日本大百科全書(ニッポニカ) 「巣(動物)」の意味・わかりやすい解説
巣(動物)
す
動物が隠れたり、休息、交尾、産卵(子)、子育てなどをするために、かなり恒常的に使用する場所をいう。とくに鳥類で巣をつくる習性が発達している。これは、乾燥した陸上で卵生・抱卵という特異な繁殖形態を採用し、卵や雛(ひな)を外敵や悪天候から保護しなければならなかったことと関連があるだろう。
鳥類のほとんどの巣はこのように産卵・育雛(いくすう)のためのものであるが、それらは単なる既存の場所の利用から、動物自身がなんらかの手段でつくりあげる方向へ進化してきたものであろう。たとえば、古いタイプの非スズメ目の鳥の多くが、地上や岩棚や樹洞で巣材を使わないでそこを巣としたり、小枝や草の茎だけで単純な構造の巣をつくるものが多く、一方、スズメ目で造巣技術が多岐にわたり高度化していることは、先の仮説をよく裏づけている。
しかし、鳥類でも、旧世界のカッコウ類に代表される托卵(たくらん)性の鳥はまったく巣をつくらないし、腹と足で一卵を挟んで抱卵するコウテイペンギンやオウサマペンギンも巣をつくらない。さらに、オーストラリアやニュージーランドのニワシドリ類は交尾のためだけの場所として雄が飾りたてた巣をつくり、産卵・育雛のための巣は、雌が別につくる。
鳥の巣は水面(カイツブリなど)、地上(キジなど)から、地上30メートルもの高さまでつくられるが(ツバメなど)、大部分は地上1.8~2.4メートルの間にある。形は上部が開いた椀(わん)形(ホオジロなど)のものが代表的であるが、なかには朽ち木に穴を掘るもの(キツツキなど)、既存の樹洞に巣材を詰めるもの(シジュウカラなど)、土手に深い横穴を掘るもの(カワセミなど)、土や腐植質で塚をつくるもの(ツカツクリ)、つり巣をかけるもの(オオツリスドリなど)がある。
一般に鳥は産卵のたびごとに新しい巣をつくるが、これは、雛がすでに巣立った巣に残された病原菌や寄生虫を避けるためであろう。しかし、繁殖シーズンが短いなどの理由で旧巣を利用するものも少なくない。
哺乳(ほにゅう)類では、オランウータン、チンパンジーが樹上につくる寝場所(ベッド)も巣とよばれている。一般にかなり成熟した子を産む種(大形草食獣、ノウサギなど)は巣をつくらないが、未熟な子を産む種(肉食獣)は産室・育児室としての巣をつくる。リスは樹上に、ムササビ、モモンガは樹洞内に、カモノハシ、モグラ、ハタネズミ、アナグマ、アナウサギなどは地中のトンネル内に、ビーバー、マスクラットなどは水上に巣がつくられる。
両生類では、南米産のスゴモリガエルが浅い池などの水底に泥を使って巣をつくる。
魚類では、トゲウオ類の雄がイネ科の茎や根の切れ端で球形の鳥の巣に似た巣をつくり、雌がその中に産卵する。カワスズメ科のある魚は、雄が砂粒を運んで噴火口状の巣をつくり、そこで雌に産卵させる。こうした魚では、受精卵や稚魚は雌が口内で育てる。
昆虫では、アリ、ハチ、シロアリの巣がその階層化した社会性とともによく知られている。これらの巣は育房、貯蔵室、通路などを含み、トックリバチのとっくり形の巣のように、育児室だけの働きをもつ巣とはすこし構造が異なる。社会性ハチ類の巣は、女王が娘バチを働かせて大きくしていく場合と、血縁のない複数の雌(女王)たちが共同して創設し始める場合があり、後者は外敵の多い環境で進化したと考える人もいる。また、クモの巣は、クモがかけた網状のわなにすぎず、これまでみてきたような産卵(子)、育雛(子)に関する巣とは異なっている。
[山岸 哲]