文化人類学者。北海道生まれ。1955年(昭和30)東京大学文学部国史学科卒業。1960年東京都立大学(現、首都大学東京)大学院社会科学研究科修士課程修了。同大学院博士課程進学後、1963年ナイジェリア、イバダン大学講師としてアフリカへ渡る。帰国後、1965~1968年東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所講師、1968~1973年助教授、1973~1994年(平成6)教授、その間1989~1992年所長。定年退官後、1994~1997年静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授、1997~1999年札幌大学文化学部長、1999~2003年同大学学長。海外で教鞭(きょうべん)をとることも多く、パリ大学ナンテール分校(現、パリ第十大学)客員教授(1970)、メキシコ大学院大学客員教授(1977)などを務める。日本民族学会会長、国際記号学会副会長を歴任し、アメリカ記号学会名誉会員、トロント記号学サークル名誉会員、日本民族学会名誉会員に選出されるなど、世界的に活躍。
レビ・ストロース、エリアーデなどの論文10編を収録した『未開と文明』(1969)の編著者としての仕事を皮切りに、『本の神話学』『アフリカの神話的世界』『人類学的思考』(以上1971)など、従来のアカデミズムの枠を超えた著作を執筆。世界は周縁的な要素によって活性化されるとする「中心と周縁」理論を基軸に、「道化」や「トリックスター」といった中心と周縁を転換させるキャラクターをモチーフとして、多彩な議論を展開した。
山口は「世界の多様性」をさまざまな方法で論じ、それまでの人文・社会科学の分野において一般的であった認識を揺るがした。すなわち、学術的な観察や記述によって単一のものへと収斂(しゅうれん)する「客観的な世界像」を、場や状況、個々人の感性やキャラクターによって「異なる相貌(そうぼう)を帯びる宇宙」として把握する。山口の分析ジャンルは、言語、演劇、音楽、絵画、映画、書物、漫画、儀礼、メディア、遊び、見世物など文化全般にわたり、研究地域も地球規模である。
そのほかの著書としては、世界の著名な文化人との議論をインタビュー形式でまとめた『二十世紀の知的冒険』(1980)、『知の狩人――続・二十世紀の知的冒険』(1982)、記号論の分野で「詩的言語」の重要性を論じた『文化の詩学』(1983)、日本への文化人類学・民俗学的アプローチを試みた『天皇制の文化人類学』(1989)、『「挫折」の昭和史』『「敗者」の精神史』(ともに1995)、『内田魯庵(うちだろあん)山脈』(2001)などが広く知られる。また音楽や絵画にも造詣が深く、世界各地のフィールドワークの際に自ら描いたスケッチを集めたものに『踊る大地球――フィールドワーク・スケッチ』(1999)がある。
文学芸術オフィシエ勲章(1989、フランス)、パルム・アカデミック勲章(1994、フランス)受章。2011年文化功労者。『「敗者」の精神史』で大仏次郎(おさらぎじろう)賞(1996)受賞。日本におけるニュー・アカデミズムの知的水源として知られ、浅田彰、中沢新一をはじめ、若い世代に与えた影響力は計り知れない。
[織田竜也 2019年1月21日]
『山口昌男編著『二十世紀の知的冒険――山口昌男対談集』(1980・岩波書店)』▽『山口昌男編著『知の狩人――続・二十世紀の知的冒険』(1982・岩波書店)』▽『『人類学的思考』(1990・筑摩書房)』▽『『「挫折」の昭和史』『「敗者」の精神史』(以上1995・岩波書店/ともに上下、岩波現代文庫)』▽『『踊る大地球――フィールドワーク・スケッチ』(1999・晶文社)』▽『山口昌男編著『未開と文明』新装版(2000・平凡社)』▽『『内田魯庵山脈――〈失われた日本人〉発掘』(2001・晶文社/上下、岩波現代文庫)』▽『『山口昌男著作集』全5巻(2002~2003・筑摩書房)』▽『山口昌男著『本の神話学』『歴史・祝祭・神話』(中公文庫/岩波現代文庫)』▽『山口昌男著『道化的世界』(ちくま文庫)』▽『山口昌男著『道化の民俗学』(ちくま学芸文庫/岩波現代文庫)』▽『山口昌男著『文化と両義性』『天皇制の文化人類学』(岩波現代文庫)』▽『『文化の詩学1、2』(岩波現代文庫/ちくま学芸文庫)』▽『『アフリカの神話的世界』(岩波新書)』
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