改訂新版 世界大百科事典 「強心薬」の意味・わかりやすい解説
強心薬 (きょうしんやく)
cardiotonic
心筋の収縮力を高める薬物をいい,種々の原因で心臓の機能が低下している場合に用いる。狭義には心筋に直接作用して収縮力を高める薬物を指すが,広義には末梢血管に作用したり,中枢神経系への作用を介して間接的に心機能を高める薬物も含める。心筋に直接作用する強心薬には次のようなものがある。
強心ステロイド
ゴマノハグサ科の植物であるジギタリスの葉,キョウチクトウ科の植物ストロファンツスの種子,ユリ科の植物カイソウ(海葱)Urginea maritima Bakerなどの生薬が強心作用を示すことは古くから知られていた。強心薬としてのジギタリス葉はすでに17世紀のロンドン薬局方に記載されていたといわれ,ストロファンツスは1860年のリビングストンのアフリカ探検で紹介された。これらの有効成分は,いずれもステロイド骨格を有する配糖体であることが判明し,強心配糖体とよばれる。上記の主要植物以外では,スズラン,セイヨウキョウチクトウ,フクジュソウ,オモトなどにも含まれる。配糖体ではないが,ガマの皮膚腺分泌物から得られるブホタリン,ブホトキシンなども強心ステロイドである。現在では数多くの強心配糖体の化学構造が明らかにされているが,共通した構造はアグリコンまたはゲニンと呼ばれるステロイド構造部分に糖が結合した形である。糖がとれたアグリコンも強心作用を有するが,一般に作用は弱い。強心配糖体の薬理作用は,心筋収縮力の増強,心拍数の減少,利尿作用などであり,副作用として催吐作用,下痢などのほかに不整脈が重篤である。とくに低カリウム血症のとき不整脈を生じやすい。臨床的には心停止や鬱血(うつけつ)性心不全に用いられ,心送血量を増加させ心不全によって生じた浮腫や腹水を改善する。作用の強さや持続時間は,配糖体の種類によって生体内での動向が異なることとも関連して一様ではない。消化管からの吸収は概して遅い。ジギトキシンは100%吸収されるが,ウワバイン(ストロファンツスの種子などから得られる)は0%と極端に異なるものもある。排出が遅く蓄積性を示すものもある。
カテコールアミン類
アドレナリンなど分子構造にカテコールをもったアミンをカテコールアミンというが,本来は副腎から分泌される内因性のホルモンであるアドレナリンや,交感神経の伝達物質であるノルアドレナリンは強心作用をもつ。これらの物質は体内で速やかに分解されるので作用は短時間である。したがって臨床的には急性の心停止に用いる。不整脈(心室細動)を起こすおそれがある。
キサンチン誘導体
コーヒーやお茶の成分であるカフェインやこれと化学構造の類似したテオフィリン,テオブロミンなどが心筋収縮力を高める。利尿作用および中枢興奮作用も有する。安息香酸ナトリウムと等量混合した安息香酸ナトリウムカフェイン(通称,安ナカ)はカフェインの吸収をよくしたものである。
間接的に強心効果を現すものとしては,血管運動中枢に作用するとされるジモルホラミン,ニケタミド,カンフル,ペンテトラゾールなどがあげられる。
執筆者:重信 弘毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報