急性白血病(読み)キュウセイハッケツビョウ(その他表記)Acute leukemia

デジタル大辞泉 「急性白血病」の意味・読み・例文・類語

きゅうせい‐はっけつびょう〔キフセイハクケツビヤウ〕【急性白血病】

骨髄にある造血細胞が正常な血球に分化・成熟する能力を失い、異常な血液細胞が無秩序に増殖する病気。正常な血球をつくる機能が妨げられ、病気に対する抵抗力が低下し、貧血や出血を起こしやすくなる。腫瘍化する細胞の種類によって、急性骨髄性白血病急性リンパ性白血病に大別される。急速に進行し、放置すれば短期間で死に至る。治療法として化学療法放射線療法造血幹細胞移植などがある。→慢性白血病

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六訂版 家庭医学大全科 「急性白血病」の解説

急性白血病
きゅうせいはっけつびょう
Acute leukemia
(血液・造血器の病気)

どんな病気か

 血液は血漿(けっしょう)と呼ばれる液体成分(90%が水分)とそのなかに浮かぶ血球という細胞成分からできています。血球には体に酸素を運ぶ赤血球、体に侵入してくる病原体と闘う白血球、そして血管に付着して出血をとめる血小板などがあります。

 これらの血球はすべて骨のなかの空間(骨髄(こつずい))でつくられます。血球の製造工場である骨髄にはたくさんの造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)(血液の“種”の細胞)があります。この造血幹細胞は自分自身を複製するとともに骨髄のなかで分化・増殖・成熟を繰り返してさまざまな種類の血球となり、血液のなかに送り込まれます。

 このようにして人間の体では、血液中の各血球はなくなることなく常に生命維持に必要な数が保たれています。造血幹細胞が骨髄のなかで分化・増殖を繰り返して成熟した血球に成長してゆく過程に異常が起こる病気のひとつが急性白血病です。

 急性白血病では、造血幹細胞から成熟した血球となる過程の途中で成長することをやめてしまった不良品(芽球(がきゅう)または白血病細胞といいます)ができ、この不良品が骨髄中でどんどんと増えていきます。

 役に立たない不良品が血球の工場である骨髄の大部分を占めてしまうと、正常な血液をつくることができなくなります。増殖を続ける芽球はやがて骨髄からあふれ出て、肝臓や脾臓(ひぞう)などの臓器に浸潤(しんじゅん)して、塊(腫瘤(しゅりゅう))をつくったり、臓器のはれを起こします。

原因は何か

 抗がん薬や放射線などの治療のあとで起こる「二次性白血病(にじせいはっけつびょう)」もありますが、大部分の白血病の原因は不明です。

症状の現れ方

 急性白血病の症状は、正常な血液をつくることができなくなることによる症状と、芽球の増殖による症状に分けることができます(図3)。

 正常な血球(白血球、赤血球、血小板)をつくるスペースがなくなってしまうことによる症状には次のようなものがあります。

①体中に酸素を運ぶ赤血球が減ることで、倦怠感(けんたいかん)や体を動かした時の息切れなどが起こります。

②外から侵入してくる病原体と闘う白血球(顆粒球(かりゅうきゅう)やリンパ球)が減ることで、肺炎(はいえん)やそのほかの感染症が起こりやすくなります。急性白血病で感染症を起こした時には、高熱が唯一の症状であることが多いようです。

③血小板が減ることで出血が起こりやすくなります。けがをした時に血が止まりにくくなるだけではなく、何もしていないのにあざができたり、鼻出血(びしゅっけつ)が起きたり、重症な場合は脳出血や消化管の出血(胃、十二指腸などからの出血)が起こることもあります。

 一方、骨髄のなかに増殖した細胞はそこだけにとどまらずに血液のなかに流れていき、肝臓、脾臓、リンパ節、歯肉などのいろいろな臓器に浸潤して臓器のはれを起こすことがあります。また、芽球が集まって塊をつくり、その塊が神経などを圧迫していろいろな症状を示すこともあります。

検査と診断

 体の不調を訴えて病院を受診した時に、血液検査の異常(血球数の増加・減少、異常細胞の出現)により急性白血病が疑われます。白血病が疑われた場合は骨髄の検査を行い、診断を確定します。

