関関係を説く者もいる。…
※「室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」