一年中でもっとも寒い寒中の一定期間,早朝あるいは夜間に武道や音曲を稽古する日本古来の修行法。現代武道においてもこの伝統的な稽古法は広く行われ,寒中に5~15日くらいの間で日数を定め,早朝寒さにうちかって激しい訓練をすることにより,精神的錬磨をおもな目的としている。このような稽古法は〈寒行〉,あるいは〈寒修行〉といわれて,古くから行われていた神道,仏教の修行法にその原形を見ることができる。例えば,神社に裸,素足で参詣する寒参り,または寒詣,あるいは参籠,禊祓(みそぎはらえ)や水垢離(みずごり)といった苦行,仏教では奈良時代から行われていた仏名会(ぶつみようえ),山伏の苦行などの思想や方法が一体化して,芸道にもこのような修行法が形成されていったのであろう。武道においては〈寒稽古〉と並んで〈暑中稽古〉もあるが,寒さ暑さに対して逃避するのでなく,かえって積極的に行うことによって寒暑二つに安住するという思想は,禅語の〈寒は寒殺,暑は熱殺〉に通じるものがある。このような〈寒修行〉を,教育的立場から近代武道に導入したのは嘉納治五郎で,1894年,講道館の教育計画の中に〈寒稽古〉としてとり入れたのがその最初である。
執筆者:中林 信二
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