舞楽を分類するうえでの用語で,右方に対する。平安朝の宮廷社会では左大臣と右大臣のように,左右一対の制度があり,楽舞にも適用された。古代の日本へアジア諸国から種々の楽舞が伝承されたが,中国系統の楽舞を唐楽と称して左方に配し,朝鮮半島を中心とした系統を高麗楽(こまがく)と称して右方に配した。一般には仁明朝の楽制改革と呼ばれる左右両部の制度化は,今日に至る舞楽の伝承の基本となっている。近衛府における相撲,賭射,競馬などの勝負事も左右に分かれて競われたようだが,勝者をたたえて,左方と右方いずれかの舞楽を演奏する習慣があった。今日でも大規模な儀式には,左方と右方を一対として数組重ねる舞楽演奏を正式としている。左方の楽の特徴は〈唐楽〉の項を,左方の舞の演出上の特色は〈左舞(さまい)〉の項を参照されたい。
執筆者:高橋 美都
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…舞楽の各演目は,前奏,舞人の登場,当曲の奏舞,舞人の退場という4部分から構成される。そして左方(さほう)の舞楽においては,そのうちの当曲の部分は,ふつう一ないし四つの楽章からなり,二つ以上あるときには,序,破,急,詠,囀(てん∥さえずり)などの楽章名で呼ばれる。とくに,序・破・急は,その三つ全部がそろうことはまれであるにしても,しばしば用いられ,しかも順序はけっして前後しない。…
…少なくとも現在では,各地域別の個性よりも,この2分類によるスタイルの相違のほうが,舞,音楽ともに強く定着している。一方,舞楽上演の際,唐楽と高麗楽とを対(つい)にして演じたり,これを左方(さほう),右方(うほう)の楽舞に分類して儀式に用いたり,勝負事の催しに,勝った側の楽舞を行ったりするようになった。現在,唐楽系のほとんどの舞楽曲が,いわゆる左舞(さまい)に属し,高麗楽系のすべての舞楽曲が右舞(うまい)に属している。…
…頭装は,精好紗に黒漆をかけ下部を白布で縁どりした〈揉立烏帽子(もみたてえぼし)〉で,履物はふつう牛革を黒漆で塗り固めた浅い形の〈烏皮沓(うひぐつ∥くりかわくつ)〉を用いる。
[舞楽装束]
唐楽(とうがく),高麗楽(こまがく)等,外国から伝承した舞楽に用いる装束の総称で,襲(かさね)装束(別名唐(とう)装束,常(つね)装束とも),蛮絵(ばんえ)装束,別装束,童(わらべ∥わらわ)装束の4種があり,それぞれに左方(さほう)(唐楽系),右方(うほう)(高麗楽系)の別があって,左方はおもに赤系統の色,右方は青・緑系統の色のものが多い。(1)襲装束 中国唐代の遺制と思われるもので,舞楽の大半はこの装束を使用している。…
※「左方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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