 骨髄は血液の工場なので、本来であれば吸引した骨髄血のなかには、まだ若い造血幹細胞から出荷直前の成熟した細胞に至るまで、各成熟段階のさまざまな細胞がみられるはずですが、白血病の患者さんの場合、腫瘍化した未成熟な白血病細胞で埋めつくされています(図3)。

 急性白血病はその細胞の染色(ペルオキシダーゼ染色)の結果によって急性骨髄性白血病(AML)と急性リンパ性白血病(ALL)に大別され、さらに染色体、表面マーカーなどの検査結果によっておのおのが細かく分類されます。なぜ急性白血病を細かく分類することが大切かというと、個々の白血病によって治療法あるいは治療に対する反応性が異なり、治療方針を決定するのに役立つからです。

治療の方法

 急性白血病と診断されたあと治療しないで放置すると、数日から数週間で死亡します。したがって診断が確定すれば入院し早急に治療を開始する必要があります。

寛解(かんかい)導入療法

 治療はまず数種類の抗がん薬を組み合わせて投与する併用化学療法を行います。これを寛解導入療法といいます(図4)。

 この治療の目的は、骨髄中に満ちあふれる白血病細胞を百分の1から千分の1以下に減らし、骨髄にスペースをつくって正常の造血を回復させることです。白血病細胞が百分の1以下(顕微鏡では見つからない状態)になり、血球数が正常化する状態を完全寛解(CR)といいます。治癒という言葉を使わないのは、見えなくても体のどこかに白血病細胞がひそんでいる状態だからです。

 急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病では、寛解導入療法に使用する抗がん薬が少し異なります。

 骨髄性の場合はイダルビシンまたはダウノルビシンとシダラビンの併用が、リンパ性の場合はエンドキサン、ダウノルビシン(またはドキソルビシン)、ビンクリスチンプレドニゾロンシクロホスファミド、L­アスパラギナーゼの併用が一般的に行われています。骨髄性では65~80%、リンパ性では70~90%の割合で完全寛解が達成されています。

 しかし、いずれの化学療法も、白血病細胞を殺すのみならず、正常な血液細胞も障害してしまうので、抗がん薬投与後は一時的に血液がつくられない状態になります。赤血球、血小板は輸血で補うことができますが、白血球は輸血することができません。白血球の減少に伴って細菌、真菌(しんきん)(カビ)による感染症のリスクが高まるので、抗生剤、抗真菌薬を投与し、その予防および治療を行います。白血球を増やすG­CSF(顆粒球(かりゅうきゅう)コロニー刺激因子)という薬剤がありますが、G­CSFが白血病細胞を増やす可能性が低いと判断された時にのみ使用します。

 そのほかに、吐き気、嘔吐、脱毛、口内炎、下痢などの副作用が認められます。

●寛解後療法

 完全寛解したからといって、治療を中止してしまうと、体のなかにまだ残っている白血病細胞が再び増殖を開始し、白血病は再発してしまいます。したがって完全寛解が達成されたあとも、継続して体に残っている白血病細胞をゼロにするように治療を続けます。これを寛解後(かんかいご)療法といいます(図5表11)。急性リンパ性白血病では中枢神経に白血病細胞が残っていることが多いので、中枢神経を包んでいる液体(髄液)のなかに直接抗がん薬を投与することがあります。

 寛解後療法には化学療法を1~2年継続する方法と、化学療法に続いて造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)移植を行う方法があります。どちらを選択するかは白血病細胞の染色体異常、年齢、完全寛解達成までの時間などの因子を総合的に評価して決めます。再発のリスクが高いと思われる患者さんには移植を、再発のリスクが低い患者さんには化学療法を継続するのが一般的です。

 しかしこの方法では、再発のリスクを予測できない予後中間群の患者さんに関しては治療選択の指標とはなりませんし、これらの予後因子は必ずしも絶対的なものではありません。そこで最近では、完全寛解に入ったあとの水面下の白血病細胞の量を、白血病の遺伝子異常などを利用して明らかにするMRD(微少残存病変(びしょうざんぞんびょうへん))を用い、その推移をみて治療法を決定する試みもなされています。

治療成績

 急性骨髄性白血病の場合、病型によって治療成績は多少異なりますが、化学療法で20~50%、移植で40~70%の治癒が期待できます。再発した場合は化学療法だけでは治癒は期待できず、移植が唯一の根治治療となりますが、これによって20~50%の治癒が期待できます。

