出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
詩人。明治17年1月10日、群馬県に生まれる。本名土田八九十(はくじゅう)。東京・築地(つきじ)の聖三一神学校卒業。伝道師として東北各地を放浪のかたわら、前田林外らの『白百合(ゆり)』に木暮流星の筆名で短歌を投稿、創作活動を始め、1910年(明治43)人見東明(ひとみとうめい)らの自由詩社に参加、機関誌『自然と印象』に『航海の前夜』その他を発表する。以後『文章世界』『創作』『早稲田(わせだ)文学』などを舞台に、精力的に詩作を続けた。処女詩集『三人の処女』(1913)を刊行後、萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)、室生犀星(むろうさいせい)らと人魚詩社(1914)をおこし、『卓上噴水』(1915)を創刊するなど、文学と信仰のはざまを大きく揺れ動きながらも、生の苦悩と覚醒(かくせい)を基調とした独自の詩風を確立した。おもな詩集にシュールな詩風で知られる『聖三稜玻璃(せいさんりょうはり)』(1915)、「人間」キリストを主題とした『風は草木にささやいた』(1918)、『梢(こずえ)の巣にて』(1921)のほか、『雲』(1925)、遺稿詩集『月夜の牡丹(ぼたん)』(1926)などがある。小説、童話なども手がけた。大正13年12月8日没。
[原 子朗]
『『山村暮鳥全集』全二巻(1961、62・弥生書房)』▽『『山村暮鳥全詩集』(1976・弥生書房)』▽『『山村暮鳥』(『近代文学研究叢書23』所収・1965・昭和女子大学)』▽『和田義昭著『山村暮鳥と萩原朔太郎』(1976・笠間書院)』
(及川茂)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
詩人。群馬県生れ。本名土田八九十。繭の仲買商だった父が事業に失敗,小作農としての貧窮の生活を幼少年期に過ごし,工員ほか多くの職を転々,16歳のときに年齢をいつわって小学校の代用教員などもした。1902年6月前橋聖マッテア教会にて受洗。翌03年東京築地の聖三一神学校に入学し08年卒業。以後秋田県横手をはじめ湯沢,仙台,水戸,福島県平,ふたたび水戸と聖公会伝道師として各地に転任。18年秋結核のため喀血,翌年より伝道師の職を休職,終焉の地茨城県磯浜にその晩期を過ごすこととなる。その詩作活動は処女詩集《三人の処女》(1913)を経て《聖三稜玻璃(せいさんりようはり)》(1915)に至り,その清新異風の詩調は近代詩史に一紀元を画すものとみられたが,第3詩集《風は草木にささやいた》(1918)では人道主義的作風に転じ,さらに病没直後に刊行の詩集《雲》(1925)に至っては枯淡な東洋的詩境へと転じていった。詩作のほか童話,童謡の制作も逸することはできぬが,その生涯をつらぬく文学と宗教,さらには伝統的心性と信仰をめぐる二元葛藤の相は,近代詩史上にも稀なるものとして注目される。
執筆者:佐藤 泰正
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