改訂新版 世界大百科事典 「寒冷凝集反応」の意味・わかりやすい解説
寒冷凝集反応 (かんれいぎょうしゅうはんのう)
cold agglutination
採血後冷やさずに血液から分離,採取した正常ヒト血清を連続的にうすめてつくった系列に,同じヒトの血球または他のヒトのO型血球浮遊液を加え,5~10℃の低温で反応を進めると,10倍希釈前後まで血球の凝集がみられる。しかし,その凝集は反応液を37℃に温めるとほぐれる。これは正常ヒト血清中に少量だが低温で血球と結合して凝集を起こし,高温ではずれる寒冷凝集素と呼ばれる自己または同種自然抗体があるためで,この抗体で起こる上述の現象,またはそれを検出,測定する方法を寒冷凝集反応という。寒冷凝集素は,マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)感染による非定型肺炎,EBウイルス感染による伝染性単核症,良性単クローン性高γ-グロブリン血症,一部の多発性骨髄腫患者等に顕著に現れる。このほか,この抗体は,リステリア(Listeria monocytogens,IVB株),アデノウイルス,サイトメガロウイルスの感染,大腸,肺の腫瘍等の際にも認められ,自己免疫性溶血性貧血に関与する抗体もこの性質を強く示すものがある。したがって,この反応で血清中の高力価の寒冷凝集素を検出することは,上述の多種の病気の診断の目安となる。
寒冷凝集素が血球を凝集する温度は通常10~15℃以下だが,患者によってはさらに高い温度,まれには30℃以上でも有効なこともある。そのため,この抗体を高力価にもった患者の皮膚,指先等が低温にさらされると,局所の血管の中で血球が凝集し循環障害を起こす(寒冷凝集素病)。この抗体の多くはIgM免疫グロブリンに属し,補体との反応性をもつが,高温で抗体は解離しやすいのに対し,補体は体温付近でないと強く働かないので,体内での溶血はそれほど強く起こらない。この点は,低温で血球と結合し,高温でも解離せず,強い溶血を起こす発作性寒冷血色素尿症の抗体とは異なる。多発性骨髄腫,感染症の際,つくられる抗体の中にはIgG,ときにIgAに属するものがみられ,これらは補体との反応性をほとんど,またはまったく示さない。感染後にみられる寒冷凝集素はいくつかの少数の抗体産生細胞集団(オリゴクローン性)でつくられたものだが,腫瘍由来のものは一つの細胞集団(単クローン性)でつくられ,その分子の性質は均一であるのみならず,それ以上に特有な抗原性(イディオタイプ)をもつことが多い。いずれの寒冷凝集素も血球表面にある糖タンパク質抗原と反応するが,成人血球と強く反応し,胎児血球とは反応しない抗I抗体特異性と,その逆の反応性の抗i抗体特異性を示すものとに分けられる。このほかに,両方の血球にあって,タンパク質分解酵素処理で除去されやすい糖タンパク質抗原と反応する抗Pr抗体特異性をもつものが認められている。これらの抗体の特異性は原因となった疾患でほぼきまり,抗i抗体特異性のものは伝染性単核症と多発性骨髄腫の一部,抗Pr抗体特異性を示すものは良性単クローン性高γ-グロブリン血症患者の一部等にみられ,他の多くは抗I抗体特異性をもつ。ただし,I,i抗原等も詳細に調べると単一なものではなく,構造が少しずつ異なった数種の多糖体を含むので,寒冷凝集素の性質も患者ごとに少しずつ異なる可能性が強い。
→血清
執筆者:木村 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報