 一方、急性リンパ性白血病の場合、化学療法、移植による治癒率はおのおの15~35%、45~55%と急性骨髄性白血病と比べて少し劣ります。

新しい治療法

 化学療法も移植も、白血病細胞だけを選択的に攻撃する治療ではなく、正常な臓器や組織も同時に障害してしまいます。しかし、一部の急性白血病では、白血病発症のメカニズム(分子病態)が明らかにされ、その分子病態に的を絞った治療(分子標的(ぶんしひょうてき)療法)が試みられています。

 急性骨髄性白血病の一種である急性前骨髄球性(ぜんこつずいきゅうせい)白血病に対するオールトランスレチノイン酸(ATRA)療法はその代表例です。この内服薬によって90%の患者さんが完全寛解し、70~80%の患者さんが治癒しています。

 これ以外にも、急性骨髄性白血病の細胞表面に認められるCD33という蛋白質に特異的に結合する抗体に抗がん薬を結合させたマイロターグという薬剤も、治療に用いられ成果をあげています。

病気に気づいたらどうする

 血液検査の異常により急性白血病が疑われた場合は、早急に血液内科専門医のいる医療機関を受診し、精密検査と治療を受ける必要があります。

矢部 麻里子, 山根 明子, 岡本 真一郎


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「急性白血病」の解説

きゅうせいはっけつびょう【急性白血病 Acute Leukemia】

[どんな病気か]
 血液中の血液細胞は、骨髄(こつずい)でつくられます。初めは未熟ですが(芽球(がきゅう))、やがて成熟し、完全な細胞に分化します。急性白血病はこの成熟・分化の能力を失った未熟な細胞(白血病細胞(はっけつびょうさいぼう))が、骨髄内で無制限に増殖してくる病気です。
 このため、骨髄での血液をつくるはたらきが低下し、貧血(ひんけつ)、好中球減少(こうちゅうきゅうげんしょう)(「血液、造血器のしくみ」)、血小板減少(けっしょうばんげんしょう)といった血液組成の異常がおこってきます。また、悪性の細胞が血液の流れとともに全身をめぐるために、いろいろな臓器に侵入し、そこに障害をおこします。
 増殖する白血病細胞の種類によって、急性骨髄性白血病(きゅうせいこつずいせいはっけつびょう)と急性(きゅうせい)リンパ性白血病(せいはっけつびょう)に大きく分けられています。さらに、急性リンパ性白血病は3つに、急性骨髄性白血病は8つに分類されます(コラム「急性白血病の分類」)。
 骨髄性白血病とリンパ性白血病の割合は、おとなでは4対1、逆に子どもでは、1対4の割合になります。
■急性骨髄性白血病(きゅうせいこつずいせいはっけつびょう)
 白血球(はっけっきゅう)のうち、とくに顆粒球(かりゅうきゅう)となるはずの芽球ががん化します。ペルオキシダーゼ染色という特殊な検査で反応する芽球が3%以上ある白血病です。早期発見できれば、治癒(ちゆ)が可能です。
■急性(きゅうせい)リンパ性白血病(せいはっけつびょう)
 リンパ球ががん化し、血液や骨髄中で増殖します。ペルオキシダーゼ染色に反応する芽球は3%未満です。
[症状]
 疲れやすい、動悸(どうき)、息切れなどの貧血の症状のほか、発熱、寝汗(ねあせ)などがおこります。
 歯肉出血(しにくしゅっけつ)、鼻出血(びしゅっけつ)、皮下出血(ひかしゅっけつ)などをおこしやすい出血傾向(しゅっけつけいこう)がみられることも多く、とくに急性前骨髄球性白血病(きゅうせいぜんこつずいきゅうせいはっけつびょう)は出血がおこりやすいものです。
 また、胸骨(きょうこつ)(胸の中央に縦に長く触れる骨)を指先で軽くたたくと痛む叩打痛(こうだつう)、リンパ節の腫(は)れ、肝臓と脾臓(ひぞう)の腫れなどもおこります。
[検査と診断]
 診断には、血液検査と骨髄穿刺(こつずいせんし)が必要です。
●血液検査
 静脈から血液を採取して調べると、赤血球(せっけっきゅう)が減少している貧血と、血小板の減少がみられます。
 白血球数は、増加していることが多いのですが、3分の1の人は正常よりも減少しています。白血球中の悪性の白血病細胞の比率はさまざまです。
●骨髄穿刺
