山と林,樹木の多く生えている山。山林に入り,不自由を耐えて仏道の修行に励むことを〈山林斗藪(とそう)〉といったが,山林は聖地であり,アジールとしての性格を持っていた。平安末期から中世を通じて,領主の非法,横暴に抵抗して逃散(ちようさん)する百姓たちは,〈山林に交わる〉〈山野に交わる〉といって実際に山林にこもっており,山林は逃亡する下人・所従の駆け入る場でもあった。戦国時代になると〈延命寺へ山林申候〉〈悪党以下,山林と号して走り入る〉〈女山林〉などのように,〈山林〉という語それ自体が,アジール的な寺院へ駆けこむ行為を意味するようになるとともに,百姓たちが家や田畠に篠(ささ)を懸け,そこを〈山林不入の地と号し〉,領主が立ち入れないようにしたことから見て,アジールとしての性格を持つ寺院や聖域そのものも〈山林〉といわれたのである。近世になると〈山林に交わる〉という言葉はしだいに,〈山に上る〉〈山に登る〉から〈山上り〉という表現になっていく。
執筆者:網野 善彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…逃散する農民は,通常領主に対し年貢の未進,出挙(すいこ)による負債をおっており,領主はその債務をつぐなわせるために,逃散したものの家・田畠などを没収するとともに,その本人を身代(みのしろ)としてとるために追求したのである。そのため逃散農民は,まずアジールとして存在した山林へ逃げ込んだのであり,そのため当時逃散のことを〈山林に交わる〉〈山野に入る〉と称したのである。やがて農民はこの手段を拡大させ,逃散中の家屋敷・田畠のまわり,さらには村落・荘園の入口などを篠(ささ)や柴でおおい,その場所を山林不入地としてしまう〈篠を引く〉〈柴を引く〉と称する作法を形成し,領主側の役人が強制執行することを拒んだのである。…
…百姓山,百姓持山,百姓控林,百姓抱山ともいう。いずれも近世農民の占有に属した山林で,その多くは居屋敷続きまたは控え田畑などの周辺に点在した。大部分は自家の植栽・買得にかかるもの,数代にわたって私有した実績のある山林であるが,村持山の分割によって取得した百姓山も少なくなかった。…
※「山林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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