出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
尿毒症とは、腎機能の低下により起こる臓器、組織、さらには細胞機能(はたらき)の障害と、体液異常により起こる症候群の総称です。いい換えれば、
腎臓には老廃物を排泄する以外に、水、電解質(ナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、リンなど)のバランスや酸塩基平衡の維持、ホルモンの産生および不活性化(はたらきを終わらせること)の機能などがあります。尿毒症では、これらの腎臓の機能すべてが阻害されています。
食べ物の多くは、体内で代謝され、大部分は水と炭酸ガスになります。蛋白質などは
●水、電解質の異常
ナトリウムやクロールの蓄積は体内の水分の増加をもたらし、高血圧、浮腫(むくみ)、心不全などを起こします。カリウムの増加は不整脈を、カルシウムやリンの異常は
腎不全によるリン酸、有機酸の蓄積とアンモニアの生成・排泄障害、水素イオンの排泄障害などは、代謝性アシドーシス、骨代謝異常、アルブミンの合成低下、筋力低下などを来します。
●血液の異常
尿毒症に伴う貧血を
●骨代謝異常
リンの排泄障害により高リン血症、また腎臓のビタミンDの活性障害により、腸からのカルシウム吸収や骨吸収、腎臓でのカルシウム再吸収が低下し、低カルシウム血症となります。その結果、二次性副甲状腺機能亢進症となり、さらには代謝性アシドーシスも加わって腎性骨異栄養症が発生します。そのため骨折、骨格の変形、骨・関節の痛みが起こります。さらに、異所性石灰化(血管や心臓の弁などの石灰化)などが起こり、生命予後まで悪くします。
●免疫の異常
尿毒症では免疫不全の状態となっているため、感染しやすく、またワクチンなどによる免疫獲得率も弱くなっています。
●代謝系の異常
インスリン抵抗性や膵臓の
また、アミノ酸代謝異常、代謝性アシドーシス、尿毒性物質の蓄積などで体内の蛋白質の分解が亢進している状態であり、さらに食欲不振などによるカロリー不足となり、栄養障害やビタミン不足の状態になりやすいといわれています。
●神経と内分泌の異常
尿毒性物質の貯留によると思われる神経精神異常が認められます。眠気から意識障害や精神症状まで程度も症状もさまざまです。
内分泌系の障害として、性機能障害(性ホルモンの低下)、成長障害(成長ホルモンの異常)、甲状腺ホルモンの異常も指摘されています。
以上のように、腎臓が障害されると全身にさまざまな影響を及ぼすことがわかると思います。これらの病態は、必ずしもすべての患者さんに同じように現れるものではなく、尿毒症になった原因の病気やその病態によって異なり、また尿毒症になるまでの治療などによって変わってきます。
福井 光峰, 富野 康日己
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
高度の腎臓障害によって全身的な臓器症状を起こした状態をいう。急性または慢性腎不全の進行した状態で起こる。腎臓のおもな機能には老廃物のろ(濾)過,体液の調節(酸塩基平衡と電解質の調節),内分泌作用の三つがある。これらの機能が障害されるために,下記のような種々の障害が発生する。まず,ろ過作用の障害によって,代謝産物が体内に異常に蓄積する。これらの物質を尿毒症性毒素と総称するが,尿毒症性毒素のうち最も重要なものはタンパク質代謝産物で,尿素,クレアチニンなどがあり,これらの蓄積によって,幻覚などの中枢神経症状をはじめ,胃腸症状,肺水腫,心不全などの心肺症状,貧血,皮膚症状,出血を起こす。電解質代謝の異常は高血圧,水腫,低ナトリウム血症による意識障害,高カリウム血症による心不全などを起こし,酸塩基平衡の破綻(はたん)はアシドーシスを起こす。また内分泌機能の低下によって,高血圧,貧血を起こす。治療は腎不全の場合と同様,透析療法などを行う。急性腎不全による場合は可逆的で回復する可能性も大きいが,慢性腎不全による場合は,一時的に症状が回復しても,一般に予後は不良である。
→腎不全
執筆者:菊池 祥之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
腎(じん)機能不全が進行すると尿量が減少し、また腎臓が有する体液の性状(量の分布、イオン組成、酸塩基平衡など)を一定に保つことが不可能となり、尿成分が血液中にたまってくる。そのために中毒様の脳および胃腸症状をはじめとして全身の諸臓器の機能障害による症状を呈する状態を、尿毒症という。慢性腎炎の末期、高血圧による腎硬化症、痛風・糖尿病などの末期、女性に多い膠原(こうげん)病、尿路の通過障害(前立腺(せん)肥大症)などが原因となる。そのほか、急性腎炎、中毒、脱水症、低血圧、両側上部尿路結石で著明な乏尿が1週間くらい続くと、急性に尿毒症状を呈することがある。
元来、尿毒症は緩徐漸進的に発症するもので、初期には口が渇き、舌苔(ぜったい)が著しく、食欲不振となり、疲労しやすく、嗜眠(しみん)性であるが安眠できない。やがて吐き気、嘔吐(おうと)がおこり、また胃腸カタルを伴い、鼓腸や下痢が現れ、腸に潰瘍(かいよう)を生ずるために血便を排出することもある。四肢のけいれんをおこすことはあるが、全身的なけいれんはない。さらに進行すると、昏迷(こんめい)・昏睡に陥り、ついには心不全や脳血管障害のために死亡する。
慢性腎炎や高血圧によるものは治癒の望みはまずないが、中毒や尿路障害によるものは救命の可能性がある。安静と保温に注意し、タンパク質を強く制限し、強心・利尿剤を投与し、瀉血(しゃけつ)、輸血、リンゲル液、ブドウ糖液の注射を行う。人工腎臓、腹膜灌流(かんりゅう)によって症状を緩解させることもできるが、それ以外は腎移植によるほかない。
[加藤暎一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…尿にはタンパク尿,血尿がみられ,血中尿素窒素は増加する。尿の排出機能の低下から,尿毒症の症状を呈する。このような症状を示す時期を〈乏尿期〉というが,ふつう1~2週間,長くても約1ヵ月で,症状は改善に向かう。…
※「尿毒症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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