心臓の不可逆的(永久的)な機能停止によってもたらされる死をいう。人体の臓器のうち,脳,心臓,肺の3臓器は生命の維持に直接関与する重要な臓器であり,このうち,どの一つの臓器の機能が停止しても,直接死につながる。したがって,いかなる死においても心臓はその機能を停止するが,死の直接の原因が心臓にあるとき,その死を心臓死と呼んでいる。
心臓の収縮が停止する原因には不整脈によるものと,低酸素血症,アシドーシス,重篤な心不全や心破裂などによるポンプ機能の失調がある。これらによる心臓の収縮の停止を心停止という。心停止が起こると,数秒から十数秒で意識が消失し,呼吸も停止して,蘇生術が成功しなければ,数分で脳に不可逆的変化が起こって,反射機能も消失して死に至る。不整脈による心停止を不整脈死というが,心停止の前兆となる不整脈には,心室頻拍,心房粗動,心室性期外収縮,房室ブロックなどがあり,心臓の調律が失われて心室細動や心室静止となり,血液の拍出は止まる。これらの不整脈は心筋梗塞(こうそく),心筋炎などによる重篤な心機能障害や高カリウム血症,ジギタリスなどによる薬物中毒などで起こり,いずれも急死の形をとる。心停止が起こったときは,ただちに人工呼吸や心臓マッサージなどの心肺蘇生術を行う必要がある。
なお,かつて日本では,原因不明の急性心臓死に対して,俗に〈心臓麻痺〉と称し,Herzlähmungというドイツ語をあてていたが,その概念はあいまいなため,現在,医学的には用いられていない。
→死 →脳死
執筆者:細田 瑳一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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