左官(読み)サカン

デジタル大辞泉 「左官」の意味・読み・例文・類語

さ‐かん〔‐クワン〕【左官】

宮中を修理する職人木工寮さかんとして出入りを許したところから》壁塗りを職業とする人。かべぬり。しゃかん。
[類語]大工鳶職宮大工船大工叩き大工

しゃ‐かん〔‐クワン〕【左官】

さかん(左官)

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精選版 日本国語大辞典 「左官」の意味・読み・例文・類語

さ‐かん‥クヮン【左官】

  1. 左官〈今様職人尽百人一首〉
    左官〈今様職人尽百人一首〉
  2. 〘 名詞 〙 ( 宮中の修理に、仮に木工寮の属(さかん)として出入りを許したところからいう ) 壁を塗る職人。かべぬり。塗大工。
    1. [初出の実例]「きよめねば蜘の巣となる大工小屋〈貞徳〉、左官がすまふ壁はあたらし〈安静〉」(出典:俳諧・紅梅千句(1655)八)

しゃ‐かん‥クヮン【左官】

  1. 〘 名詞 〙 壁を塗る職人。さかん。しゃかんや。〔羅葡日辞書(1595)〕
    1. [初出の実例]「桶屋もなアさる。左官(シャクヮン)もなアさる」(出典:滑稽本浮世床(1813‐23)二)

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改訂新版 世界大百科事典 「左官」の意味・わかりやすい解説

左官 (さかん)

土壁,しっくい壁などを塗る職人。壁塗(かべぬり),壁方(かべかた),壁大工,壁工,あるいはなまってシャカンともいう。壁塗り職の分化は,すでに令制において土工司(つちたくみのつかさ)がおかれ,泥部(はつかしべ)と泥戸(ぬりこ)が所属していた。左官の語の用例は1605年(慶長10)7月25日の《宇都宮大明神御建立御勘定目録》の〈左官作料〉という記事が古く,1610年から30年(寛永7)ころには壁塗,壁屋,左官が混用され,1640年ころからは,徳川幕府の文書に壁方とあるなど他の用例もあるが,左官がおもに用いられるようになる。語源については,《雍州府誌》(1684)が語源を不明としつつ〈砂官〉がもとではないかとの説を示している。発音が共通するだけで根拠はない。《和訓栞》(1862)は〈佐官〉が古いとし,史,録,属,目などを〈佐官〉と読むとしており,《守貞漫稿》(1853)は内匠寮(たくみりよう)や木工寮(もくりよう)の属(さかん)が壁塗の仕事をしたので〈左官〉の字を用いたとしている。この両文献がいうように奈良・平安時代の木工寮などの官名を語源とみる説は古くからあり,《大言海》(1937)が,禁裏の工事の際に無官では出入りできぬため属に任官させたので〈左官〉というとの説を紹介しているのもその一つである。しかしこの説は,壁塗り職人だけが無官だったわけではないから成立しない。このように語源は不明だが,日本建築では土壁,しっくい壁が重要な役目を果たしたために,左官は大工や鍛冶とともに長い間重要な存在であった。ことに近世以降は,塗籠(ぬりごめ)造,土蔵造の発達にともなって左官職が一般化した。しかし現代では土壁の需要がしだいに少なくなり,コンクリートの仕上げの一部やタイル張りを担当するなど,その仕事内容も変質を余儀なくされている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「左官」の意味・わかりやすい解説

左官
さかん

もとは壁塗(かべぬり)といい、大工(番匠)とともに11世紀に独立した建築の専門職人。寺院の土の壁が住宅に応用され、さらに17世紀には防火のために土蔵(どぞう)が建築されるようになって仕事は多くなった。道具の鏝(こて)も、塗る材料や場所により鶴首(鶴頸)(つるくび)、柳葉(やなぎば)などの形がくふうされ、漆食(しっくい)が使われてきた。19世紀後半からの近代になって、モルタルプラスターなどの新しい壁材料が使われ、仕事の範囲は広げられた。大工とともに出職(でしょく)の典型であるが、多くは大工の下職(したしょく)である。なお左官というのは当て字で、古代において、建設官司の木工寮(もくりょう)の属(さかん)(四等官の最下位)という資格で仕事をしていたことによる。

遠藤元男

 なお日本壁の左官の技術は、2020年(令和2)「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」17件中の1件として、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。

[編集部 2022年1月21日]


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百科事典マイペディア 「左官」の意味・わかりやすい解説

左官【さかん】

壁塗,泥工(でいこう)とも。壁を塗る職人で,古く内裏(だいり)の修理に木工(もく)寮の属(さかん)の官位を与えてあたらせたことに由来する名ともいう。大工と並ぶ古来の建築専門職人で,桃山時代の城郭建築や江戸時代の土蔵造などとともに技術的進歩をみた。
→関連項目棟梁

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日本文化いろは事典 「左官」の解説

左官

左官とは建築物の壁塗りを仕事とする職人の事です。土やセメントなどの素材を塗ったり、砂壁や漆喰〔しっくい〕(※)仕上げなどの最終的な表面仕上げを仕事としています。※漆喰・・・消石灰にふのりや苦汁〔にがり〕などを加え、糸屑・粘土(ねんど)などを配合して練ったもので日本独特の塗壁材料です。

出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「左官」の意味・わかりやすい解説

左官
さかん
plasterer

漆喰,プラスター,モルタルなどの壁塗工事を行う職人。桃山時代から使われ始め,江戸時代に一般化した。それ以前は土木,壁工,壁塗,泥工などと称されていた。中世において,宮中の壁塗工事のために木工寮の属 (さかん) として出入りさせたことによってこの名称が生まれたとされる。

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家とインテリアの用語がわかる辞典 「左官」の解説

さかん【左官】

土・漆喰(しっくい)・モルタルなどの材料で、建物の壁・床・天井を仕上げる職人。日本建築では、土蔵造りが発達した近世以降、大工と並ぶ重要な役割を担う。仕上げにはこてを使い、こて絵と呼ばれる工芸的なレリーフを作ることもある。近年は専用工具による吹き付け仕上げが多い。

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リフォーム用語集 「左官」の解説

左官

建物の壁や床、土塀などを、鏝を使って塗り仕上げる職種のこと。

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世界大百科事典(旧版)内の左官の言及

【左官】より

…壁塗り職の分化は,すでに令制において土工司(つちたくみのつかさ)がおかれ,泥部(はつかしべ)と泥戸(ぬりこ)が所属していた。左官の語の用例は1605年(慶長10)7月25日の《宇都宮大明神御建立御勘定目録》の〈左官作料〉という記事が古く,1610年から30年(寛永7)ころには壁塗,壁屋,左官が混用され,1640年ころからは,徳川幕府の文書に壁方とあるなど他の用例もあるが,左官がおもに用いられるようになる。語源については,《雍州府誌》(1684)が語源を不明としつつ〈砂官〉がもとではないかとの説を示している。…

【職業神】より

…この弘法大師がまた聖徳太子と混同して語り伝えられ炭焼きも太子様を信仰した。 関西以西では木樵,木挽,炭焼きのほかに大工,左官,石屋,桶屋などの職人ももっぱら太子様を信仰し,太子講を組んでまつりをした。これは農村の大師講すなわちダイシコウと区別してタイシコウと呼ばれ,祭日も大師講とちがっているのが普通である。…

※「左官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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