中国の官吏登用試験(科挙)において,天子の策問に対する受験者の答えを対策と言った。中国の制度を範とした日本の律令制にも,秀才,明経,進士,明法の4科の国家試験が規定されているが,これらの試験を受けて問題に答えること,およびその答案を対策あるいは献策と称した。試験は式部省監督のもとに行われ,午前6時ごろに問題が出され,当日のうちに答案を作成して提出する定めであった。《経国集》には慶雲年間(704-708)から延暦年間(782-806)に至る,秀才科や進士科のものと見られる対策の実例が収録されているが,それらの問題は政治・道徳に関するものが多く,中には新羅との外交政策を問う時事問題も含まれている。平安時代になると,紀伝道の盛行にともない,試験としての対策は原則として文章生の中で成績の優秀な一定の文章得業生に限られるようになった。この時代の秀才科の対策の実例が《本朝文粋》に収録されている。
執筆者:柳 雄太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
令制の任官試験で課される問題の「策」に,貢人(くにん)・挙人(こにん)が「対(こた)」えること。論理的には秀才・明経(みょうぎょう)・進士(しんし)・明法(みょうぼう)・算・書のすべての試験に用いることができるが,実際には方略策・時務策を課す秀才・進士の2試に限定して使われた。平安時代に入って文章得業生(もんじょうとくごうしょう)・文章生の受験が事実上秀才試に一本化されて以後は,秀才の策試に対する対策となる。策問(問題文)と対策(答案)の文章の実例は,「経国集」「都氏文集(としもんじゅう)」「菅家文草(かんけぶんそう)」「本朝文粋(もんずい)」「本朝続文粋」「朝野群載」「桂林遺芳抄」などにみることができる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
令制の官吏登用試験において、貢人(ぐにん)(国学からの推挙者)と挙人(こにん)(大学からの推挙者)が、出題された「策」に「対(こた)」えること。とくに秀才、進士(しんし)の二つの試験で出題される問題はそれぞれ方略策(ほうりゃくのさく)、時務策(じむのさく)と呼ばれた。平安時代に入って文章得業生試(もんじょうとくごうしょうし)が成立すると、対策は秀才試を受験することを意味するようになった。
[古藤真平]
『桃裕行著『上代学制の研究』修訂版(1994・思文閣出版)』
…また文章生の希望者が多いので,文章生候補者として,擬文章生20人が置かれた。そして学生は大学寮の寮試を受けて擬文章生となり,次に式部省の省試を受けて文章生となって,やがて種々の官職につき,一部は文章得業生から〈対策〉という作文の試験を経て,文筆の官職につく例で,多くの文人があらわれた。しかし紀伝道の最盛期は平安中期で,以後はしだいに形式化し,すぐれた作品も生まれないようになった。…
※「対策」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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