改訂新版 世界大百科事典 「工作物責任」の意味・わかりやすい解説
工作物責任 (こうさくぶつせきにん)
建物の崩壊など工作物に起因する事故につき,工作物の設置または保存に瑕疵(かし)がある場合に成立する特別の賠償責任(民法717条)。ここに瑕疵とは,工作物が通常備えるべき安全な性状や設備に欠ける場合を指し,過失の存在を要しない。この責任を第1次的に負担するのは工作物の賃借人など占有者であるが,占有者は無過失を立証すれば免責され,この場合には,所有者が責任を負う。つまり,瑕疵がある以上,所有者は自己に過失がなくても責任を負わねばならず,その責任は一種の無過失責任である。これは危険責任,すなわち危険物を占有・所有する者は危険物から生じた事故について責任を負うのが公平である,との考えに立っている。危険責任の法理は被害者に有利であり,その活用が図られている。しかし,工作物から生ずる事故にしか適用できず,これが危険責任の制約である。工作物は土地に接着した物であることが必要であり,トンネル,造成地や崖の擁壁,ガスタンクがその例であり,最近では,プロパンガスの容器も工作物とされている。
執筆者:國井 和郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報