改訂新版 世界大百科事典 「市場構造」の意味・わかりやすい解説
市場構造 (しじょうこうぞう)
market structure
産業組織論では伝統的に,企業の市場における行動と市場で達成される効率性つまり市場成果とは,企業が直面する環境に依存するという考え方をとっている。ここでいう市場の環境のうち,経済学的に重要な要因をいくつか統合して市場構造という概念で説明するのがふつうである。市場構造の要因としては特に次のようなものが重視される。第1に,市場における生産,販売,出荷などの集中の程度を示す市場集中度がある。市場集中度の高さは,しばしば企業が市場内でどの程度で相互に相手を意識して行動するか,そしてどこまで協調的な行動をとることが容易であるかを示す一つの指標とみなされている。したがって市場構造として集中度を観察することは,企業の市場行動と市場成果への構造の影響を分析する有力な手がかりを与える。第2に,製品差別化が市場構造要因として採り上げられる。製品差別化は,消費者が個別の企業あるいはその製品に対して,特定の嗜好あるいはグッドウィルを持っている状態を指すものである。企業の側からみれば,グッドウィルという無形の資産をストックとして保有していることに等しい。すると製品差別化の存在は,その水準の差異に応じて企業の行動に異なった影響を与えることが予想される。製品差別化の主要な源泉としては広告の役割が重視されている。そこで市場構造の実証的分析では,広告売上高比率などが製品差別化の程度を代理するものとして使われることが多い。第3の要因として,生産における規模の経済の存在があげられる。シルバーストン曲線に示されるような平均費用の低下は,生産の最小効率規模を決定する。この最小効率規模が市場全体の大きさに比して無視できないときには,効率的な生産を行いうる企業数は限定されることになるから,参入への有力な障壁(参入障壁)となる。以上にあげた諸要因と制度的な政府規制を同時に考慮して,市場構造の主要な骨格が形成されるということができる。
執筆者:南部 鶴彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報