山水(読み)さんすい

精選版 日本国語大辞典 「山水」の意味・読み・例文・類語

さん‐すい【山水】

[1] 〘名〙
① 山と水。山と河。また、自然地理的な山河から転じて、世俗的人間社会と対比される自然界一般をいうことがある。
※懐風藻(751)遊龍門山〈葛野王〉「命駕遊山水、長忘冠冕情」 〔魏志‐賈詡伝〕
② 視覚的な景観に重きをおいて、山と水とのある景色。自然の風景。
※懐風藻(751)侍宴〈守部大隅〉「聖衿愛韶景。山水翫芳春」
草枕(1906)〈夏目漱石〉三「自から烏有(ういう)の山水を刻画(こくくゎく)して」
※山槐記‐治承四年(1180)一〇月九日「雖南殿、山水障子可何難哉」
咄本・軽口御前男(1703)二「床にかかりし雪舟の山水(サンスイ)掛物を見て」
※作庭記(1040頃か)「よりくる所々に風情をめぐらして、生得の山水をおもはへて」
⑤ 山中にある水。やまみず。たにがわ。〔日葡辞書(1603‐04)〕 〔戦国策‐楚策・頃襄王〕
⑥ 酒。
※経覚私要鈔‐宝徳二年(1450)八月六日「就其雖軽微憚入候、山水二双・一種令覧之候」
[2] 〘形動〙
① わびしいさま。物さびたるさま。おちぶれてみすぼらしいさま。貧しげなさま。
評判記色道大鏡(1678)一「山水 物のさびたる事に云ふ。少分なる事にもいふ」
※咄本・軽口居合刀(1704)四「さんすいなる者ありしが、洗濯をしたく思へど着がへなし」
② 小粋な姿のさま。
※評判記・野良立役舞台大鏡(1687)小桜千之助「おひめさま役をうけ取村山座の太夫也。さんすいな事の目もとをたよりに」

やま‐みず ‥みづ【山水】

〘名〙
① 山と水。また、山と水の見える景色。さんすい。
源氏(1001‐14頃)若紫「山水に、心とまり侍りぬれど」
② 山から流れ出る水。山の水。山下みず。
※後撰(951‐953頃)恋一・五九〇「ゆく方もなくせかれたる山水のいはまほしくもおもほゆる哉〈よみ人しらず〉」
③ 「やまみずてんぐ(山水天狗)」の略。〔譬喩尽(1786)〕

せん‐すい【山水】

〘名〙 (「せんずい」とも) 日本式庭園で、築山(つきやま)を設け、池をうがったもの。また、山と水のある風景。さんすい。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「いみじく尽くして、れいの四季の絵なれど、めづらしきせんすいたんなど目馴れずおもしろし」

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デジタル大辞泉 「山水」の意味・読み・例文・類語

さん‐すい【山水】

[名]
山と水。山と水のある自然の景色。
築山つきやまと池とがある庭園。「かれ山水
山水画」の略。
山から出る水。やまみず。〈日葡
[形動ナリ]ものさびしいさま。みすぼらしいさま。
「―なる者ありしが、洗濯をしたく思へど着替へなし」〈咄・居合刀・四〉
[類語]山海山川山野野山自然天地てんちあめつち山河さんが山川草木さんせんそうもく生態系ネーチャー

やま‐みず〔‐みづ〕【山水】

山から流れ出る水。
山と水。また、山と水のある風景。さんすい。

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改訂新版 世界大百科事典 「山水」の意味・わかりやすい解説

山水 (さんすい)
shān shuǐ

山水は自然のかたちであり自然そのものである。唐末に風景という用語もあるが,それは風と光とを意味し,中国人は自然をそこまで非実体化し抽象化することはなかった。《山海経(せんがいきよう)》は山々に神々が住むことをいうが,竜身,蛇身,魚身の神々も多く,山神であると同時に水神でもあろう。神話的世界の神としては洪水神が最も古いが,夏系の鯀(こん)や禹が魚身から熊に変じて治水を行ったとか,竜身の共工という洪水神をもつ羌(きよう)族は嵩(すう)岳を祖神とするといったように山神・水神は対をなしているようで,苗系の女媧(じよか)・伏羲(ふくぎ)の説話のように破壊と復活を意味し,山水は神と帝,聖と俗といった観念でとらえられていたかもしれない。孔子が〈知者は水を楽しみ,仁者は山を楽しむ。知者は動き,仁者は静かなり〉というとき,山を本体とし水をその働きとするような古代的自然観を述べているのではないだろうか。

 かくて山水は世界構成の根幹として世界観の変遷とともにその意義を変じた。殷の奉じたらしい太陽神,周の奉じた天によって神話の神々がその光芒を失ってくると,四岳とか五岳といった世界構成的山岳観があらわれ,天地的世界観,古帝王の系譜,西方世界への夢をのせて崑崙山があらわれ,これは祖霊の帰るところとして楚墓や漢墓の帛画(はくが)や漆画に関係づけられる。漢の博山炉もこのようなイメージの系譜につながるであろう。古い神話的イメージは老荘の思想や説話の中にある程度保存されているが,老荘の哲学が流行した東晋には,顧愷之(こがいし)が〈雲台山記〉で三山構成の霊山表現を示した。次いで南朝の宋に入って老荘の哲学が退潮し,その母体となった山水が文学的に豊かに表現されると,宗炳(そうへい)が〈画山水記〉で神仙の眼を借りた写実的な山水表現の方法を示した。唐になると旅行の山水(蜀道山水)が,宋には居住山水(胸中丘壑)が,それぞれ中世末と近世の自然観を示している。しかし《林泉高致》にもなお共工が地を傾けた神話や盤古の屍体化生説話の余映がみられ,山水における実体的志向を支えている。
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普及版 字通 「山水」の読み・字形・画数・意味

【山水】さんすい

山と水。その景。宋・軾〔将(まさ)に湖州に之(ゆ)かんとす~〕詩 餘杭は自ら是れ山水の窟 側(ほの)かに聞く、興はなりと

字通「山」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の山水の言及

【山水画】より

…山や水といった個々具体的な表現素材を駆使して構成される,全体としては理想的な山水の画。いわゆる風景画とは異なる。…

※「山水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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