 骨髄に針を刺して骨髄の中の血液を微量採取して調べると、白血病細胞が多数見つかり、血液細胞をつくっている正常な細胞群が減少しています。この白血病細胞が多数見つかることが診断の決め手で、確実な診断には血液の専門医の助けが必要です。
 また、増殖している白血病細胞の種類がどれかを決めるには特殊な検査が必要なので、専門の機関で検査します。
[治療]
 血液専門医のいる病院でないと治療を行ないにくいものです。治療の目標は、いろいろな方法で白血病細胞を絶滅させ、正常な細胞の再生をはかることで、つぎのようにして治療を進めていきます。
 なお、お年寄りでは、薬の副作用や合併症をおこしやすく、治療がむずかしいことが多いため、生活の質(QOL)を配慮した治療が行なわれます。
●寛解導入療法(かんかいどうにゅうりょうほう)
 抗白血病薬を使用し、できるだけ白血病細胞を減少させることを試みます。
 抗白血病薬は、白血病細胞だけではなく、正常な造血細胞やその他のからだの細胞も障害することがあり、貧血、好中球や血小板の減少が一時的に悪化したり、嘔吐(おうと)、脱毛、肝障害などの副作用がおこったりします。
●支持療法
 白血病では、出血をおこしやすく、感染に対する抵抗力が低下するので、大量出血や細菌などの感染によって、ときに生命にかかわることがあります。このため、無菌室に入室したり、抗生物質を大量に使用したりして感染に対処し、たびたび輸血をして出血に備えたりします。
●地固(じがた)め療法(りょうほう)
 抗白血病薬が効いてくると、体内に1012個(1兆個台)以上あった白血病細胞が1010個(100億個台)以下にまで減少してきて、正常な血液をつくるはたらきも回復してきます。この状態を完全寛解(かんぜんかんかい)といいますが、この段階で治療を打ち切ってしまうと、必ず白血病細胞が再び増殖してくるので、106個(100万個台)程度に白血病細胞が減少するまで、治療を続ける地固め療法がたいせつです。
●維持強化療法
 完全寛解の状態を続けるために、抗白血病薬の使用など、必要な治療を続けます。
 最近では、体内に残存している白血病細胞を絶滅させ、治癒の状態にまでもっていくために、免疫療法(めんえきりょうほう)などがさかんに行なわれるようになっています。
●骨髄移植(こつずいいしょく)
 新しい薬剤の開発などにより化学療法の成績もあがっていますが、白血球抗原(はっけっきゅうこうげん)(HLA)の適合や患者さんの年齢・健康状態などの条件がそろえば、骨髄移植が検討されることもあります。
 白血球抗原の形が一致する骨髄提供者(ドナー)から採取した骨髄を、静脈から輸血することで移植します(同種骨髄移植(どうしゅこつずいいしょく))。移植後は、約1か月無菌室に入り、感染症や合併症の予防などの管理が行なわれます。
●予後
 治療の進歩によって、完全寛解の状態になる人は、増加しています。おとなに多い急性骨髄性白血病では、完全寛解の状態になる人が約80%で、子どもの急性リンパ性白血病では、完全寛解の状態になる子どもが95%を超えるほどです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の急性白血病の言及

【小児癌】より


[小児癌の種類]
 小児癌には多種類のものが含まれるが,主要なものは次のとおりである。(1)白血病 急性と慢性とがあるが,小児では95%以上が急性白血病である。白血病細胞がリンパ球に由来するものがリンパ性白血病で,骨髄細胞に由来すると考えられるものが骨髄性白血病(非リンパ性)である。…

【白血病】より

…すべての白血球が共通の母細胞(造血幹細胞)から生ずるところから,このような白血病の白血球は造血幹細胞にきわめて近いものと推定される。白血病はまた,自然経過の緩急によって,急性白血病と慢性白血病にも分けられる。急性白血病では,増加した白血病の白血球の大部分は未熟な形態を示す細胞(芽球)であり,慢性白血病では,未熟な細胞から成熟した細胞が段階的に増加していたり,成熟型がほとんどを占めていることが多い。…

※「急性白血病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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