翻訳|conquest
ある集団が他の集団を武力によってその支配下におくこと。征服現象は,ある集団,民族,国家が一方的に他の集団,民族,国家を統合したり支配する過程で,また王国や帝国建設の過程で生じる。征服は,武力をもってする他者の支配領域取得という点から軍事占領と類似するが,暫定的な支配にすぎない軍事占領と異なり,相手の領域の移転が実効的かつ全面的である場合をいう。国際法上では,敵国領土全体を征服した後,それを併合する宣言と,併合の事実(抵抗する兵力の不在状態)とによって,領土の併合が生じる(征服的併合)。戦争はしばしば征服的併合をもって終了する。
征服は古くからみられる現象で,たとえば前3千年紀後半以降メソポタミアでの都市国家間で展開された帝国建設の過程にみられる。今日まで多くの征服およびその試みがなされてきたが,その征服の内容,規模,目的も,それぞれの時代によって異なる。一般的に征服の形態は,マクラウドW.C.MacLeodによると,次の二つに大別できる。(1)征服する側が征服される側に対して事実上の支配権を認めさせると同時に,経済的・軍事的義務を課するが,征服される側に対外関係以外の自治権を認めるもの。スパルタ支配下のペロポネソス同盟,イギリスのインド支配,条約に基づくアメリカのキューバや他のラテン・アメリカ諸国に対する支配などがその例である。(2)征服する側が征服される側に自治権を与えず,支配階級を駆逐し,支配地域を征服者側の一部として,その代理人によって支配させるもの。アッシリア支配下のメソポタミア,中国の秦,ゲルマン人によるローマ帝国西側地方の征服,スペインによるペルーやメキシコ征服などがその例である。
いずれの型の征服であれ,その後,征服する側は征服される側に対して政治的・社会的・文化的統一化および同化政策を試みる。そのため,征服する側の文化・社会制度が全面的あるいは部分的に征服される側に浸透していくものの,政治的抑圧や経済的差別がつづく限り,支配は完全なものにならない。征服される側の制度がどれだけ変容しようとも,その住民の意識構造それ自体を根本的に変えることは困難であり,征服される側の不満が存在する限り,征服する側への抵抗,反抗,それからの分離・自立が試みられる。今日,とりわけ第2次大戦後,政治的目的達成のための軍事力の機能低下,新興独立諸国の国際政治への登場と発言力の増大,民主勢力の強化などにより,征服行為は著しく困難なものとなっている。
歴史上の征服過程が物語るように,征服は一種の権力支配現象であるところから,国家の原始的起源や政治権力の発生と直接にかかわる現象であるとみなされがちである。国家征服説Eroberungstheorieとは,国家の起源を,強力な集団,種族または階級による弱小な集団,種族または階級に対する征服に求める考え方である。この考えは,グンプロビチ,ラッツェンホーファーGustav Ratzenhofer,オッペンハイマーFranz Oppenheimerら,とくに19世紀後半のオーストリア学派によって主張された。この学説は,なぜ征服が生じるかの原因については明確ではないものの,現象としての国家が支配・服従の政治権力関係で成り立っていることについては否定できないため,まったく無視してしまえる学説というわけではない。
執筆者:星野 昭吉
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征服conquestという語は、前人未到の山頂への到達や、未解決の難問の打開などの行為を表現するために用いられることがあるが、これは比喩(ひゆ)的な用語例であって、本来の意味は、ある国家や民族などの社会集団が他の社会集団を実力によって屈服せしめることである。国際法上の征服subjugationは、この事実に戦争終結と領域取得という二つの法効果を生じさせる。すなわち、征服によって戦争は講和条約を要することなく終結し、また敗戦国は国家的存在を失って消滅して、戦勝国の領域に併合される。1936年のイタリアによるエチオピア征服がこの例である。国際法上の征服が成立するためには、次の二つの要件がある。第一は、相手国領域に対する実力支配が実効的かつ確定的なことである。たとえ全領域を占領されても、同盟国がなお戦争を継続している場合には、その占領が排除される可能性が残っているから、征服の効果は生じない。第二に、戦勝国による占領地領有意思の表明が必要である。第二次世界大戦において、ドイツはいったん連合国に征服されたとする説もあるが、連合国は領有の意思を明白に否定したから、征服は実現しなかったとみるべきである。以上のような国際法上の征服の制度は、戦争が合法とされていた時代の産物であり、国連憲章によって武力行使が一般的に違法となった現在では、もはや領域取得の効果は認められないとする見方が強くなっている。
[太寿堂鼎]
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